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ネクロマンサーに、恋をする  作者: 暁カンナ
躍動 シャイア王国編
20/30

第20話 2回戦

 

 

 

「到着が今日になってしまってごめんなさい、ベアトリス。出発が一日延びてしまって。」

そうシャロン王国第一王女ベアトリスに話しかけていたのは、聖王国の王女ミスファリアであった。本来は昨日到着し、来賓の挨拶にも出る予定であったが、出発する際その前日まであった慈善事業の仕事がずれ込んで、こちらへの出発を一日先送りにしたのだ。

「いいわよ、そんなの。どうせまだ1回戦なんだから。見たってたいしたことないわ。それよりレオン兄さんも1回戦勝ち越して、明日の2回戦は出るわよ。」

「それは楽しみね。お相手はどんな方なの?」

「お相手って、まるで婚約者の品定めみたい。変なの。」

ぷっとベアトリスは笑う。そこへ当人のレオン王子が足を運んだ。


「ミスファリア王女、お久しぶりです。ますます素敵に奇麗になられて、うちのベアトリスも見習って欲しいものです。」

「レオン兄様、そんな事言わないでください。あたしだって頑張ってますのよ。」

「ベティ、お前はまだまだおてんば娘だよ。」

そう言って、ポンポンとベアトリスの頭をたたく。

「又子供扱いして。」

不満げなベアトリスは置いておいて、先ほどの話をミスファはレオン王子に聞いてみた。

「ところで明日の対戦相手の方は、どのような方なのですか?」

「うちの国の傭兵団の傭兵です。碧の旅団といい、結構な腕前の者達が集まっている。規模は小さいが、実力はぴか一ですね。」

ミスファははっとした。確かついこの間、その名前を聞いた所だ。

「どのような方なのですか?」

「確か、レン・ミドウとか言ったな。変わった名前だから覚えています。まだ若く、16歳で両手剣を使う。そうそう、彼はかの剣聖ベルンハルトの弟子ですよ。今まで決して弟子を取らなかった彼が、初めて取った弟子という事で結構話題にはなっている。」

そこへベアトリスが口を挟む。

「今日の彼の試合も、凄かったですわ。うちで一番大きな傭兵団サンドライン傭兵団の双剣使いを、一撃で倒してしまいましたもの。レオン兄様、気を付けてくださいな。」


彼だ。ミスファにはすぐわかった。シャルロットを助け出し、バーンハードを救った黒髪の少年。シャルロットのお熱の相手。そうか、やはり出ていたのだ。しかし剣聖ベルンハルトの弟子だったとは。ベルンハルトの名前くらいは聖王国の王女とはいえ耳にしていた。

「ベティ、彼の髪の色は何色でした?」

息せき切って聞く。ミスファの脳裏には、あの宮殿のうす暗い通路を見上げた先にあった姿が、浮かび上がっていた。

「ミスファ、どうしたの?髪の色?う~ん、覚えてないわ。お兄様は?」

「う~ん、どうだったらな?剣の方にばかり気を取られていて。誰かに聞いてみようか。」

そして、近くにいた近衛兵に声をかけた。その近衛兵は、確か今日王族の警護で会場にいたはずだった。

「ちょっと聞きたいんだが、明日私と対戦する碧の旅団の両手剣使いだが、髪の色を覚えていないか?」

声をかけられた近衛はしばらく考えていたが、はっと気づいた様に返事をした。それを聞いたレオン王子が戻ってくる。

「近衛に聞いていて思い出したんだが、銀色のヘルメットをかぶっていましたよ。顔は隠さないシンプルなタイプだった。」

「そうですか、、、」

ミスファは少し残念だった。おそらく髪の色を隠したい彼は、明日もそれをかぶってくるだろう。もし彼が3位以内に入れば、さすがに表彰式にはヘルメットを脱いでくるだろうから判明するだろうが、もしそこまで上がってこなければ、会う機会はあるまい。まさか他国の王女が、髪の色を確かめるだけに傭兵ギルドへ会いにいく訳にもいかず、残念ながら、ミスファにそれを確かめるすべはなかった。




「さあ、今日も勝つぞ!!」

気合いを入れたエミリアはレンの背中をバンと叩いた。レンは思わず2、3歩よろける。

今日は第二試合9試合すべて行われる。そして各ブロッックから3名づつ第三試合の出場者が決められ、そこへシード組が参加して各ブロック4名で明日第3試合が行われる。そこで勝ち残れば、いよいよ決勝トーナメントだ。

