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ネクロマンサーに、恋をする  作者: 暁カンナ
躍動 シャイア王国編
29/30

第29話 ディートハルト・シルダリア



 

「お父様、今日はとてもご機嫌がよろしいようですわね。何かいい事がございましたの?」

第一皇女イザベル・シルダリアの言葉通り、今日のシルダリア帝国皇帝ディートハルト シルダリア4世は機嫌が良かった。

何せ北東部の大森林に遠征していた右将軍ミカエル・ギダンが大森林に住む蛮族の討伐を終え、無事帝都に帰ってきたのだ。北部から東部に及ぶ大森林、樹齢数百年の木々の並ぶその樹海には帝国の領土に含まれているとはいえそれは勝手にこちらがそう呼んでいるだけで、帝国の勢力はほとんど及ばない。

それどころか時折その樹海より溢れ出た蛮族の勢力は、樹海周辺の村々を襲い暴掠の限りを尽くしていた。もちろん帝国軍の巡回はあるが、あまりにも広いその範囲を効果的に見廻るのは実際の所ほとんど不可能で、後手後手に回る方が多いのも事実だ。

今回は久しぶりに彼らの拠点のいくつかを強襲し、その勢力を大いにそぐことが出来たのだ。


「ああ、イザベル。お前はお母様ににてほんとに綺麗になったな。クラウスはどうした?」

「褒めてもなにも出ませんわよ、というか、今のはお母様をお褒めになっているのでしょう?クラウスなら、まだお勉強ですわ。多分今は帝国の歴史じゃありませんこと?今朝はたいそういやがっておりましたから。」


イザベルはそう言って、今年15歳になる弟の第一王子クラウス・シルダリアの事を思い浮かべた。

母親に似たのか、剣よりも本の方が好きな弟。しかしその彼にしても、歴史の講義は退屈なようで嫌でしょうがないらしい。最もあれは皆が通る道で、かくいうイザベルも眠い目を開けているのに大いに努力を必要とした記憶がある。


「クラウスは男のくせに、どうも剣の方は今ひとつ好きになれないようですわ。昼からのカールとの稽古も朝からぶつぶつ文句ばっかり。」

カールとは第一王子クラウスに付く剣の師匠な名前で、近衛隊の副官をしている男だった。性格は豪放磊落で、どちらかというと線の細い弟にはどうも合いそうにないとイザベルも思っているのだが、将来この帝国を背負って立つ身になる筈の弟があまり武の方面に乗り気ではない事が、自分が男ではない事にいつもいらだちを感じてきたイザベルには、口惜しい物があった。


「そういうな、皇帝自身が剣を手に戦場に立つ事などあり得ん。剣など飾りで良いのだよ。それよりも、あいつは頭が良い。皇帝に必要な才はむしろそちらだし、私はあいつがいい跡継ぎになると信じているぞ。しかし、お前の嫁ぎ先も考えんとな。」

「お父様、それは、、、」

イザベルはもう18歳、もう十分嫁いでもいい歳であった。国外に目を向けるとシャイア王国の第一王子エドガルドあたりが第一候補となるのだが、今の国外事情からして、敵対関係にあると言える聖エルランジェ王国がいい顔をする筈も無く、それを押してまで聖王国と仲の良いシャイア王国が帝国と縁戚関係を持とうとするとは思えない。

となると、後は国内の有力貴族か、ベルグスト公国辺りの王族となる。しかしイザベルは自分がいなくなると一人になる弟の事が心配で、まだどうもそう言う気になれなかった。


「私はもう少ししたいことがありますので、まだ考えておりません。お父様ともまだ離れたくありませんし。」

もちろんイザベルの魂胆は分かっているのだが、それを言われるとイザベルに甘いディートハルトであった。

「はぁ~、でも、剣の稽古はいい加減にしておけよ。手が固くなるぞ。」

そう、イザベルは皇女のくせに剣が好きだった。きっかけは母親である皇妃エレオノーラの侍従武官隊長ラウラの剣技を、10歳の時見てその美しさに惚れ込んだのであるが、弟のクラウスがあまり剣の道に熱心ではなく、彼を守らねばという気持ちが多分にその奥にあった。勝ち気な性格も相まって、母親とラウラに頼み込んで教えをつけてもらうようになる。

最初は多分すぐ音を上げるだろうと周囲の者は見ていたのだが、その粘り強さと頑張りは周囲の予想を遥かに超え、今では侍従武官隊の中で彼女から一本取れる者は数えるほどしかいなかった。

