ぷろろーぐ(かもしれない)
――『異能力』と聞いたとき、諸君らは何を想像するだろうか。
――炎や水を自在に操る能力、空を飛ぶ能力、時を止める能力など、少し考えればいくらでも思いつくことができるだろう。
――三つほど例を挙げたが結局、これらは全て人間が想像し、編み出したものであり、もちろん一般人に使えるわけがない。そんなことは誰でも知っている。知っているからこそ、人々はこれら『異能力』が使えたらという妄想をし、それらをさまざまな形にして呼び起こすのだ。
たとえば『絵』であったり、『文章』であったり、それらを統合した『ゲーム』であったり。
だが、もし現実に異能力が存在したら。
――これは異能力を使うことができる者達の、『日常』や『非日常』を描いた物語である――ッ!
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特に目立った家具が見受けられない、やけに広い部屋に男が三人。高級そうなソファにやる気がなそうに座ってぼーっとしている男、黙々と新型のデスクトップ型パソコンで何か作業をしている男、床に寝そべって漫画雑誌を読んでいる男の三人だ。
「俺さあ、ふと思ったんだけどさ」
ソファに座っていた男――司は呟いた。
だが誰も反応しない。図太い神経の持ち主なのか、単に暇なのか、あるいはその両方なのか、司はもう一度呟いた。
「俺さあ、ふと思ったんだけどさ」
「はあ……。なんだよ……」
ここで反応しないとずっと続くと思ったのだろう、パソコンで作業をしている男――麗音は、どうせくだらねえ話だろうなと思いつつも、とりあえず話を聞くことにした。
だが、こういう時ほど予想は良く当たるもので、
「義理の妹って萌えるよな」
「おまえは何を言っているんだ」
予想的中。
あまりにもくだらない発言に、作業をしている手も思わず止まる。麗音は司に白けた目を向けて言った。
「先月か先々月だか忘れたが、義姉の方が萌えるって言ってたじゃねえか。それにお前、妹が一人いるだろ」
「年上より年下のほうがいいだろ。血が繋がってないって要素もいいしな」
「ほーん。そういうもんかね」
話を終わらせるため、適当に相槌を打ったところで、麗音は作業に戻った。
麗音が話に興味がないことを察したのか、司もそれ以上何かを言うことはない。
司はソファに寝転がり、またぼーっとし始めた。
そんな静寂な空間を、雑誌を閉じる音が破った。
「あ~、終わった~。俺が好きな漫画が今週号で終わってしまった~」
漫画雑誌をテーブルに置きながら、鷹弘は悲惨な声を上げた。そして、人懐っこそうな顔を麗音に向けながら言った
「おい麗音、テレビつけてもいいか?」
「いいけど鷹弘、今何も面白い番組やってねえぞ」
「じゃあニュースでもいいや」
そう言い、鷹弘はテレビをつけた。
テレビをつけてから一時間ほど経過しただろうか、司がおもむろに立ち上がって言った。
「もういい感じの時間だし俺帰るわ」
時刻は午後五時三十分を回っている。
司の家は両親が家に帰ってくる時間が遅いため、晩御飯をを妹と交代で作っているのだ。
「今日はお前の番か」
ようやく作業が終わったのか、体を伸ばしながら麗音が言った。
「おう。だから今日はもう帰る。じゃあな」
「気をつけて帰れよ」「あばよー」
自分のことを心配してくれている声と気の抜けた声を聞きながら司は麗音の家を後にした。
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司――虎谷司は十六歳、白薙高校に通う高校ニ年生である。
身長百七十九センチメートル、体重七十三キログラムという、標準より少し筋肉質な体形をしている。顔は、まあイケメンの部類には入るだろう。
ここまで見れば結構モテそうだが学校での司は無愛想なので友達はおらず――麗音と鷹弘とは友達だが高校が違う――、恋人もいない。
――だが司には一般人とは違う秘密がある。
冒頭で『異能力』について話したのは覚えているだろうか。冒頭で話した通り『異能力』というのは一般人が使うことはできない。『異能力』というのは人間が妄想で生みだしたモノにすぎないからだ。
しかし司はこの『異能力』を使うことができる。
――いや、司だけではない。麗音、そして鷹弘もこの『異能力』を使うことができる。
そう、この世界には一般の常識を遥かに超えた力『異能力』を使うことができる者が存在している。
だが世間では『異能力』を使う者たちは一般人とは違う扱い、つまるところ差別を受けていた――。