昨日と同じ様に観覧席に先に席を取りにいく。ファナとファビオラはそのまま観覧席に陣取り、レン達3人は選手の受付に向かった。

エミリアは午前の試合、イーリスとレンは午後からの試合となったので、イーリスの試合は見ることができないが、エミリアのは応援できる。


「それじゃ、あたしはここで。」

「頑張って、エミリア。応援してる。」

控え室に向かうエミリアを背に、レン達は観覧席に戻った。エミリアの試合は今日は第3試合だ。ファビオは第2試合、一つ早い。

席に戻るともうファナは串を手にもぐもぐやっている。

「どうだった?」

聞いてくるファビオラにスケジュールを話す。

「ファビオが第2、エミリアが第3試合。イーリスが第6試合で、僕が最後の第9試合。」

「レンの相手がレオン王子だから、絶対最後にしたのよね。いいなぁ、目立って。」

確かに驚いた事にレンの相手はこの国の第2王子レオンだった。もちろんトーナメント表を見ていれば昨日のうちに気づけたはずなのだが、昨日は舞い上がっていて、それどころではなかった。

「レオン王子って強いの?わざと負けたりしなくていいのかな?」

「レン、それやったら本気でまずいぜ。相手はガチだ。あの王子、ガチでやらないと不軽罪だとか言って牢屋にぶち込まれるぜ。」

イーリスがおっかないことを言ってくる。でも普通にやればいいなら漣にとってその方が楽だった。なんせ八百長試合なんてやった事がない。

そうこうしているうちに試合は始まっていた。


「さあ、ここに始まる第2回戦。その初戦は両手剣の使い手ベルグスト公国から来た騎士のルーカスだ。珍しいベルグスト公国からの参加者、果たしてどんな試合を見せてくれるのか?」

「対するは我が国の傭兵団サンドラインの妖艶の鞭使い、ムレーナ嬢だ。そのダイナマイトボディの振るう鞭に身を委ねたいのは誰だ!?」

おいおい、王族も列席してるんだろ?そんな解説で大丈夫か?いつものようなイケイケの司会に漣はちょっと心配であった。

「あんのムレーナ、勝ち上がってきやがったわね。」

ファビオラの様子が変だ。どうも二人の間に何かあったのか?やけにムレーナに対し敵愾心を向けている。

「ファビオラさん、どうかしたの?」

漣が聞いたとき、ファビオラの後ろでファナが大きなバッテンマークを作っていた。

「ファビオラの奴、昔ムレーナに男をとられたんだよ。それ以来、目の敵さ。」

イーリスがその理由を教えてくれた。えっ、もしかして触れてはいけない話題?

「イーリス、あんた絶対勝つのよ。今日あいつが勝ったら、明日はあんたとなんだから。」

「へいへい、わかってるよ。」


鞭がそんなに強いのか?漣には不思議だった。どう見ても、相手の方が強そうに見える。

「そんなに強そうに見えないでしょ?でもあいつはね、いやらしい試合をするのよ。くやしいけど、決して弱くないわ。」

ファビオラの言う通り、ムレーナは鞭を相手の顔の近くて鳴らしながら近くに寄らそうとはしない。相手が無理矢理突っ込もうとすれば腕をはたき、足に絡ませ、なかなか距離を詰めささない。常に自分の間を保ち、相手を動かせ時間を稼ぐ、重量のある装備をした相手にとっては長期戦になると不利なのは目に見えていた。

そのうち、動きの鈍って来た相手に対しムレーナは顔と足を交互に重点的に狙いだした。どうしても剣を顔の防御の方に回す相手に対し、がら空きの足下を重点的に狙っていく。

ついに足下を絡ませられ重心を崩したルーカスはその剣をムレーナに巻き取られ、一気に距離を詰めたムレーナの左手に持つナイフがピタリと喉にあてられた。勝負はあった。

「だから言ったでしょ、絶対負けちゃダメよ。分かった?」

司会の勝者紹介のアナウンスをバックにファビオラはまたイレーナに詰め寄る。

「はいはい、今日あたしが勝ったらね。まあ、負ける訳ないけど。なんせ、アレクシスだし。」

そうなのだ。今日のイーリスの相手はあのアレクシス。どうやら誰もイーリスが負けるとは思っていないようだ。


続いて出て来たファビオは、両手剣使いのこの国の騎士とか言うのにあっさりと勝ち、いよいよエミリアの番になった。

「さあ、第3試合は皆様お待ちかね、ローランのアイドル死突の鬼姫エミリアの登場だ。今年は1回戦を難なく切り抜け、2回戦に上がって来たぞ!!さらに高みの登るのか?」

「対するは、聖王国のなんと近衛騎士だ!!本大会初参加、近衛騎士の肩書きはだてじゃない。目にも留まらぬ双剣で、ここまで駆け上がって来たガスパールだ。」

司会によると対戦相手は聖王国の近衛騎士らしい。

「イーリスさん、近衛って?」

「ああ、騎士の中のエリートさ。今までの奴らとはちょっと違うぜ。こりゃ、エミリア苦戦するかもな。」

イーリスの言葉通り、試合が始まってすぐエミリアは仕掛けていったが、そのレイピアの動きはルーカスの左手によりすべて止められている。おまけにガスパールは、まだ一度もその右手を使っていない。

