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ネクロマンサーに、恋をする  作者: 暁カンナ
躍動 シャイア王国編
7/30

第7話 碧の旅団


 

 

渋谷のスクランブル交差点の人込みの凄まじさは、多分世界一だと思う。

しかし王都ローランの街の中心部にあるこの広場は、会話として意味をなさない色とりどりの喧噪にあふれ、渋谷には慣れているはずの漣にも、息をのむくらいの賑わいだった。

「どうだ、この辺りがまあ一番賑やかかな。俺たちのギルドはもう少し東の方だが。」

笑いながらボドウィックは漣の背中を小突く。

「はぐれるなよ。」


しかし漣には見る物、聞く事すべてが珍しかった。

まず、いろいろな人がいる。肌の白い人、茶色い人、はたまた赤い人までいるし、髪の色も金銀白は言うに及ばず、緑、赤、茶、オレンジとそれこそ様々。服装も、商人っぽい人やら、フルメタルの鎧に身を固めている人、皮鎧に片手剣の冒険者風の人、メイド服。広場の端にはいろんな店が軒を連ね、その前にはいいにおいをさせた屋台が幅を利かせている。


「ちょっと早いが飯にするか。」

そう言ってボドウィックは店の一つに入って行った。

「おやじ、2人前頼む。それとエールも二つ。」

慣れた口調でボドウィックが注文し、しばらくすると二十歳過ぎくらいの、ホールの女性がエールと料理を運んできた。


「久しぶりじゃない、今度はどちらまで行っていたの?」

「ああエリー、聖王国だ。ちょっと野暮用でな。」

「ボドウィック、何だそいつは?」


裏から、手を拭きながら料理人の50過ぎた頃の男が出てくる。

「ああ、うちの新入りだ。レン、挨拶しな。この辺りじゃ一押しの飯屋、ランプ亭のおやじのザックだ。それと看板娘のエリー。」

「看板娘にしちゃ、少々とうが立ってるがな、娘だ。手を出すなよ。」

漣はあわてて立ち上がり、フードを外し手を出した。


「レンです。よろしくお願いします。」

「あら、綺麗な髪。珍しい色ね、瞳も。ゆっくりしていって。」

エリーはそう言って、他の客の相手をするため、席を離れた。エリーにそう指摘され、漣はあわてて又フードをかぶる。


「お前のとこに入れるってのは、結構出来るのか?そいつ。」

「まあそこそこな。得物は背中のやつだ。」

まだ一度しか振るった事のないそれをそのように言われて、漣は少々恥ずかしかった。

「又よろしく頼むよ、おやじ。」


料理はしっかりとした肉の煮込みで、ボリュームも結構ある。

食事が終わり、残ったエールをのどに流し込みながら、漣はボドウィックに聞いた。

「これからギルドに行くの?」

「ああ、みんなに紹介する。といっても今の時間だとみんな依頼をこなしにいっているから、あんまし人はいないがな。まあ今日は入会の手続きとか、色々だな。」

そこでボドウィックはレンにぐっと顔を近づけ、耳元でささやいた。


「レン、お前がネクロマンシーを使える事は、誰にも言うな。そして、絶対その力を人前で使うなよ。」

「やはり、忌み嫌われてるから?」

少々寂しい気持ちで、連はそう聞き返す。

「いや、この国ではそうでもない、というか聞いた事もない奴がほとんどだろう。ただ、その力を持つ者を探している奴らがいる。それが少々厄介な奴らでな、出来るだけ他に知られないに越した事はない。わかったな。」


ボドウィックの言葉に、漣はうなづく。まあこんな力、日常では使う事もないだろうし。

それよりも漣は初めての団体生活に少々不安だったが、同時に気持ちの高ぶりを感じていた。今までアーロンとの二人暮らしだったため、どんな生活が始まるのかとても楽しみだ。


「それじゃ、行くか。」

勘定を終え、外に出る。辺りは相変わらずの喧噪ぶりだ。

漣はボドウィックを見失わないよう、人ごみの中を付いていく。と、何か視線のような物を感じた。

どこ?きょろきょろと辺りを見回すも、人が多過ぎて誰か分からない。しかし、広場から放射状に広がっている一本の通りの脇で、こちらをじっと見つめている少女の視線と目が合った。少々自分より下?くらいの年齢の少女は、白いフードをかぶり、笑みも浮かべずじっとこちらを見つめている。


「えっ、ボドウィック、あの娘。」

そういって、前を行く筈のボデウィックの方を振り返ったがそこにはボドウィックの姿は陰も形も見当たらず、、、

「はぐれた、、、」

気がつくと喧噪の中に、漣は一人取り残されていた。


ボドウィックの姿を求めて漣は辺りを見渡す。しかしそれらしい人影は見当たらない。ここで立っているか、それとも、、、考えた末漣はさっきの少女を追いかける事にした。もしかしたらボドウィックの知り合いかもしれない。見つからなくとも、「碧の旅団」の場所を誰かに聞いて行けば何とかなる。


