87:精神ダメージとはわかりにくいものです。
――あのインキュバスとサキュバスのとこからビネガーさんの家に戻って、すぐにアル王のとこに向かったのはたぶんこれがのんびりじゃダメだと思ったから。
「……なるほどのぅ……まぁ、そちらの方はこっちでなんとかしておこう」
「うん、任せた!もういっそのこと痛い目に合わせちゃえばいいよ!」
そもそもインキュバス達に依頼してる時点でたかが知れてるけどさ。
……でも、なんで“元”帝国なんだろ?
すごく今更だけどそのことを聞いてみればアル王は唐突に爆笑してた。
「あやつらはわしがまだ若い頃にこの国に挑みに来たことがあってのぅ……まぁ、簡単に言えばこの国に完全敗北したんじゃ。だからもう二度と挑みにくることがないようにと名を変えさせたんじゃ。」
その結果が“元”という付属付きの名前になったということらしい。
「じゃあ逆恨み説かなぁ……」
栄光のあとの挫折とはまた違うかもしれないけどどんなもんなのかなぁ?名を代償として変えることを受け入れるしか選べなかったのって。
……そういえば何か忘れてるような?
「そういや望月、サキュバスの方はよかったのか?」
「……あ」
何か忘れてると思った何かはそれか。
とりあえずアル王に報告も終わったし……
「佐藤、もっかい行く?」
「おう」
てことでさっきの場所にリターン……したらまだあの2人はいたよ。
そもそもなんで最初に飛んだときもそうだけどここに飛ぶって知ってたんだろ?
「あ、もうインキュバスに用はないよ。」
とりあえずインキュバスに関してはホントにもう用ないし。
そのままのことを言えば何故かショックを受けたような顔をされた。
「え……え……あ、アタシ……?」
「うん。手紙のことと佐藤の夢で何をしたのかなーって。あと代償も。」
聞きたいなーって言ってみれば何故か怯えられた。
だからなんで。
とりあえずサキュバスの話によれば手紙は【はじめてのラブレター入門書~ちょっぴり過激編~】というものを参照に書いたものらしい。
……それは参照にしちゃダメなやつだ……
ていうか、そんな本あるの!?
「サキュバス、参考にするものはもうちょっと真面目に選んだ方がいいと思うよ?」
「まさか真顔でそんなことを言われると思わなかったわ……」
で、手紙の文字から滲みでていたあの変な感じは魅了の効果を持った臭気みたいなものらしい。
……まったく効果なかったけどね!
「アタシが貰うつもりだった代償はちょっとね、男を……」
「所詮は同類か。」
そんなんだから佐藤に物理で殴られるんだよ。
……でも、もしサキュバスが変身とかできてたら何になってどうなってたんだろ……
そんなことも考えたり、しちゃうよね?
「まぁ、こんなものかなぁ?佐藤はなんかある?また殴る?」
「殴らねぇって。俺の聞きたかったことはだいたいおまえが聞いたからもうねぇな。」
「そか。じゃあもう帰ろう。ごはん何する?」
「あー……なら……」
そんな会話をしながら去った私達は知らない。
その後していたサキュバスとインキュバスの会話を……
「……こわ、怖かった……」
「誰よ……あの子達を落とせって言ったの……っ」
「依頼主だな……つーか……この方法の方が危ういってはじめてだったな……」
「そうね……しばらく休業するわ……」
――それからしばらくの間、数少ないかつてインキュバスと呼ばれた男達とサキュバスと呼ばれていた女達が依頼を一切受け付けなかったことが双国をはじめとして全国で知れ渡ったと言う……
まぁ、その原因であるはずの約2名はそんな噂も話も知らないが。
サキュバスのことは素で忘れてました。
いつからオモチ達が元帝国に行くと錯覚していた?
行かないよ!いろんな意味でブラック国家だから。




