第30話 聖女の癒やし手
「蒼の旅団の方々ね、パルと呼んで頂戴。よろしく。」
そう言って、その女性はニッコリと微笑んだ。
腰近くまである特徴的な白い長い髪の毛が、右手で掻き上げられサラサラと流れていく様子は少し幻想的であった。
但しその目の周りはずいぶんと赤くなっており、こちらもずいぶんと聞こし召していたようで、一見清楚な美人が色々と台無しである。
「パルヴィ・アルミラ、聖女の癒し手、、、」
ファナが呆けたようにつぶやく。
「ファナ、知り合い?聖女の癒し手って?」
「当代の治癒術師のトップ。12使徒の一人。治癒術を志すもので、知らないものはいない。でもなんで?こんなとこに12使徒が二人も、、、」
そう言ってファナはまだパルヴィ・アルミラをじっと見つめている。
「いやちょっと厄介な依頼でな。でももうそちらの方は片がついたんだ。少なくともあたしらの出番はない。」
「そう、だからさっきまで二人で打ち上げしてたのよ。ねえ、フィグ。あなた達も一緒にどう?フィグの知り合いでしょ?」
そう言って、パルヴィはフィグの肩にしなだれかかる。
「いや、あたしたちはちょっと、、、部屋に怪我人がいるんで。」
そう言ってエミリアは断ろうとした。
「そのことでさ、パル、ちょっとあんたの手を貸してほしんだ。」
そう言ってフィグはパルヴィの方に向かい合った。
「あたしの古い知り合いが、ちょっとまずいことになってるらしくって。」
エミリアはそこで再び今のボドウィックの現状について、パルヴィに説明することになった。
「そう、じゃあ一応そこのお嬢さんが治癒術をかけてはいるのね。で、今は眠っていると。」
「そんなわけでパル、ちょっと見てやってくれないか?」
「いいわよ、案内して。」
そこでエミリアたちは、その二人をボドウィックの寝ている部屋まで連れて行った。小さくノックをしてから扉を開ける。ボドウィックはベットから起きた様子もなく、宿についてからずっと寝たままのようであった。
「顔色が悪いわね。ちょっと見るわよ。」
そういってパルヴィは布団を剥ぎ、ボドウィックの服の前を開け、巻いてある包帯を外していく。
すべてを外しさらけ出された傷跡は、出血は止まり治癒術によって傷口はふさがっていたものの、その周囲は炎症により真っ赤に腫れ上がっている。
思っていたより大きな傷跡だったせいか、フィグもうっと声を上げた。
「重症ね、これは中までやられてるな。でも最初の手当が良かったわ。いい治癒術ね、しかも二重掛けしている?これは別別のものね、もう一人治癒術師がいたの?しかも後のは余程の使い手、これはあなた?」
そう言ってパルヴィはファナの方を向いた。
「違う。後からかけたのは、聖王国の王女様。最初にかけたのが私。」
「えっ、もしかしてミスファリア王女?そう、なるほどね。でもあなたも相当いい腕をしているわ。おかげで、彼、助かるわよ。」
そう言ってパルヴィは両手を伸ばしボドウィックの胸の上で重ねあわせた。
彼女の雰囲気が変わる。今まで酒に酔ってニコニコしていたのが、突然凛とした表情に変わった。その身の持つ雰囲気も研ぎ澄まされたようで、あたりの空気も一瞬にして張り詰めたように感じる。そして右手の中指にはめている指輪にはまった乳白色をした大きな石が唐突に鈍い光を放ちだした。
「聖なるサツキの御手よ、母なる癒やしの息吹よ、願わくばその大いなる慈悲にて救いたまえ。」
パルヴィの重ねた手を当てているボドウィックの胸の部分の赤みが、次第に引いていく。そして荒かった呼吸音が穏やかに変わっていくのがわかった。
「顔色が良くなった、血の気が戻ってきたわ。」
「すごい、さすが聖女の癒やし手。」
ボドウィックの様子は呼吸音も落ち着き穏やかな寝息に変わっており、胸の傷跡の赤みもほぼ消失していた。
「これで大丈夫よ。明日はもう体を動かすことはできると思う。でも、激しい動きとかは無理よ。少なくとも2週間は安静にしていて。」
「ありがとうございます、パルヴィさん、そしてフィグさん。」
エミリアが素直に頭を下げる。
「いいさ。こいつとは浅からぬ関係だしな。」
「えっ、フィグの元カレ?ちょっと年離れすぎじゃない?」
