88:アル王からの報告は隠し多し。
――あれから数日、正直言えば私は元帝国のことなんてすっかり忘れていた。
「望月、ビタミン元帝国の方はもうこちらに手を出す余裕もないじゃろう。」
「…………あぁ!そういえばそんなのあったね。」
「……忘れておったのか……」
だってしょうがないと思うんだ。
直接見たことがあるわけでもないし、なんていうか印象が薄いんだもん……
ちなみに、というほどでもないけど。
私は今またアル王のお城に来ていた。
というかもう私の行動範囲がこの国の中だとビネガーさんの家とアル王のお城くらいしかない気がする……
「まぁ、いいや。ていうかその元帝国に何したのさアル王。」
「何。たいしたことではないがのぅ?」
そう言ってアル王は目線を逸らしてたけど……何したんだろ?
佐藤が出動した感じもなかったと思うし
「まぁ、カイルが攻め入った……ってところじゃの。」
「力のカイル……だっけ?」
「そうじゃ。」
やっぱり脳筋なのか。
アル王が言うにはカイルさんがやる気満々で相手のとこに踏み込んだ場合、十中八九その場所は生き物が住みずらくなるらしい……ってどういうことなの?
「なに、毒で犯すとかそういうことではないからのぅ。まぁ……少し地形をだな……」
「変化させるのかぁ……」
なんか話を聞いてるだけだとカイルさんって人はどことなく筋肉系なのかなとか思うよね。
アル王が言うには違うらしいけど。
そんなことを考えてると遠くの方でドーンって感じの音が聞こえた気がした。
多分大きいものが壁にぶつかったような感じのやつ。
さすがにちょっとだけ驚いたから音がした方を見てたらアル王はどこか呆れたようなため息をついていた。
やっぱりアル王は知ってるなにかだったのかな?
「あやつはまた……少々待っておれ」
「え、もう話終わったなら帰っていい?」
「……まぁ、何かあればまた呼ぶでな。」
「はいはーい。」
アル王は私の返事を聞いたのか聞かなかったのかわからないタイミングで部屋を出て行ったけど……
管理する立場って大変なんだなぁ……
とりあえずいつまでも居座っててもあれだから私もさっさと部屋を出たけど
とりあえず音がした方をチラっと見れば……
なんだろ……もうもうと舞う白い埃の奥にチラリと見え隠れする大きくて紅く輝く刃先のようなものが視界に入った気がしたけど。
あと笑い声のような言い合いのような声も聞こえてる気がするけど……まぁいいか。
私はとりあえず関わりを持たないようにさっさと帰ることにした。
いや、そのうち会うことになりそうな気もするんだけどね。
多分リデルさんと同じような存在であろうカイルさん……
おそらくはあの子とも同等な存在な気もするんだよねぇ……
……うん、やっぱり深く考えちゃダメな気がするよね。
とりあえず今日のごはん何にしようかなー……
――そんなことを考えながら帰って、何事もなく終わるはずだった1日。
まぁ、終わるはずないよね……不本意だけど。
「へぇ、おまえがアルの言ってた……なんだっけ、モチなんとかか。」
「誰がモチだこの野郎」
「とりあえず落ち着け望月。」
リデルさんと同じ青白い髪色で、同じような年齢くらいに見える青年が赤いマントをなびかせながら突然やってきた。
誰かと言えばアル王と話してたあの人だよこのやろう
てことで唐突にやってくる男、カイル氏。
あ、フルネームは次回でこっそりと書いておく。
にしてももうちょっとで全部で100話行くよ!?(番外編含む)
これはあれか。番外編入れ過ぎたか?