少女の入っていった路地を進む。大通りから1本入っただけで、ぐっと人通りは減る。それとともに、辺りは少し薄暗い。

両側を建物の壁に挟まれたその路地を、漣は進んでいった。その時だった。漣の耳に、男の怒鳴り声と女性の高い声が聞こえた。

あの少女?漣は急いで声の聞こえてきた角を回った。


そこで漣が見たのは、あの白いフードをかぶった少女とは似ても似つかない、赤い髪の綺麗な顔立ちをした同い年くらいの少女と、彼女を取り囲んでいる一人は背の高いモヒカン、もう一人は小太りのいかにもな風体の男2人だった。




「なんだ、てめえ!!」

突然の漣の登場に、戸惑ったのかモヒカン男ががなりたてる。

「関係ないやつは引っ込んでな。それともその後ろの物をおいてくかい?」

「ええっと、、、」

漣は今一状況がつかめず、間抜けな声を上げたが、ここであの少女のことを聞くのは見当違いというのが分かるくらいには空気が読める。


「あんた、怪我したくないなら、引っ込んでなさい。」

相対してるどちらからも同じようなことを言わたが、この状況で女性の側を放っておける訳もなく、加勢するかと漣は近づいて女性の隣に立った。

「兄ちゃん、やるのかい?」「金はなさそうだが、あの後ろのでかいやつは売れるぜ。」

2人組は得物(短剣)を取り出し近づいてくる。


「そんじゃ、まかしたから。」

「えっ?」

「やばくなったら、助けてあげる。」

「ええっ?」


女性はそう言うと、あっけにとられた漣を放っておいて、一歩後ろに下がった。その間に小太りの男が突っ込んでくる。漣はあわてて腰の片手剣を抜き放った。

「へへ、後ろのやつは飾りかい? どっちにしてもこんな狭い路地じゃ、剣よりナイフなんだよ。」

いかにもけんか慣れしてそうな二人に、前の世界でも争い事などした事のない漣は体が固くなり、押されっぱなしだ。


いくらなんでも相手を殺すなどとは考えられず、かといって両刃のこの片手剣では峰打ちというわけにはいかない。

短剣を防ぐ以外に手が出せない代わりに、持ち前の身の軽さを生かしてかわす事に徹していた漣だったが、とうとう小太り男の後ろからの突きをかわす際モヒカン男に足をかけられ、地面にドウと倒れた。


容赦ない蹴りが、無防備な漣の腹を襲う。うっ、意識が飛びそうになるのをなんとかこらえて、漣は転がって次の蹴りをよける。


「しょうがないわね。」

その時、壁に寄りかかっていた女性が声をかけてきた。

「いいわ、助けてあげる。後ろに下がって。」

そう言うと、その女性は腰に差していたレイピアをすらっと抜き放った。

「今度はお嬢ちゃんかい?いい声で泣かせてやるぜ。」


 いかにも悪党の言いそうな台詞をはきながら、モヒカンの男はナイフで切り掛かかる。漣の驚いた事に、その女性はそれを軽くかわし、横から男のナイフを持つ手をレイピアで貫くと、男はナイフを落とし血だらけの手を押さえた。


「てってめえ。」

「俺に任せろ。」

後ろから小太りな男が出てくる。体の割に身のこなしの早い男は、突き出されたレイピアをナイフでかわし前に出る。しかし男の反撃もそこまでだった。

一瞬のうちに、再びナイフを持つ手を連ぬかれたその男も思わずナイフを落とし後ろに下がる。

「2回よ。」

そういう女性の言葉に漣は思わず相手の男を見ると、確かにその手甲と肩から男は血を流していたが、漣には全くそのレイピアの動きをとらえることは出来なかった。


「まだやるの?蒼の旅団の人間を、馬鹿にしないことね。」

「ゲッ、碧の旅団?レイピア?お前もしかして、死突の鬼姫か?」

「やばい、いくぞ!!」

なにやら、やばそうな厨二病的二つ名を残して、男達はあわてて姿を消した。

「失礼な名前よね、鬼姫って。ところであんた、大丈夫?」

「ええ、まあ。ありがとう、、、かな?」

「あそこで出て来るんなら、もっと腕を上げてから来なさいよ。」

助けに入った女の子に助けられるという、漣の初対人戦?は何ともかっこの悪い結果となった。



「漣、どうした?大丈夫か?」

その時、路地を回ってボドウィックが姿を見せた。

「団長!!」

「エミリアか?お前達どうしたんだ?」

「団長、知り合いですか?チンピラに襲われてたから、助けてあげてたの。」

微妙に事実と異なる事を指摘することも出来ず、漣はこくこくと頷くしかなかった。


「ハッハッハ、エミリアに助けてもらったのか。そいつはいい。」

腹を折ってクックッと笑うボドウィックに、漣はむすっとした顔を向ける。もし練習用の片手剣を持っていたらあんな連中軽々と叩きのめす自信はあった。しかし真剣を人に向ける度胸は漣にはまだない。


