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ネクロマンサーに、恋をする  作者: 暁カンナ
躍動 シャイア王国編
4/30

第4話 聖王国の謎

 

 

 

穴ウサギのシチューと簡単なサラダにパンと言った食事を終わった後、いつものように後片付けをしていると、アーロンがお茶を入れてくれた。

「レン、お前がここにきたときの事を覚えているか?」

「ええ、気がついたら森の中で、灰色オオカミに追いかけられ崖から落ちて。それから今度は森イノシシのやつに。」

「実はな、あのイノシシからお前を救ったのは、俺じゃない。」


アーロンの口から飛び出したのは、びっくりするような内容だった。


「えっ、じゃあ誰か他に?」

「あの時あそこにいた人間は、俺だけだ。レン、お前を追いかけていた灰色オオカミがどうなったか知っているか?」

「ええ。崖から落ちたとき、あっちはたまたま折れた枝に突き刺さって、僕が見たときは死んでいましたけど?本当に、あれは運が良かった。」

「そうだな、お前にとっては本当に運が良かった。実は、お前を助けたのは、あの灰色オオカミだ。」


えっ?何を言ってるんだ?アーロンは。漣は己の耳を疑った。


「だってあの時、あの狼は既に死んでいましたよ。」

おまけにその前は自分を襲ってきたのだ。たとえ生きていても、そんなことをする筈はない。

「そうだ。だからお前を助けたのは、死んでいる、あの灰色オオカミだ。」


何を言ってるんだ?この人は。なぜ死んだ狼が生き返って、自分を助ける?


「レン、お前はあの時、気を失う時、何を思った?」

漣は思い出した。巨大な茶色の固まりが迫ってくる。それに自分は弾き飛ばされて、、、誰か、誰か助けてと、、、


「お前が助けを求めた願いに、あの死んだ狼が答えたのさ。お前を守るために。」

「でも、死んだ物がどうやって?」

漣には何がなんだか分からなかった。確かにあの狼は冷たくなっていた筈。それどころか、太い木の枝が体を貫いていた。


「漣は死んだものが再び蘇り、生前の様に動くと言うのを聞いたことはないか?アンデッドだよ、狼の。あの狼はアンデッド化していた。」

アンデッド?何の事だ?死霊魔法?でもなんで?いったい誰が?


「あの狼をアンデッド化したのは、レン、君だ。君はネクロマンサーだ。」


とっさに漣はアーロンが何を言っているのか分からなかった。ネクロマンサー?本で読んだことはある。死体を操る黒魔法の使い手。もちろん、元の世界で読んだ小説ではたいがい悪役で出てくる。そんな者が自分?


「ネクロマンサーって、魔王の手先の?悪いやつでしょ?」

「魔王?何だそれは?聖王国では闇の法術の使い手とされているが、とにかく死者を操る事の出来る法術だ。悪い奴かどうかは、使い手によるな。」


「それと、俺もネクロマンシーが使える。」


アーロンはさらにびっくりするようなことを言った。

「アーロンもネクロマンサー?死者を操れるの?でも、法術は扱えないって。」

「ああ、一般の法術は扱えない。しかし俺はネクロマンサーだ。」


「レン、この世界では法術師の数は決して多くはない。言って見れば力の大小を問わないならば、法術が使える者は1000人に1人と言った所か。しかも法術師と呼ばれるくらいの力を振るえる者は、その10分の1以下だ。しかもその数少ない法術師の中で、ネクロマンシーを扱える者はほとんどいない。」

「実際私自身、私以外でネクロマンサーはだれも知らない。」

アーロンはレンに驚くべき事を語り始めた。


この世界の法術は、聖法術、白法術、黒(闇)法術に大きく分けられる。

聖法術(聖属性)の法術は光属性ともいわれ、穢れを払う特質を持ち上位の回復属性を兼ねる。

白法術は火、風、水、土、の基本4属性からなり、それぞれに派生の属性を持つ。

黒法術に関してはしっかりと体系化をされておらず、呪術、邪神の眷属の召還術などと言われているが、ネクロマンシーはその黒法術に属すること。そして黒法術師の中でも、ネクロマンサーの数はほとんどおらず、しかもここシャイア王国ではそうでもないが、聖王国ではその存在が忌み嫌われていること。


「他の国々では、それほど忌み嫌われているという訳ではない。大体ネクロマンサーの数自体が圧倒的に少ないからな。その存在自体知らないものの方が多いさ。ところが、隣の聖王国ではその存在は忌避されている。なぜだか分かるか?」

「宗教的な問題?」

「当たりでもあり、はずれでもある。レン、私は聖エルランジェ王国の元王族だ。現国王ゲルハルト エルランジェの叔父にあたる。」


と、アーロンはとんでもない一言を放った上で、カップを傾けた。




アーロンの口にしたその一言で、漣は何かすっと胸のつかえが取れる物があった。

その立ち居振る舞い、知識、剣の技量、何より荒唐無稽な筈の漣の話にもなぜか全く疑問を浮かべずに耳を傾ける、そのあたりの事情にもアーロンの正体は関係しているのかもしれない。


