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ネクロマンサーに、恋をする  作者: 暁カンナ
躍動 シャイア王国編
9/30

第9話 初の依頼


 

 

次の日の漣の一日は、アーロンのところにいる時と同じように、早朝の鍛錬から始まった。

朝日が昇るか昇らないかのうちに起きて、ギルドの中庭で剣を振る。いままでは片手剣だけであったが、とりあえずボドウィックから練習用の素振りの型を昨日教えてもらって、今日から両手剣も使っている。

朝日が顔を出すと、漣の両手に持つその白銀の刀身が朝日を反射して、綺麗な光の波を石壁に造り出した。


「早いのね。」

朝食の準備をするため、井戸に水を汲みにきたフェリシアが漣に声をかける。

「おはようございます、フェリシアさん。」

「おはよう、レン。熱心なのね。」

「もう日課みたいな物です。前からずっとやってましたから。」

「リックは?」


リックとは漣と同室になった男だ。22歳と大分年上だが、気さくなその性格は年の差を感じさせず、漣にとっては仲の良い兄弟みたいな感じがした。

「まだ寝てます。朝ご飯の準備ですか?手伝います。」

「そう、ありがとう。じゃあ、これ持ってきてくれる?」

そう言ってフェリシアは中へ入っていく。漣は絞ったタオルで軽く汗を拭うと、水の入った桶を持って後に続いた。


「上手なのね、びっくりしたわ。」

さくさくと野菜を切り、朝のサラダの準備をする漣にフェリシアはびっくりしていた。

「ずっと食事当番をやってましたから。洗濯も。」

「いいお嫁さんになれそうね。エリーとは大違い。」

そう言ってフフフと微笑むフェリシアの綺麗な顔に思わず見とれて赤くなった漣は、思わずそれをごまかそうと話題をふる。


「エリーは、家事はダメなの?」

ファナなら多分壊滅的かなと失礼なことを思う漣ではあったが、エミリアは少なくとも手先は器用そうだった。

「エリーは、料理はちょっとね。やった事無いわけじゃないんだけど、あの子味にあんましこだわらないし、好きな子でも出来たら変わるんだろうけど?」

気になることを言って、フェリシアは漣の方を向き微笑んだ。


「フェリシア姉さん!!いらない事言わないで。」

その時、いかにも寝起きと言った風情のエミリアが顔を出した。その後ろにこれまた眠そうなファナが目をこすっている。

「エリシア、ファナ、おはよう。もう朝ご飯できるよ、顔を洗っておいで。」

「分かった、、、」

漣のかけた声にファナはいかにも眠そうな声で返事をして、井戸の方へ向かっていった。




「そうだ、そこで踏み込め!!」

ボドウィックの激しい声に応じて、漣は両手剣を振り下ろした。以前まで使っていた片手剣と比べると、どうしてもスピードに欠ける。ただし、その重さに裏打ちされた破壊力は、比べ物にならない。

「よし、そこで切り返せ。フェイントを入れて、突き!!」

息が上がる。筋力と体力をもっとつけないと。肩で息をしながら、漣はそう思った。


「やっぱり重たいよ、ボドウィックさん。以前ほど振り回せない。」

「団長と呼べ。それでもその両手剣をまともに握ってひと月にしては上出来だな。普通は、そんな速度で扱えるもんじゃない。まあお前は力とスピードだけはあるからな。」


確かにボドウィックの言う通りであった。若干まだ16歳手前の少年が扱うにしては漣の持つ両手剣は幅広過ぎ、以前に出会ったアレクシスの使っていた物と比べても、その幅は1.5倍ほど違う。その幅の違いはそのまま剣の重さになるが、その威力にもつながる。漣はそんな幅広両手剣をボドウィックとほぼ同じスピードで振っていた。


「そろそろお前にも依頼に行ってもらう。」

「街の見廻りじゃなくて?」

このひと月は慣れる意味もあって漣の仕事はほぼ街中の物だった。見廻りという名はつくが、その内情は道に迷ったり困っている人への手助けのようなボランティア程度の仕事で、もとより道を知らない漣はお荷物でしかなかった。まあそのおかげで漣はこの王都を以前から住み着いているくらいには詳しくなったのだが、他のメンバーが外でいろんな依頼をこなして来るのを見ると、何やら肩の狭い思いをしていたのも事実だ。


