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ネクロマンサーに、恋をする  作者: 暁カンナ
躍動 シャイア王国編
28/30

第28話 ひとまずの決着


ローランへと戻るエミリアたち一行を見送った後、レン達はバーンハードの馬車にミスファ、その侍女のサリーとバーンハードを乗せ、アーロンは馬に乗り換えて聖エルランジェ王国の王都パールベックを目指すことになった。


今回襲ってきた連中が全員聖王国の騎士の鎧を身に着けていたため、敵に内通している者の存在を疑わなければならない。そのため、首都のパールベックまではミスファはその身分を隠して旅をすることになった。

そうすると、問題は国境の通過である。出発に先立ち万が一を考え、エミリアのギルドカードをミスファに渡している。王女であることを明かせない今、ニセの身分証としてエミリアのを使おうということになったのだ。もとより同盟国の間柄、それほど厳しい検問はないのでそれで十分である。


エミリアの方は国内の移動であるし、ギルドの団長も同行していることもあり、ギルドカードがなくともあまり不自由なことはないはずだ。エミリアがまたローランからパールベックを目指す際は、ギルドで自身のカードを再発行をしているであろうから問題ない。


移動を再開してみると、しばらく行けばすれ違う馬車なども出てきて、また今まで通りの道行きとなる。未だ緊張はとぎれないとはいえ、穏やかな気候とともに一見日常が戻ったかに見えるその風景に、漣も少しホッと安堵の息をついた。

ただ少しでも先を急ぐため、予定していた街より一つ先のターメルの街にたどり着いたのは、もう辺りに少々宵闇が迫る頃であった。


わざと少しランクを落として泊まった宿は、ミスファには新鮮なものだった。確かに豪華な内装や、ふかふかのベッドはなかったが部屋は十分に清潔であり、今まで触れたことのない一般の人々の暮らしの片鱗を少し経験することができたのは、ある意味興味深いことであった。

そんなミスファの気分を盛り上げたもう一つの要因は、もちろん連が同じ屋根の元、しかもうるさい護衛抜きでいることだった。


食事こそ目立たないよう自分の部屋でとったが、その後アーロンであるエルイスト大叔父に漣の部屋に呼ばれ、今はその部屋にいるのはギードを入れて4人だけだった。


「ミスファ、君は今年幾つになる?確か15歳かな?」

「ええ。そうですわ。来年16になります。」

この世界では一人前と認められるのは漣のいた元の世界より大分早い。男女とも16歳が一応の成人の目安であった。

「そうか、すると君が王家の秘密を語られるのは来年だったんだな。」

「王家の秘密?なんですの?それは。」

「必要と思われる成人した王族のみに明かされる秘密だ。ある意味王家の成り立ちに関わる問題でもある。」

「成り立ち?アーロン、僕もここにいていいの?ギードや僕はいないほうがいいんじゃ?」

漣は部外者の自分たちが聞いて良い話なのか判断がつかず、アーロンに問いかけた。

「いや、漣。君もギードも、もう部外者じゃない。それに以前、この話はお前にしている。」


「ミスファ、白銀騎士のことをどう思う?君は今日、彼の戦いそして敗れる姿を見たはずだ。」

ミスファは馬車の窓から見ていた護衛たちの応酬を思い出していた。彼らは自分たちの命を顧みず、懸命に戦っていた。特に白銀騎士は幾度切られても、突れても、決して倒れることなく、首を落とされるまでその戦いの手を緩めようとしなかった。首を落とされるまで、、、


「大叔父様、まさか、、、」

ミスファは自分のした想像を信じられない気持ちで思い返した。確かに白銀騎士団は強い。それは聖エルランジェ王国の中核をなす存在だ。

しかし、いくら切られても、突かれても倒れないのであれば、強いのは当たり前である。そのことはつまり、目の前にいるこの男と同じという意味だ。

ミスファはギードをじっと見つめた。

「そう、白銀騎士はアンデッドなんだ。」


衝撃的な言葉が、アーロンの口から紡がれた。つまりネクロマンシーを闇の呪法として禁忌の扱いをしているその聖王国において、その国の象徴とも言える白銀騎士団が実はその禁忌の法術の産物だなんて。


そんな矛盾が、建国の時から今まで許されていたとは。

それでは一体誰が、そんな禁忌の技を施したのか?しかも800年もの間その事を秘密にしながら。光の女神ルアナを信奉するこの国において、それは決して許されないことなのではないか?実際、ネクロマンサーはこの国では闇の法術士として忌まわしき存在とされている。