逆にその事が、婚期を遅らせる一つの要因になっているのだが、本人は気にしていないし、皇帝や皇妃ももう半ば諦めていた。


「ちゃんと淑女の嗜みもこなしております。だからいいでしょう?お父様。」

そう、ディートハルトらが強く言えないのはこのこともあった。イザベルは宮中の作法、お茶の入れ方からダンスまで、皇女として要求される事はおよそほぼ完璧にこなす事が出来た。場合によっては、猫どころか虎くらいの皮は余裕でかぶることが出来る実力者である。

「だからかえって、嫁にいく宛がなくなるんだ。」

ディートハルトは小声でこっそりとつぶやいた。あまりに出来すぎる娘、しかも第一皇女になかなか国内から我妻にとの声が上がりにくい。単に皇帝一族との縁戚関係を望むやからなどもちろんこちらからは相手にしないし、そう言う所に嫁に行ってこの娘がおとなしくしている訳がないことは、周りの貴族達もよく分かっているようだった。


「お相手はそのうち私が見つけます。それよりもお父様、今年のローラン武闘大会ではまたライムンド様が優勝なされたようですわ。ギード様も準優勝。この辺りはさすがですわね。」

「お前ももう少し女性らしい話題を話せばよいのに。」

「そう言う話題も、必要なときにはしています。でもお父様とはほんとに話したいことを話したいので。いつか私もローランの武闘大会をこの目で見てみたいわ。」

「機会があればな。」

ディートハルトとしては自分には本音を話してくれる娘の事を喜んでいいのか、あまり年頃の娘らしからぬ事に興味を持つのを悲しんで良いのか、複雑な所であった。



「皇帝陛下。」

そんなディートハルトに声を掛け思いを中断させたのは、宰相を務めるヴィルマーであった。

「執務室の方へライス長官が報告に参っております。至急お耳に入れたいことがあるとか。」

「分かった、イザベル。」

「ええ、それでは私はこれで。クラウスの様子でも見て参ります。」


そう言ってイザベルが去った後、ディートハルトは宰相のヴィルマーと共に、内務省長官のライスの待つ執務室へと向かった。

「皇帝陛下。」

ディートハルトとヴィルマーの来室にあたりライスは起立したまま敬礼を行い、その間にディートハルトは執務室の机に付く。

「で、報告とは何だ?聖王国の第一王女暗殺の件か?内務省も無粋なことをやるものだな。しかし私のもとには、暗殺は未遂に終わったとの報告が上がっているが?」

ライスは皇帝が第一王女暗殺の計画を知っていたことと、その内務省経由よりも早い結果の獲得に、皇帝独自の持つ暗部の働きかと改めてその早さと正確さに忸怩じくじたる思いを抱くも、それ以上の話が出てこない事から、これはまだご存じないのかと改めて少々の安堵と、ほくそ笑みを心に浮かべた。


「実は王女の護衛の中に、二人のネクロマンサーがおりました。一人は恐らく死亡していると思われていたエルイスト・エルランジェに間違いないと思われますがもう一人、碧の旅団の団員と思われるネクロマンサーがいたようです。」

「碧の旅団?確かシャイア王国の傭兵団だったな?そのような存在がいたなどとは聞いていないが?」

「ええ、今早急に事実関係を当たらせておりますが、どうやら最近の加入者で、しかも内部ではその能力は全く知られていないようです。恐らく、エルイストの元にいたのでしょう。」

「で、どの程度の能力者なのだ?」

「それが、、、私の手の者によりますと、そのネクロマンシーによって蘇った者は白銀よりも強かったとの事。」

「それはいささか、信憑性に欠けますな。」

宰相のヴィルマーはまたかとため息をついた。実際今までも同様の報告は何度かあった。しかし1件を除いてそのすべてが、実際はネクロマンシーとは全く何の関係もなかった。

「今まで同様の報告は山ほどありましたが、、、」

「もちろん、その者の話を鵜呑みに出来るとは限りませんが、調べてみる価値はあるかと。」


「わかった、ライスに任せよう。報告を待つ。」

「了解いたしました。」

そう言って内務省長官ライスは、一礼をして部屋を辞した。後に残された宰相のヴィルマーは大きくため息を付く。

「陛下、今までのことがありますので、あまり期待はされないほうが。」

「分かっている、しかしリーのこともあるからな。何があるか分からん。」

そう言ってディートハルトは今までの唯一の成果であった、黒髪に茶色い目をしたの少女の事を思い浮かべた。




レン一行と別れたエリシアたちは、ボドウィックを載せた馬車を飛ばして今までたどってきた道を引き返していた。飛ばしてと言っても、怪我の重いボドウィックがいるのでサスペンションのついていない馬車では出せる速度も馬と比べるとたかが知れている。