「ああ。村の畑を荒らす獣の駆除だがな。」

その程度なら、アーロンのところでやっていた狩りと大差ないであろう。漣は自信を持った。

「分かった、それなら問題ないよ。アーロンのところでも、狩りはやってたし。誰といくの?」

「リックとエリシアをつける。うまくやれよ。」

そう言って、ボドウィックは漣の肩をたたいた。



「あたしも行く。」

次の日、漣が支度をしてリックとともにギルドホールに出て行くと、そこには同じような支度をしたエミリアの他に、昨日の話ではメンバーに入っていなかったファナの姿があった。


「だからファナ、お前昨日帰ってきたばかりだろ?今日は行かなくていいから。」

説得するボドウィックの言う通り、ファナは2泊3日の依頼を終えてパーティーとともに昨日帰ってきた所だった。


「レンの初依頼。だからあたしも行く。」

「ファナが行くって言ってるんだからいいじゃない?こうなったら折れないわよ、この子。次の依頼まで、日もあるし。」

フェリシアが、ファナの肩を持つ。こうなるとボドウィックは負けを認めるしか無かった。

「まあ、簡単な依頼だしな、ファナにもお願いするか。」

「ファナも行くの?やった!!」

エリシアは大歓迎のようだ。なんやかんやいっても、この二人は仲が良い。

 



漣達4人の一行が依頼のあったプーラ村に着いたのは、その日の夕方だった。朝にアーロンの街を出てからほぼ8時間。今まで馬に長時間乗ったのはアーロンの所から丸一日馬に乗り続けて、ローランに来たときでその時も同じくらい乗った筈であるが、久しぶりの長時間の乗馬に、漣のお尻は悲鳴を上げていた。


「あ~、もうだめ。お尻死んだ、、、」

地面に降り立ってもがに股が直らずまっすぐに歩けない。ファナの治癒法術で治してもらおうとそっちを向くと、

「だめ、術を使うとお尻鍛えられない。」と冷たい視線。

「ちゃんとしてよ、だらしないわね。慣れよ、慣れ。」

そういうエミリアは確かにしゃんとしている。リックの方も何ともないようだ。

「すぐ慣れるよ、レン。1週間ほどずっと馬で移動してみな?その上で寝る事だって楽勝さ。」

漣にはほど遠い道のりであった。


依頼のあった村は規模としては漣の慣れ親しんだアプト村に似ていた。村の中心を通りが走り、家々がその周辺に建っている。中心部には簡単な店舗があり、鍛冶屋もありそうだった。


しかし漣達が村の中心部に近づいていくと、何やら人々が集まり、すすり泣く声も聞こえる。

「どうしたんだ?」

漣達はその村の人たちの輪に近づいていった。


「何があったんですか?」

「あんたたちは?」

村人達は見慣れぬ漣達の風体に警戒したようだった。

「依頼のあった碧の旅団の者です。何がありました?」

代表のリックがそれに答える。

「二人やられた。一人は死んだ。もう一人はまだ意識は戻ってないが息はある。だがこの傷では、、、あんた達の中に治癒術師はいないかい?」

「ファナ、お願い。」

エミリアの言葉とともに、ファナがすぐ詠唱に入る。するとその手のひらから温かな光が漏れ、傷口に当たっていく。傷ついた男の呼吸が、徐々に静かな物になっていった。


「何にやられたのですか?これは。」 

「分からねえ。畑を荒らしていたのは灰色イノシシだと思うんだが、この傷はやつじゃない。」

年配の男がそれに答える。

「あなたは?」

「村長のグレンだ。今日はわしの所に泊まってくれ。」

村長の言葉に、漣達も男の傷を調べる。肩からら腰にかけて、背中に何か鋭い物でざっくりと抉られたような大きな跡があった。


「リック、これは?」

漣も初めて見る傷跡だった。森狼程度の前足ではこんなに大きな傷跡は残らないし、ましてイノシシのもたらす傷ではない。

「ホラアナグマ?いやもっと大きい。もしかしたら、、、でも奴がどうしてこんな所まで?」

「リック、どうしたの?」

不安そうに、エミリアが尋ねる。どうやら、エミリアにもこの傷には心当たりがなさそうだった。


「おそらく、アトラスヒグマ。全長は大きい奴なら3mを超える。性格は獰猛で、肉食。この爪痕の大きさからすれば、奴の可能性がある。しかし奴は帝国の方、もっと北に生息する筈だが、、、何かに追われた?どっちにしてもやばいな。俺たちの装備で何とかなるかどうか、、、」


不安そうにリックは眉をひそめる。とりあえず今日は村長の所に泊めてもらい、明日の朝、襲われた現場を調べる事にした。





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