しかしそれとは逆に建国時から、白銀騎士団は国を守る最後の守り手として、皆に尊ばれてきた。白銀騎士の強さは光の女神ルアナの祝福のおかげ、そう言う風に自分は教えられて来たし、もちろん国民の皆もそう信じている。

実際、彼らはその役割として近衛の主力を担っているとはいえ、白銀騎士団の管轄はルアナ教皇庁所属になっており、聖王国の軍部とは階級的に直接のつながりはない。


そんな彼らが実は闇の法術とされるネクロマンシーの産物?ちょっとやそっとでは信じられる話ではないし、もしこんな事が漏れでもしたら、それこそルアナ教の根本をも揺さぶりかねない。

ミスファは今聞いた事がにわかには信じられなくて、目を押さえた。小さい頃からルアナ教の教えで育てられた彼女にとって、アーロンの告白はそれほど衝撃的であった。


建国時から、、、ミスファはあの暗い廊下にかかっていた初代国王の肖像画を思い返していた。あの黒髪の、レンによく似た、、、

はっとミスファは両手を口に当て驚愕の顔を浮かべた。

アーロンが口を開く。


「そうだ、ミスファ。君はもう気づいてるね。白銀騎士団を作ったのは、ネクロマンシーの技を使ったのは、初代国王、クオン・エルランジェだ。初代国王は偉大なネクロマンサーだったんだ。」


「どうして、、、それならどうしてネクロマンシーは禁忌とされているの?」

ミスファには理解できなかった。それほど偉大なことを成し得たのなら、その力自体をもっと尊ぶべきなのではないか?何しろ初代国王の行ったことである。ミスファには、十分その価値が有るのではないかと思った。

「ネクロマンシーの力は強すぎるのだよ。そして特殊すぎる。」

アーロンはふっと遠くを見るような目をして、再びミスファの方を振り返った。

「ネクロマンシーの力を受け継ぐのは、代々王族の血のみだ。しかもそれは必ず出現するものではなく、むしろ出ないことのほうが多い。私は数代ぶりに現れた、ネクロマンシーの力を持つ王族だったんだよ。」


アーロンはじっとミスファの目を見つめ、そして漣の方を振り返った。

「ネクロマンシーの力は、戦争において多大な戦略的価値をその陣営に与えることができる。なんせ自軍であれ相手の軍であれ、死者が出れば出るほど死なない強力な味方の数が増えるのだから。聖王家はネクロマンサーの血を王家以外に出さないよう、渾身の注意を払ってきた。もちろん初代様から続く長い年月の間には、その血は薄まって外部に出ることはある。その中でほんとに稀にネクロマンシーの力が蘇ることだってあるさ。」

「しかし王家はそれを宗教上の理由や光と闇の対立にかこつけ、少なくとも我が国においてはなんとか根絶やしにしてきた。他国においてはその血が拡散するのはもっとずっと少ない。そんなわけで、聖王家は今までその力を独占してきたんだ。」


「私にその力が出現した時、前国王、兄は狂喜したよ。幾代ものうち少しずつ減っていた白銀騎士の数を一気に増やすことができると考えてね。領土拡大に野心を燃やす彼の考えを知った時、私は妻レオノーラとともに、国を出ようとした。彼はレオノーラの国、シャイア王国すらその傘下に収めようとしていたからね。」

「そしてその途中、白銀騎士の手によってレオノーラはその生命を断たれた。そして私は、シャイア王国に行けば私の力を恐れる兄が動かないわけはなく、かといって母国に弓引くつもりもないため野に隠れたんだ。」


「そんなひどいことが、、、大叔父様、父は、私の父も同じ考えですの?」

「それはわからない。ただ、現在聖王国ははシャイア王国とは同盟関係にある。むしろ今のその相手は、シルダリア帝国だろうね。そして帝国もすでにこの秘密を知っており、彼らも力のあるネクロマンサーを懸命に探している。」


そしてアーロンはレンの方を振り向いた。その目は異様に厳しいものだった。

「そして今ここに、初代国王とほぼ同等のネクロマンシーの力を使えるものがいる。これがどういうことかわかるかい?ミスファ。」

ミスファも漣をじっと見つめる。そう、自分はあの肖像画を見た時から、不思議に思っていた。なぜ初代国王クオンは黒髪なのだろう。そして、レン。あの試合の時彼の姿を見て、その姿が初代国王に重なったのはなぜ?髪の色だけではなく、両者の間には何故かもっと親しい物を感じられた。

どうして、、、?しかしミスファにはその答えはわからなかった。


「そういう訳で今までレンのことは最重要機密だったんだが、、、多分今回のことでおそらく帝国には知られてしまったな。」

漣はアーロンの言葉を静かに聞いていた。アーロンの所からローランに旅立つ前に、漣はこの話をアーロンから聞いていた。その時はまだこの世界の実情を詳しく知らなかったため、驚きはしたもののそう言うこともあるんだ位にしか思っていなかったのだが、今改めて聞くと、それがいかに異常な事か理解できるようにはなっていた。そして自分もこれからは帝国にも狙われるおそれがある?