それでもなんとかその日のうちに、ルーラの街を飛ばしてトーバンまで辿り着くことができた。


一日中揺れる馬車に乗っていたボドウィックの衰弱は思いの外激しく、少々値段が高めではあったがようやく宿を見つけて部屋に運び入れられてすぐ、食事も取らずベットに横たわりそのまま眠ってしまう。ボドウィックが寝入ったのを見届けてから、エミリアとファナは遅い食事をとりに1階の食堂兼酒場に降りていった。


「レン達大丈夫かな、まだ国境まで2日はあるよね。」

「ん、多分大丈夫。アーロンさんやギードがいる。」

エミリアの心配を他所に、ファナは口を動かすのに忙しそうだ。またひとつ大きな肉の塊を口に運んでいる。

「あんたよく食欲あるわね、あんな大変なことがあったのに。」

「私はよく働いた。だからお腹も減る。エミリアそれ食べないのなら、、、」

「食べるわよ、あたしだって。あげないから。」

そう言ってエミリアも食事を再開する。口に物が入ると意外にお腹が空いているのに気づき、しばらく二人は会話もなく、黙々と食事を進めた。

取り敢えず腹が落ち着くまで食べ納め、人心地つく。するとどちらともなく、会話は今日の昼間の出来事に戻っていった。


「でも、びっくりした。レンがネクロマンサーだったなんて。しかもアーロンさんまで。」

「うん。レンが法術士だなんて知らなかった。」

「ネクロマンサーって、法術士なの?」

「一応、法術の一つとされているけど、、、初めて見たから。」

さすがのファナも、びっくりしたようだ。

「でもネクロマンサーってあれでしょ?死靈術、死体を生き返らして使役する。なんかレンのイメージとは違うなぁ。」

「うん、レンは剣士。自分で戦っていそう。」

「でも死んだはずのギードは、全然死体っぽくなかったわよ。話も普通にしていたし。あれってほんとにネクロマンシー?」

「知らない。私も初めてみたから。でもちょっと違う気もする。」


ふたりとも、自分たちの今まで持っていたイメージとあまりにも違うレンの能力の姿に、だいぶ戸惑っていた。

話には聞いたことのあるネクロマンサーの力、それは物言わぬ死体が起き上がって死靈術師に使役されるどちらかと言えば恐怖をそそられる姿だ。

それに対しレンの行ったネクロマンシーは、生前そのもののギードの姿がそこにあった。いやその能力は生前時をはるかに超えていたのだが。



「やあお嬢さん方、まだこの街にいたのかい?」

額を突き合わせ、レンのことで戸惑っていた二人は突然後ろから声をかけられ、慌てて振り向いた。そこに立っていたのは先日トーバンの街中で声をかけられ知り合った、煉獄の使徒ことフィグネリア・バーネであった。しかも結構飲んでいたのか、その顔はずいぶんと赤い。

「次の日に発つとか言ってなかったかい?ボドウィックもずいぶんゆっくりとしているんだね。」

「いえ、そうじゃなくって、、、」

エミリアは彼女がボドウィックの知り合いでもあり、これまでの経緯を話してしまうことにした。もちろん漣がネクロマンサーだったことははぐらかしている。


「そんなわけで、団長は深手のせいで今は部屋で休んでます。あたしたちもやっと食事にありつけたところで。」

「そうか、お前さんたちが階段を降りてくるのは見ていたんだが、なんか食べるのに忙しそうだったから一息つくまで待っていたんだ。あたしもこの宿だよ。」

「えっ、そうなんですか。」

どうやらファナと二人でがっついていたのを見られていたのがわかり、エミリアは顔を赤くする。

「で、ボドウィックの具合はどうなんだい?」

「それが、、、」

エミリアは肩に矢を受け、その後正面から一撃を入れられた事を話す。その傷は胸の骨を断ち切って、中まで届いていた。

現在のボドウィックの状況はファナたちに治癒術は受けたものの決して楽観できる状況ではなく、できれば一刻も早くローランにたどり着きたいものであった。


「そうか、それはあんまし良くはないね。そうだ、パル!!」

そういってフィグは2つほど向こうに離れているテーブルの方へ手を振った。そこにはフィグより少し若いくらいの髪の長い女性が、一人座ってこちらを見ていた。

「ちょっと来てくれない?」

フィグの声を聞き、その女性はテーブルを立ちこちらへと向かってくる。

「パルヴィ・アルミラだ。彼女も12使徒の一人、治癒術師だ。」


「蒼の旅団の方々ね、パルと呼んで頂戴。よろしく。」

そう言って、その女性はニッコリと微笑んだ。

腰近くまである特徴的な白い長い髪の毛が、右手で掻き上げられサラサラと流れていく様子は少し幻想的であった。







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