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ネクロマンサーに、恋をする  作者: 暁カンナ
躍動 シャイア王国編
5/30

第5話 ネクロマンシー

 

 

 

「法術とはイメージだ。いかに自分の持つイメージを確固足る物として具現化するか?それにつきる。そのために用いられるのが、法具であり、詠唱だ。」

そう言って、アーロンは昼前に狩って来たガラパスの死体の前に向き合った。


「旋律の戒めよ、黄泉の御霊よ、今ここに解き放たん!!」


ドクン!!   ドクン!!   漣の心臓がギュッと何かに掴まれた気がした。

小さな耳がピクピクと動く。そして、横倒しになっていたガラパスの体が、ゆっくりとこちらに向けて立ち上がるのを漣ははっきりと見た。


あれは確かに、自分の射た矢で死んでいたはず。矢こそもう抜いたとはいえ、確実に胸を貫いて息絶えたのは確認している。

その小さな獣は、今まるで生きているかのように漣の前に四つ足で立っていた。

おそるおそる手を伸ばす。もう死んでから数時間経っているそれは、もちろん何の暖かみもその体に感じられない。しかし、時折瞬きまでするそれは、生きている?まるで生きている様だ?


「これがアンデッドだよ、レン。」

「驚いた、まるで生き返ったみたい。でも死んでいるのでしょう?それとも生きてる?」

確かに、触ってみなければ生者との区別はつかない。


「いや、生きてはいない。これはあくまで、死んでいる。ネクロマンシーは蘇生術とは違うし、蘇生術などこの世には存在しない。生き物は死ねば骸となる。それはこの世の理だ。」

「ほんとに僕に出来るの?」

「ああ、レン。今度はお前の番だ。」


そう言って、アーロンは漣の前に一匹の死んだ狐をおいた。これもさっきの獲物と同じく、朝に弓矢でとってきた物だ。


そして漣は目の前の死んだ獣に対し、アーロンの言った詠唱を唱える。


「旋律の戒めよ、黄泉の御霊よ、今ここに解き放たん!!」


しかし、アーロンと同じ言葉を発したにもかかわらず、目の前の狐はぴくりともしない。

「いや出来ないって。無理だよ。そんな力がある筈が、、、」

漣にはどうしても自分にそのような力があるとは、到底信じられなかった。


「じゃあなぜお前は、今生きている。あの時狼を蘇らせたのは、お前なんだ、レン。イメージを持て、願え。お前自身がなすべき事を信じて、それを願え。詠唱などそれの補助にすぎん。」


アーロンが言った様に、あの時アンデッドの狼がいなければ自分は死んでいた。自分が今ここにいるのはネクロマンシーの力のおかげに違いない。ならば信じろ。

目を閉じろ、イメージ、イメージ。イメージの具現化。横たわっている狐が起き上がるところを、想像しろ。イザナミ、イザナギの世界、黄泉比良坂よもつひらさかの岩戸を開けろ、、、

漣の口はひとりでに一つの言葉を形作っていた。


「旋律の戒めよ、黄泉の御霊よ、今ここに扉を開かん!!」


ドクン!!   ドクン!!   さっきと同じだ。はっきりと、その感覚に捕まえられた漣はゆっくりと目を開けた。


目の前にこちらを向いて、じっと立っている狐がいた。

「出来た、出来たよ、アーロン!!」

「ああ、俺はそこまでするのに2年近くかかったがな、上出来だ。」


それからアーロンは法術自体がイメージの固定化が主体である事、詠唱、法具などはそれを助けるだけの物で、熟練すればそれらは必要なくなる場合もある事。またアンデッド化を解く際も、詠唱の言葉を口にしそれをイメージの中で具現化する事などを教えた。


「アーロンは誰からこれを教わったの?」

アーロン自身、他のネクロマンサーに出会ったことはないと言っていた。するとアーロンに教えた者はネクロマンサーではないと言うことになる。


「ああ。俺はルアナ教の司教から教わったよ。聖エルランジェ王国の王室とルアナ教は密接に結びついていてな、国王がその大司教も兼ねている。その中に白銀騎士団を管理する部門があって、代々そこの司祭が王族にネクロマンシーの習得を補佐する。だがもちろん奴らはネクロマンサーではない。ただ昔から伝わって来たやり方を履修しているだけだがな。」


後、漣はもう一つ聞いておきたいことがあった。


「もしこれが人間なら、会話は出来るの?また生前の事を覚えている?」

「いや、基本的にはアンデッドはこちらの言う事は理解し従うが、自由意志は持たないし会話もしない。白銀騎士の連中もこちらの意図する所は伝わるし、ある程度自分で物事の判断はつけられる。しかしそれは術者の力の大きさにもよると言う話もある。実際、聖エルランジェの初代国王の時代には自我を持ち、普通の生きている者と変わりのないアンデッドもいたと言う話もある。」


「切られても死なないって言ってたけど、傷は治るの?」

「首を落とされなければ動けなくなる事はないが、普通は受けた傷は治らないな。しかし、、、例外がある。」

「白銀騎士団?」


「ああ、ただし全部ではない。今となっては大分数は減ったが、ある一人の男が造り出したアンデッドのみ、自然治癒をする。」

「誰?その人って、、、さっき言ってた昔の王様?」

「ああ。聖エルランジェ王国の創始者、クオン エルランジェだ。800年前、彼はその信じられないようなネクロマンシーの力を用いて、群小国家を統合し、聖エルランジェ王国を樹立した。その時の原動力となったのが、白銀騎士団の基礎となった彼の使役するアンデッド達であり、その自然治癒力を備えたアンデッド達は今でもその時代から生き残った者が白銀騎士団の中核をなしている。」


訓練の終わった後、アーロンは漣に夕食の支度をさせている間、使った小動物の死体を始末するため手に取った。

アンデッドの解除を施した死体は首を落とす必要はないが、それを食料にするには何か抵抗がある。


埋めるか。

アーロンは、漣の用いた方の狐を手にする。そしてそれを冷たい土の穴の中に置き土を掛けた。

アーロンもよく見れば気づいていた筈であるが、その狐の体に命を奪った筈の矢傷の跡をみる事はなかった。




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