しかもアーロンは、まだミスファにすべてを話した訳ではない。

「アーロン、ぼくはどうしたらいいの?」

「取り敢えず、もう個人の思惑でなんとかなるところではないよ。私は君をゲルハルト、今の聖王国国王に会わせようと思う。事ここに至れば、君はもう聖王国あるいは帝国と、全く無関係でいることは出来ないだろう。それなら、自分の立ち位置を早めに決めておいた方がいい。」

「わかった。僕に何が出来るのかは分からないけど、今はミスファを無事に送り届ける事だね。」


アーロンの思惑をすべて理解した訳ではないが、他に選択肢のある訳でもなく、とりあえず漣はそれに乗っかってみる事にした。アーロンと話す機会はまだたっぷりある筈だ。


「それと、ギード。」

アーロンは今度はアンデッドとなった傭兵の方を振り向く。

「君はとりあえずレンの護衛だ。常にレンと行動をともにしてくれ。」

「ああ、分かっている。どうやらレンは俺の主のようだからな。何の不満も無い。」

「ギード。」

漣はこの際なのでずっと聞きたかった事を尋ねてみた。

「アンデッドにした事、怒ってる?」

「分からん。少なくとも怒りの感情も、悲しみも無い。ただ、今俺はここにいて、お前のために行動するだけだ。まあ難しく考えるな、レン。少なくとも俺は死んでた訳だろ。今は少なくとも死んでない訳だし、いや、死んでるのか?う~ん、分からん。まあ俺は別に怒っちゃいないぞ。」

「分かった。なんせ僕はネクロマンシーは初心者だから、又分からないことがあれば教えてよ。」

「いや、俺もアンデッドの経験は無いから、分からんぞ。」



これがネクロマンサー?ネクロマンサーと使役するアンデッドとの会話なの?

目の前ではさっきまでの深刻な話が何処へ行ったのかというような会話がなされている。ミスファは拍子抜けもいい所だった。少なくとも、闇の法術師の恐ろしい存在からはほど遠い。二人の会話を聞いて思い切りため息の出たミスファに、アーロンが微笑みかける。

「レンとはこういう奴だよ。大丈夫だ、ミスファ。」

その言葉に、こくんと大きく頷くミスファであった。



次の日の朝も早かった。昨夜と変わらず部屋で朝食をとったミスファは侍女のサリーと出立の準備をしていた。


「ミスファリア様は、あんな事がありましたのに、ずいぶんと落ち着いておられるのですね。さすが姫様です。」

「7名もの騎士達を失ってしまったのは、とてもつらい事よ。サリー、でも私たちが今こうしていられるのは、彼らのおかげです。」

「それと、バーンハード様達のおかげですわね。私は足手まといにならぬよう、姫様のいわれた通り馬車から出なかったので、戦いの様子は分からなかったのですが、傭兵の方々はずいぶんとお強かったのでしょう?」


法術の使えないサリーは危険なこともあり、馬車からでないようミスファはきつく申し渡していたため、戦いが終わり安全が確認されるまではずっと馬車の中にいた筈である。だから恐らくネクロマンシーのことは知られていないだろうとミスファも含め、皆は考えていた。


「ええ、皆様すばらしかったです。特に、レン様、ギード様、ボドウィック様。」

「レン様に助けていただいて、良かったですね、姫様。」

ミスファとは長い付き合いのある侍女サリーに取って、王女がこれほど異性の他人に興味を示すのを見るのは、初めての事だった。たとえ身分の大きな違いはあるにしても、今一時ミスファ姫が彼に興味を示すのはむしろ喜ばしい事だ。しかも傭兵にしては荒々しい所が無く礼儀正しい彼なら、サリーも全く文句は無かった。


『素敵な方ですね、レン様って。何かちょっと不思議なところもある。でも姫様、お相手しそうな方は多そうだし、油断しちゃダメですよ。」

「ええ、そうね、不思議な方。」

だがミスファは、サリーの思惑には全く気づいていない。初めての感情でもあり、ミスファが自分の気持ちに気づくのはもう少し先になりそうだ。





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