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ひつじかいと少年と女子高生のふしぎな話
たくろーは羊かいだった。
小高い丘の上で、
夏は羊の群れをひきつれて
愛犬のジョニーと野山の息吹を愛した。
冬はゆたかな羊毛に囲まれて
あたたかな毎にちをすごした。
ときどき生活のために
羊の毛を刈ることが胸を痛めた。
けれども羊たちはたくましく、
ふたたび白いふっくらとした毛で
いきおい元気をとりもどすことができた。
魔法の体毛だった。
丘の麓の高校に通うチカは
ことして2年生になった。
部活動も結局はこれといったものにはいらず、
たいくつな毎にちをおくっていた。
自分が悪いんだ。
たしかにそう思っていたが、心のどこかで
いつもいいわけを探していた。
だってがっこうが、つまらないんだもん。
チカが行き着くいいわけは、
いつも同じものだった。
それ以外にいいわけを
だれか教えてくれないかと、
ある日小高い丘のずっと奥まで
行ってみた。
日に焼けたたくろーが、
チカの前でおどおどしながら
枯れ枝を羊たちにむかって
わしゃわしゃと振っていた。
チカは名前を
たくろーに教えてあげた。
そしてたくろーも、
じぶんの名前をそれと交換してあげた。