「エミリア、紹介する。レンだ。今度うちに入ることになった。面倒を見てやってくれ。」

「え~、こいつが?団長、無理じゃないですか?弱っちいですよ、こいつ。」

ぶーっとした顔で、失礼なことを言うエミリアに漣はむっとするが何せ言い返すことは出来ない。そこへボドウィックが救いの手を差し伸べてくれた。

「まあそう言うな。人とまともにやった事ないんだよ。ちゃんとやれば、強いぞ、こいつは。」

そう言って、漣の背中をバンとたたく。

「そんじゃ、帰るか。」


何か釈然としない悶々を胸の内に秘めながら、漣は先を言うボドウィックとエミリアの後を追いかけた。



その2階建ての建物は、先ほどの広場より5分ほど歩いた、もうふた周りほど小さな広場に面する片隅にあった。石造りで統一されたその壁には、「碧の旅団」と書かれた大きな金属製の看板が扉の上に掲げられており、その下の扉を押しあけて漣達一行は中に入っていった。


「団長、お帰りなさい。聖王国はどうでした?」

肩くらいまでの飴色の髪をした、はっと目を引く美人がボドウィックに声をかける。


「う~ん、少しきな臭くなっているな。それより、帝国の方が動きそうだ。」

「こちらは特に何もありません。ところで、その後ろの方は?彼が例の?」

「そうだ、レン紹介するよ。受付事務一般を担当してもらっている、フェリシアだ。フェリシア、こちらがレン。アーロンの秘蔵っ子だ。」

「よろしく、レン君。」


そう言って、フェリシアはにっこりと微笑む。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

美人に免疫のないレンは、耳元まで真っ赤だ。

「えっ、アーロンさんの?彼がそうなの?」

信じられないように、エミリアが声を上げる。


連はどうもこの年の近そうな赤毛の子は苦手だった。なんせ出会いが最悪で男のメンツ丸つぶれである。ただし、胸はでかい。よくあの胸であれだけ早くレイピアを扱えるもんだ。連は変なところに感心した。


「へぇ、そっちの方は一人前みたいね。」

ついつい胸に目がいっていたのがばれて、再びきつい切り返しがくる。男のメンツはもはや壊滅的であった。


「あっそっその、、、」

顔を真っ赤にし、しどろもどろに弁明しようとしたとき、目の端に白いロープ姿が映った。顔をそちらに向けてみると、まさしく先ほどの広場で連を見つめていた瞳があった。


「あのっ、君さっき、、、」

「レン、紹介しよう。ファナ、こっちへおいで。彼女はファナ14歳だが、弓はすごいぞ。それと彼女は数少ない法術師だ。治癒術と水の法術が使える。」

「よろしく、、、」

それだけ言って少女は目をそらす。

「あの、君さっき広場で、、、」

さっきの続きを漣が言おうとした時、後ろからエミリアが声を荒げた。


「ファナ、さっきはどこ行ってたのよ。あのうっとうしい奴らを、あたし一人で相手しなきゃいけなかったじゃないの。」

「ん、めんどい。エミーに任せた。」

言葉少なく返事したファナは、じっと漣の目をのぞく。

「面白い色。」

フードをかぶったままでいた事に気づいた連は、あわててそれを外した。


「連です、よろしく。15歳です。」

「ふーん、年下なんだ。あたしはエミリア、あなたの一つ上よ。よろしく。」

「よろしくおねがいします。」

この人には、頭が上がりそうにないな。何やら理不尽な苦手意識を覚えつつ、とりあえず敬語で返事をする。


「いいわよ、普通で。あなた黒いのね、珍しい。」

「よろしく、さっきはありがとう。とりあえず、礼を言っとくよ。やっぱり黒髪は珍しいの?」

「う~ん、あたしは見た事ないなぁ。少なくともこの辺にはあんましいないわね。いいんじゃない?珍しくって。」

何がいいのかさっぱりだが、とりあえず連はこれからどうしたらいいのか、ボドウィックに声をかけた。


「荷物はどうすればいいの?」

「そうか、エミリア、部屋に案内してやれ。部屋は、、、フェリシア?」

「えっと、確かリックの部屋が一人空いてたわ。エミー、案内してあげて。」

「分かった、付いてきて。」

「それが終わったら、今日はエミリアに街を案内してもらえ。もう迷子はごめんだろ?」

「え~っ、まあいいわ。今日は暇だし。」

そう言って先に行くエミリアを、連は追いかけるのであった。






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