「そんなんじゃないよ。単に腐れ縁だったのさ。」
パルヴィの雰囲気はもう元の酔っぱらいに戻っているようだ。
「じゃあ、こいつも落ち着いたことだし、下でもう一度飲み直すか。お嬢ちゃんたちも行こうぜ。」
そう言って、フィグは結構出来上がっているパルヴィとともにエミリアとファナを連れ、階下へとまた降りていった。
「で、どっちがあの坊やと出来てるんだい?もしかして両方?」
ドンと飲み干したエールのジョッキを机に置き、フィグは真っ赤な顔をしてエミリアとファナに問い詰める。問い詰められた方の二人はまだそう飲んでいないのに、その顔は別の意味で真っ赤だ。
「ねえ、どんな子なの?その男の子。フィグがそんなに気に懸けるなんて、私も会ってみたかったな。」
「う~ん、ちょっと変わったやつだな。顔はまあまあじゃねえか?少なくともあたしは好みだな。でもこの辺りの顔つきじゃないな。剣の方はどうだい?」
「レンは強いわよ。先日のローラン武闘大会でも本戦の3回戦まで進んだわ。ちなみに、あたしは2回戦まで。」
「それすごいな、お嬢ちゃんも。ちなみに坊主は誰に敗れたんだ?」
「ギードっていう人、前回の準優勝者。でも、すごくいい試合をしたわ。ほんと、もう少しだったのよ。」
「うん、レンは惜しかった。」
とファナも相槌を打つ。
「ギードって、アムダリア傭兵団のあのギードだろ?シーランド共和国の。そりゃすごいな、奴は半端なく強いぞ。」
「私も名前くらい聞いたことがあるわ。確か、両手持ちの大剣使いだわね。いい男って話じゃない?」
「ええ、すごくいい人。いい人なんだけど、、、」
エミリアは少し言葉に詰まる。まさかここで、彼はもう死んでしまいアンデッドとして復活したとはとても言えない。
「なになに、なんかヤバイ癖でもあんのか?」
「女癖がすごく悪いとか?」
「男が好きなんじゃねえか?」
そんなことを知らない二人は、名の売れた強者に何かゴシップの匂いを嗅ぎつけたかのように突っ込んでくる。
「ううん、そうじゃない、そうじゃないの。」
エミリアは、慌てて否定をした。変な噂が広まったらアンデッドになったギードに、思い切りどやされそうだ。
「あたしには、ちょっとおっさんかなって。」
「そうだな、お嬢ちゃんはあの坊主のほうが似合いだな。」
なんとか上手く二人の疑惑をごまかせたと一息ついたエミリアは、グッとグラスを煽った。
「レンって子はいくつ?」
「確か17歳じゃなかったかな?ねえ、ファナ。」
「エミリアの一つ下、だから17歳。」
「あたしの年はいいのよって、あたしまだ18になってないわよ。」
「じゃあ、あたしそっちでもいいかな?年下も魅力なのよね。」
とパルヴィが言うと、それにフィグが突っ込む。
「お前とじゃ十も離れているだろ、このババア。」
「何言ってるの、あんたほどじゃないのよ。」
「まあ、お互い歳の話はやめようぜ。おやじ、もう一杯だ。」
そう言ってフィグはエールのグラスをもう一つ注文した。
エミリアは少し酒が回ってきているのを感じた。そしてレンがミスファ王女に向ける視線を思い出しているうちに、次第に腹が立ってきた。
「大体あいつ、王女様に馴れ馴れしすぎるのよね。何様だと思ってるのかしら。」
「そう、高望みしすぎ。エミリアかあたしで手を打てばいい。」
「ちょっとファナ!!何言ってるの?あたしそんなつもりないから!!」
「あたしはレンが好き、でエミリアもレンが好き。わかってないのはレンだけ。」
ファナに図星のことを指摘され、エミリアの顔は必ずしも酒のせいだけとはいえないくらい、もう真っ赤だ。
「ええ?三角関係か?ヒュー、ヒュー!!」
「いいなぁ、若いって。」
こうして酒場の夜は更けていった。次の朝、エミリアとファナは、昨夜どうやって部屋まで戻ってきたのか記憶はない。
ただ確かなのは、二人が起きた時、体の具合の良くなったボドウィックが呆れたように二日酔いで苦しんでいる二人の姿を見下ろしていることだった。
すみません、書きだめていたプロットが尽きたため、次回少し間が空きます。
ある程度まとめて投稿しようと思いますので、よろしくお願いします。




