第23話 聖王国へ
結局決勝トーナメントまで後一つという試合で、イーリスは同じ双剣使いのガスパールに惜敗してしまった。
ファビオラの言っていた通り、ガスパールの双剣のスピードはイーリスを少し上回っていた。それに加えて、男性ならではの力強さ、スピードにイーリスも惜しい試合をしたのだが、最後は押し切られて負けてしまった。しかし負けたとはいえ、イーリスの顔は晴れ晴れとしていた。
「あ~あ、今年も決勝トーナメントに残れなかったな。しかし、ガスパールは強かったよ。あいつは下手をすると、ギードに勝って2位になるかもしれない。決勝は、ライムンド、ギード、ガスパールの三つどもえだな。」
「そんなに強かったの?」
「ああ、あたしより強い双剣使いなんてめったにいるもんじゃないさ。」
漣の問いかけに答えるイーリスはなぜか上機嫌だった。理由を聞くと、今度又やるときが楽しみだから・・・だそうだ。漣はなぜだかその気持ちがちょっぴりわかる気がした。
そのイーリスの予想は当たり、前回3位の槍使いシモンはシャイア王国騎士のライムンドに破れ、三つどもえの戦いにあがってきたのはライムンド、ギード、そしてガスパールであった。
そして、決勝トーナメントで優勝したのは前回と同じライムンドだった。ガスパールとの試合は結構あっさりと決めたライムンドであったが、ギードの試合は白熱する前大会と同じような凄い試合だった。剣の大小はあるとはいえ、ライムンドの勝利はそのうまい盾の扱いにあるとレンは見ていた。この先片手剣を使うこともあるだろうし、自分も少しあれを練習しても良いか、そうも思える。
2位を決めるギードとガスパールの試合は結局ギードのパワーで勝負がついた感じだ。剣筋の早さはもちろんガスパールに利があったが、ギードの桁外れのパワーは比べようも無く、ガスパールを圧倒する。
漣はよく自分があのパワーに耐えることが出来たと、今更ながらびっくりしていた。
表彰式も終え、ローラン武闘大会はそのすべての幕を閉じた。約1週間と長かったお祭りの期間も終わりを告げる、なんだか少し、もの寂しい漣であった。しかしまたベルンハルトとの修行の日々が戻ってくる。そして2年後に、また大会はあるのだ。今度こそ漣は、決勝トーナメントに残りたいと真剣に願った。ライムンドと、ガスパールとも闘ってみたい。そしてもう一度、ギードと。
武闘大会の終わった翌日、漣はボドウィックに呼び出しを受けた。
「商隊の護衛の仕事をやってもらう。行き先は聖エルランジェ王国、聖都パールベック。商隊はバーンハードさんのところだ。アーロンも同行する。」
おそらく自分が行くのはアーロンの意向が絡んでいるのだろう。しかしついにこの時が来た、聖王国に行くのか。それほど待ち望んでいた訳ではないのだが、何かようやく一つの区切りがつきそうな気がする。自分の持つ能力の事についても。
「うちから同行するのは、エミリア、ファナ、そして私だ。」
驚いた事に、ボドウィックもそれに同行するという。漣が来てからボドウィックが依頼に同行するのは初めての事なので、漣はちょっとおどろいた。
「出発は明後日だ。準備しておけよ。」
次の日、漣は鍛錬の合間に旅の準備を整えた。何度も護衛の任務をこなしてきた今は、旅の準備もそう手間のかかるものではない。
王女の馬車とともに動くという事は、おそらく今回に限って野宿するはめにはならないだろうから、準備もそれほど大層ではなかった。
そして今は最後の買い物に、ファナと街中に出ていた。エミリアはまだギルドで明日の準備中らしい。
大会が終わったとはいえ、ローランの街は人でごった返している。大会期間中ほどの賑わいは無いが、それでもメインの通りは人とぶつからないようにするのに少し気を使うほどだ。ただ、道の両脇の屋台の数は大会期間中と比べると確実に減っており、ファナはそれが不満そうだった。
「でもほんと人多いよね、この街って。パールベックもこうかな?ファナって行った事あるの?」
「一度だけ。まだここにはいる前、法術の鍛錬でパールベックに行った。」
「ファナって、何処の出身?エミリアに聞いても知らないって言ってたけど。」