「でもアーロン、ネクロマンサーは聖王国では忌み嫌われているって、、、そうか、だからこんな生活を?」

「いや、その正反対だ。」


妙に納得できる回答を導きだしたと思ったのだが、漣のその想像をアーロンは真っ向から否定した。


「これはレンにも関わりのある話なんだが、私の能力は、聖王国にとってはなくてはならない物なんだ。」

そしてアーロンは今まで言っていた事を全否定するような発言をした。


「レン、白銀騎士団を知っているな。まさに神の奇跡とされる、不死の軍団。聖王国を守る最後の守り手。その数は多くはないが、まさに聖王国の切り札だ。」

「ええ。前に教えてもらいましたね。神の導きによりいかなる敵にも物怖じしないし、剣で突かれたぐらいではびくともしない。」

「そうだ。あやつらは、少々剣で切られたぐらいでは物ともしない。白銀騎士を倒そうとすればその首を胴体から切り離すくらいはしないとな。やつらは、不死なんだ。」

「えっ、それって、、、」


まさか、、、レンの脳裏に灰色イノシシと対峙したとされる、木の枝の刺さった森狼の姿が浮かんだ。


「そう、やつらはアンデッドだ。しかも聖王国で造られた。それをなすことが出来るのは、聖王国の王族のみ。聖王国の王族とは、ネクロマンシーの技量を受け継いだ一族なんだよ。」

「これから話す事は、聖王国の中でもほんの一部の王族しか知らない事だ。」


そう言って、アーロンは驚くべき秘密を語っていった。

聖王国の王族でも、ネクロマンシーの力を持つ者が出るのは非常にまれであること。アーロンがその力を得るまでは何代もネクロマンサーは現れなかったこと。また現在、アーロン以外にその力を持つ王族は存在しないこと。


「でもなぜアーロンは王族から外れたの?」

聖王国にとって、白銀騎士団を生み出すアーロンの力は、非常に貴重な筈である。それがなぜ、アーロンは聖王国を離れてこんな生活をしているのか?漣にはそこがとても不思議だった。


「レン、ネクロマンシーとはどんな力だと思う?」

「死者を蘇らせる?」

「いや、国にとっては絶対的な戦略的価値がある力なんだ。なにせ戦いが熾烈を極め、死者が増えるほど、場合によってはその力を持つ側が圧倒的に優位にたつ事となる。もちろん死者すべてを生き返らせるのは到底無理だが、状況をひっくり返すくらいの数はなんとかなるし、何よりも相手に与える恐怖心は通常の兵士の比ではないからな。」


「私が王弟だったとき、当時の王、私の兄は私のネクロマンシーの力で白銀騎士団の数を増やそうと考えた。その力を持って、シャイア王国を攻め落とすためにな。」


「当時の私の妻は、シャイア王国の第2王女だった。今まで良好な関係を保っていた筈なのに、帝国の脅威に常にさらされている我が国は、シャイア王国を吸収してそれに対抗しようと考えたのだよ。もちろん、私はそんな考えに賛同する事など出来なかった。」


「何度も兄の説得を試みたのだが、その考えを覆せない事が分かった私は、兄の手が及ぶ前に妻を母国に返そうと、聖都バールベックを後にした。しかし、国境付近でついに白銀騎士団に追いつかれ、私達はなんとか国境を越えることが出来たが、妻は傷を負い、その時の傷がもとで首都ローランまでたどり着く事なく、息を引き取った。」


「奥さんを蘇らさなかったの?」


「私のネクロマンサーとしての力はそれほど強大なものではない。したがって、意思のあるアンデッドを作り出すのは無理だ。それに自我を持たないアンデッドとしたら、それはもはや妻ではないだろ?」


アーロンはそう言って、悲しそうにうなだれた。

「私がそのままローランの王宮に入ると、ネクロマンサーの力が他国にとられたと考えた兄は、すぐに侵略を開始するかもしれない。そんなわけで、私はシャイア王国の力にはなれないし、かといって母国に弓引く事もしたくなかったのさ。」


それでアーロンは母国からも身を潜めて、ひっそりとここで暮らすようになった。しかしそのおかげで当時の王は侵略をあきらめ、逆に帝国に対する同盟の方向で均衡を保つようになったらしい。

アーロンの言葉に、漣は今までの謎が氷解した思いがした、ただある一点をのぞいて。


でも、どうして自分が異世界からきた事と関係があるのだろう?


少々引っかかるところはあるものの、アーロンの告白した聖王国の絶対に明かせない秘密は漣の心を大きく揺さぶった。

「聖王国は、ネクロマンシーの力を王家以外で使われないためにも、その力を闇のものとし弾圧してきた。もともと、非常に少なかったその数は、聖王国のもくろみ通りその王家以外ほとんど他ではみられない能力となったのさ。王家でも今では何世代かに一人出るか出ないかの能力だがな。」


それほどの珍しい能力に恵まれたと聞かされても、漣は全くうれしいとは思えなかった。むしろ、なんて厄介な物を、、、その思いの方が強い。


「明日から、お前にネクロマンシーの能力を教えていく。もちろん剣の鍛錬もな。」

「え~っ、別にいらない気がするけど、、、」

「これはお前にとって、必要となる力だ。いずれ分かるよ。さあ、今日はもう寝ろ。」


そう言われてベットに潜り込んだのだが、考える事が多過ぎて到底寝れる物ではない。自分がネクロマンサー?闇の力の使い手?どっちかいうと、悪の手先じゃないのか?それって。

今まで何度か読んだ事のあるラノベの中では決してあまりありがたくないその力に、微妙な物を感じながら、先ほどアーロンの話の中で感じた違和感も忘れ、漣はいつしか眠りの中に落ちていった。




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