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10・ ダリウスへの話

 カナリヤのような黄みの強いブロンドの髪を無造作に後ろに括って、粗末な男の成りをしているので化粧気の無い顔は少年のように見える。

 しかし、彼女は前国王の時代、謀反を起こしたボルチモア州の州候の娘だ。今も何を企んでのことか、慎重に対処する必要がある。ダリウスは慎重に彼女の連れに視線を移す。

 一人はまだ未成年ふうの痩せた少年で、赤味の強い茶色の髪だ。前髪は長いが全体は無造作に短く切ってある。

 こちらを真っ直ぐ見る青い瞳にある、皮肉っぽい光。これまたアリスローザと似たような格好だ。でも初めてのはずなのにどこかで見たような気がする。

 そして中年の魔道師。

 ここ、モンド州には魔道師が驚くほど少ない。この地がかつて魔道教の本山を抱えていたと言う経緯を考えると不思議なほどだ。

 以前この国が魔道師に支配されていた頃、他州で権威をふるっていた州宰たちはすべて魔道師だった。

 しかし、ダリウスの父親が統治していたこのモンド州は、例外的に州府に魔道師を置いていなかった。

 そして三年前、魔道師の祖、イーヴァルアイの死後、モンド州のゴート山脈にあった数々の廟から魔道師が消えてしまってから、この州は魔道師の気配が一段と薄くなった。

 そのせいか目の前にいるしょぼくれた感じの中年の男に何の感慨も抱けず、ダリウスはもう一度アリスローザに目を戻す。

「話だけは聞くとするが聞くだけに終わるかもしれないぞ」

 頬杖をついてダリウスは話しを促す。

「あなたのお父上のハーコート様が宰相の座を魔道師のコーラルに譲られた事はもうお聞き及びですよね」

 頷くダリウスを認めてアリスローザは話を続ける。

「魔道師のコーラルは魔道師が権力を持つことを復活させて国をのっとるつもりです」

「ばかな、何を言っている。国王陛下はそんなことをお許しなるはずがない」

「いいえ」

 ダリウスの言葉は即座にアリスローザによって遮られた。

「祭祀庁として権を手放したはずが、この度魔道師庁と名前を変えたことを知っておられますか。それを国王陛下はお許しになっておられるんです。いえ、その前に魔道師を宰相とされるのに是と答えておられる時点で国王陛下はコーラルの言うがままです」

「……それで?」

「このモンド州へハーコート様が向かっておられるのをご存知ですか、ダリウス様」

「父上が?」

 思っていなかった事にダリウスは大きく身を乗り出す。

「サイトスにダリウス様急病のため御身が重篤な状態であるとの知らせが入ったからです」

「まさか、誰がそのような」

「ハーコート様を快く思っていない者の仕業です」

 以前なら国内どこにいようとも竜道によってサイトスはおろか、どこの地の情報もわずかな時間で届いていたはずだ。だが、今は伏せられている事など間諜を使って調べる以外知りようがない。

「と、いうことは父上のお命が危ないと言いたいのだな」

「はい」

 思わず、全面的に信じそうになってダリウスはあやうく踏みとどまる。

「その話、裏づけがあるのだろうな。あなたの話だけでわたしが動くなどという事は出来ない」

 やはり、そうなるかとアリスローザは唇を噛んだ。自分の信用の無さと州事を預かる者としての当然の反応なのだろう。

 突然、黙って座っていた魔道師が立ち上がると窓辺に寄って窓を大きく開ける。

「ダニアン、一体何?」

 驚く皆の視線を集めながら魔道師は大きく手を広げた。そこへ飛び込んできたのは大型の鳥。

「ダリウス様、これをご覧になってから、あたしどもの話をお考えください」

 魔道師は鳥の足から一通の書簡を抜き取ってダリウスの机に置くと印を組んだ。

『解』声とともに鳥は一枚の羊皮紙に戻ってダニアンの手の上にふわりと落ちる。

あっという間の手妻のような出来事にダリウスは用心深く机に置かれた書簡を手に取った。

「この筆跡は父上の」


 書簡に書かれていた力強い角ばった特徴のある字は確かにダリウスの父親の物だった。

 何度も確かめるように彼はその書簡に目を通してから顔を上げてアリスローザと目をあわせた。

「これは確かに父上の書いた物だ。わたしは今から州兵を率いて父上をお迎えに行く」

「それはダメですよ。まるっきりダメです」

 ダリウスの思い詰めた声に今まで黙っていた若い男が否定の言葉で応じる。

「なぜだ、父上のお命が狙われているのだぞ」

「ダリウス様、考えてもみてください。モンド州が兵を立てて州境を越えて行くのを他州候が黙って見ていると思いますか。それもサイトスの方向へ向かってですよ。ぱっと見て父親を迎えに行く孝行息子になんか見えるわけがない。すわ、三年前の悪夢の再来かと大騒ぎでしょうね」

「ステファン!」

 ステファンのあまりの遠慮の無い言い方にアリスローザは叱責の声を上げる。しかしステファンは彼女のことなどいないかのように話を続けた。

「表立って兵を挙げるのは自殺行為だ。それに今はコーラルには自分の謀が上手くいったと思い込ませるのが……良策というもんでしょう?」

「と、いうことは?」

「ハーコート公には闇討ちに遭って憤死してもらいます」

「ぶ、無礼者! そこに直れ! 許さぬ」

 怒りで我を失ったダリウスが立ち上がり机を回ってステファンの胸倉を掴んで引きあげる。

「あ、言い忘れてました。ふり、ですよ。死んだ振り」

「死んだ――振り?」

「そうです。ボルチモアで密かに公をお救いした後、モンド州に隠れてもらいます。そのために信のおける兵士を一旦除隊させてからぼくらにお貸し願いたい」

 ステファンが胸倉を掴んだままのダリウスに向かってにこりと笑んだ。その様子を息を飲んでアリスローザは見守る。

 二年前のレジスタンス活動のときも策を練るのはステファンだった。腕っぷし、というより頭の良さでリーダー格の一人として動いていた。

 みんなの信頼厚いヘンリーの弟として活動に加わっていたが、実際彼があの時アリスローザたちと心を一つにしていたかどうかは今でも疑問だった。

 彼は兄を助けたい一心で動いていたにすぎない。


 今は――どうなのか?



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