言いたくないのかな?という考えもふと浮かんだが、それより先に疑問が口をついて出てしまっていた。
「・・・ないしょ。」
「パールベックじゃないの?」
「・・・ちがう。」
漣はもうそれ以上は問いつめないようにしようと、話題を変える事にした。なんせ自分も突っ込まれるとまずい点は多々ある事だし、、、
「なんか食べる?」
「ん。」
二人は食べ物の屋台を探しに、道の端の方へ寄って行った。
「あたしあれ。」
ファナの指差した先にあったのは、クレープのような屋台だ。漣が元いた世界のクレープと違うのは、生クリームの代わりにたっぷりとジャムを使う甘いタイプのものと、ハムなどの肉や魚のフライを入れたおかず系の物がある事。
今ファナが指差したのは、その甘い方の奴だ。
「じゃあ僕も。」
漣も同じ果物をたっぷりと包み込んだものをもらう。二人はそれを食べながら再び歩き出した。
「ファナは何を買うの?」
「矢の補充。それと補助系の法具を見たい。」
「補助系の法具?」
「ん、法術の威力の強化、持続の延長など補助に使う。たいがい杖に石がはめ込まれたものが多い。でも、あたしのはこれ。弓を使うから。」
そう言ってファナは左手の中指にはめている、銀色の指輪を見せてくれた。そこには青い透明の石がはまっている。
「ミスリル製、いいもの。母にもらった。」
「お母さんも法術師だったの?」
「そう。同じ系統だけどあたしより、ずっとすごい。王宮の専属だった。」
「それは凄いね、どこの王宮?」
「それもないしょ。でも、あたしが生まれたから、もうやめた。」
「もしかして、それ、形見?」
言った後で、漣はまたまずいことを聞いてしまったと思ったが後の祭りである。
「違う、元気。」
しかしその心配は杞憂であった。漣はほっと胸を撫で下ろした。
「レンは何を買う?」
「僕は干し肉とかの保存食かな?馬の上でかじるやつ?」
「わかった、あたしが好きな奴を選んであげる。行こう。」
それじゃまたファナに遠慮なく取られそうな気もしたが、仕方ないか。漣はファナの後をおとなしく付いて行くのであった。
旅立ちの当日、漣はギルドハウスで皆と一緒になった。どうやら護衛するのはバーンハードの乗る馬車1台らしく、商隊というよりは彼個人の護衛のようだ。
「聖王国のパールベックまで行く間にも、盗賊や獣が出るところがあるの?」
漣はエミリアに尋ねる。
「ないわね。ここいらで一番交通量の多い大きな街道だから、それほど治安は悪くないわよ。この2国の王都同士は、意外に近いの。まあ、到着まで約10日~14日。ペースや天候で変わるけど、道もそれほど悪くないし。途中ちょっと見通しの悪い道の細くなる部分はあるけど、問題ないわ。」
「それならこの人数で安心だね。」
「法術師のファナまでいるのよ、全く問題ないわよ。」
「ん、がんばる。」
ファナもぐっと拳を握っている。どちらかというと、今回はパールベックへの観光旅行的意味合いが強いのかもしれない。皆、何かうきうきした気分だといっても、エミリアとファナの二人の事なのだが。
「集合は王宮前広場だ。」
ボドウィックが近寄ってくる。王宮前広場?パールベックへ行くなら普通は王都の西門じゃなかったっけ?それが北地区の王宮前広場?漣が首を傾げていると、ボドウィックがそれに答えてくれた。
「今回の旅は、聖王国のミスファ王女の馬車にご同行させてもらう。」
「え~っ、あたし達が王女様を護衛するの!?」
「いや、それは無い。向こうは正騎士が5人と白銀騎士が1名、法術師が一人いると聞いている。いくらなんでも、他国の傭兵ごときに任せることはないよ。我々が護衛するのはあくまでもバーンハード様だ。バーンハード様は知っての通り、聖王国の王宮御用達の大商人だ。そのおかげでミスファリア王女どもずいぶんご昵懇らしい。だから今回日程が同じだったのでご一緒しましょうかということになったんじゃないか?」
「それと我々にも、もう一人護衛の傭兵が加わるらしいぞ。うちの奴じゃないみたいだけどな。」
王女様か、どんな方だろう。現代日本に住む者としてはおとぎ話の中でしか縁のない存在に、漣はちょっとドキドキした。言葉使いとか、どうするのかな?
「エミリア、どう話しかけたらいいの?礼儀作法なんて全然知らないよ。」
「スケベ、あんたに話す機会なんて無いと思うわよ。遠くから見ることは出来るかもね。」
「大丈夫、相手にされない。」
二人からの答えは、ひどいものだった。
確かアーロンは、ミスファって言ってたな。しかしおそらくアーロンは、まだ自分の正体を明かすつもりは無いらしい。それならおそらく、自分も王女様とふれあう機会さえ無いだろう。王女様と話す機会が無いというのはちょっと残念だが、今回は自分もおとなしくしていた方が良さそうだ。
準備を終えた漣は皆と一緒に王宮前広場までやってきた。実は漣はここに来たのは今まで一度しかない。それも、ローランに来て初めてエミリアに街を案内してもらったときだけだ。自分には縁のない所だと思っているのもあるが、王族とかとあまりかかわり合いにはなりたくないと思っていたのも事実だ。しかしレオン王子と口をきく機会もあり、アーロンのこともあるので、王族がそれほど遠い違った存在とは思っていなかった。
バーンハードの馬車は、その王宮前広場に既に止まっていた。旅立ちの準備はもうできているようで、馬車の周りにはバーンハードともう一人ずいぶんと背の高い傭兵らしき護衛がいる。漣達はバーンハードの馬車に近づいて行くと、その傭兵が自分のよく知る人物であるのに気がついた。
「よう、レン。大会以来だな。」
「ギードさん。」
そう、その傭兵は漣が3回戦で接戦を演じたあの大剣使いギードであった。バーンハードが微笑みながら近づいてくる。
「もうじきミスファリア王女がお出でになると思いますよ。そうそう、レン様はギードをよくご存知ですね。彼にも、パールベックまでの護衛の仕事をお願いしましたので、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。レンでいいです。」レンはあわてて返事をする。しかしその場にはもう一人いる筈の人物が見当たらない。
「アーロンはどうしたのですか?一緒に行くと聞いていましたが。」
「アーロン様なら、西門で合流いたします。あっ、出ていらしたようですね。それでは私はちょっとご挨拶に行って参ります。」
王宮の方を見ると小さな方の門が開き、そこから瀟洒な成りをした2頭立ての馬車と騎士達の乗った馬が6頭門前に姿を現した。バーンハードがそこへ近寄っていき、馬車の中の誰かに声を掛けている。おそらく同行する王女であろう、ずいぶんと親しげな様子だ。
「それでは参りましょう。」
王女の馬車達を先導するように、漣達は出発した。ボドウィックが馬車を先導し、漣とギードがその後に続く。
「ギードさん、準優勝おめでとうございました。」
「いや、去年と同じであんましめでたくないんだけどな。今年もライムンドには勝てなかったよ。今年はやれると思ったんだけど。」
「そんなに彼は強かったのですか?」
「レン、強さには行く通りもの種類がある。お前さんの師匠のベルンハルトのような圧倒的な強さもあれば、ライムンドのそれは確実な強さだ。そして確実な強さってのはそれを打破るのがとても難しい。」
「やつは、非常に正確な攻撃とそれに勝るとも劣らない正確な防御をする。その正確さって奴があいつの最大の強みだ。自分の力をわきまえ、相手の強さを看破し多くもなく少なくもないベストな攻撃と防御を繰り出してくる。お前にもあいつとやり合うチャンスがあれば、とても学ぶ事が多いぞ。」
「盾の使い方がとてもうまいと感じました。」
漣は自分が試合を見て思っていた事を伝えた。
「そうだ。奴は相手の攻撃に対し、とても正確に盾で防御してくる。力技だけであれを破るのは難しい。力とスピード、正確さ、それと知恵が必要になってくるよ。」
漣はぜひ一度いつか対戦したいものだと思いを巡らせる。そうこうしているうちに、馬車は西門へとたどり着きそこには旅支度を整えたアーロンが立って待っていた。
「アーロン、一緒に行くんでしょ?馬は?」
「やあレン、道中よろしく頼むよ。私はバーンハードさんの馬車に乗る。」
そう言ってアーロンはバーンハードの馬車に乗り込む。こうして一同は西門を出て一路パールベックへと向かった。
パールベックまでの道のりのうち、シャイア王国と聖エルランジェ王国の国境までの道のりは5日~6日、国境からパールベックまでは聖王国の中を6日~8日行くことになる。合間合間には大小の違いはあれど街があり、今回は王女に同行ということもありどうやら野宿は免れそうだ。
初日は間の街を一つ飛ばして行くこともあって、結構な距離をかせぐ事となった。おかげで宿泊するルーベンの街に入ったのは日も少し暮れかかる頃で、久しぶりに一日中馬に乗るはめになった漣は馬から下りて大きく背伸びをした。
「今日はくたくただ、腰がのびないよ。エミリアとファナはよく平気だね。」
「平気なわけないじゃない、でもあんたよりは慣れてるから。うちにきたときは馬にもうまく乗れなかったのよね、あんた。」
「だって、アーロンのとこからローランに来たのが初めてだよ、馬に乗るの。」
「一体、どんな生活してたのしてたのかしら。傭兵だったんでしょ?あなた。」
「う~ん、でも馬は必要なかったからな。とにかく長時間乗る事なんて、無かったんだよ。」
「私は馬好き。」
「ファナは馬と仲いいからな。」
そう、ファナは馬に限らず動物全体に好かれる。ローランでも街中の犬や猫は大概友達だ。もちろん馬とも良好な関係を保っており、なんとかご機嫌を伺いながら乗せてもらっている漣とは大違いだった。
「それにしても今日は王女様の顔を見れなかったね。途中の休憩も別だったし、泊まる宿も別みたいだし。」
宿泊する街に到着すると、王女一行はその街でも最上級と言ってもいいであろう宿屋で荷を解いた。それに対し、バーンハード一行はそれよりは数段落ちる宿屋である。それでも漣にとっては初めて泊まるような豪奢な宿ではあったのだが。
「当然よ。ここと次のトーバンの街は比較的大きな町だから、宿も選べるしね。もっと小さな街になれば、一緒になるときもあると思うわよ。」
宿の下男に案内してもらい馬を郭につないだ漣は、ファナとともに飼い葉と水を与え、自分たちの部屋へと荷を運んだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回少し間が空くことと思いますが、よろしくお願いいたします。