「ちょっとエミリア押されてるね。」

「あいつは強いぞ。これはちょっとヤバいかもな。」

最初は攻撃を主に行っていたエミリアも、時間が経つにつれ疲れて来たのか守勢に回る方が多くなり、距離をとり始める。すると今度はガスパールが前に出てくる。エミリアのレイピアを左手の剣で防ぎ、時折右手で攻撃に出る。何度もエミリアはそれを躱していたが、ついにガスパールが左で一気に前に出て来たときレイピアを飛ばされ、胸元に右手の剣先を突きつけられて降参した。


帰って来たエミリアは、以外とさばさばしていた。

「残念だったね、もうちょっとだったのに。」

「いやレン、あれは相手が悪かった。あいつはそうとう強いぞ。」

「うん、ガスパールは強かったよ。手も足も出なかった。あいつは決勝トーナメントまでいくかも。」

レン達の慰めの言葉に、エミリアははっきりとそう言いきる。

「でもここまで来れて、十分満足。楽しかった。じゃあファナ、何か買いに行こう。お腹空いたよ。」

「ん。」

そう言って二人で席を立って行った。さあ次は、いよいよ自分達の番だ。


 



ミスファはベアトリスと共に貴賓席の席上にいた。幼い頃から近衛騎士団の練兵は見る機会があったが、武術そのものにさほど興味がある訳ではない。どちらかと言えば、法術の方が興味を引かれる。ミスファ自身も自分が剣をこの手に持つことになるとは、思ってもいない。

そんなわけで、両国親善のため表敬訪問の意味合いも兼ねての今回の武闘大会観戦は、退屈な時間になるはずだった。

しかし昨晩の話の影響で、ミスファは今日の観戦がとても楽しみになっていた。

何度もベアトリスにレオン王子の試合はいつか聞き返す。そんなミスファに、ベアトリスも少し食傷気味である。


「ミスファ、そんなにレオン兄さまの試合が楽しみなの?ねえ、もしかして、気になってるの?」

「えっ?何が?ちっ違うわよ。」

何が?の相手が二人の間では全く別人であったが、そんなことに気づく筈もなく、ベアトリスはこれはもしかしたらと一人ほくそ笑む。

「午後の最後だから、まだしばらく先よ。」

当事者のレオン王子は軽く体をほぐしておくと、もう貴賓席を立ってどこかに姿を消していた。

「ベティはこういうのに興味があるの?見ていて退屈しない?」

「あたしは好きかな。強い男の方って、何か憧れるわ。ミスファは?」

「私はちょっと分からないかな?」

でも、レオン王子には悪いが彼には勝って欲しいかも。ひっそりとそう思う。出来れば3位以内に入って表彰式のとき私の前でその顔を見せてくれれば。

レンの試合が待ち遠しいミスファは、そう願っていた。


「それじゃあたし達は行くよ。」

イーリスと漣はそう言って立ち上がった。昼食は、エミリアとファナが買って来てくれた物で済ませてある。以前街中で食べた事のあるドネルケバブのようなサンドイッチと肉の串焼きだ。

「頑張って来てね、イーリス、レン。今晩も祝勝会よ。」

エミリアは立ち上がって、手を振った。ファナはまだ何かをもぐもぐしており、手だけを挙げる。

2回戦ともなれば観戦する人も多くなり、昨日よりは人が込んでいる。その人ごみを避けながら二人はいったん建物の外に出て、選手の受付に行った。

「又後で、レン、頑張れよ。」

午後の最初の試合になるイーリスは、直接出場者待機場所の方へ行くようだ。漣はイーリスの試合が見れないのは残念だったが、選手の待合室の方へ足を向けた。

ファビオも午前中の試合で勝利しており、イーリスもアレクシス相手なら多分順当勝ちをするだろう。それなら後は自分だけだ。

少なくとも、恥ずかしい試合は出来ない。午後の試合は全部で4試合。間に2試合あるとはいえ、それほど時間に余裕のある訳ではない。少しでも体をほぐそうと、待合室に行く前にストレッチをするため裏庭に出た。


そこには先客がいた。年の頃は20代半ばくらい?金髪にがっちりとした体つき。今ここにいると言う事は、この青年も今日の出場者かもしれない。

目が合ったので漣は目礼し、反対側の空いた所でストレッチを始めようとした。しかしそれは近寄って来た青年によって中断された。

「やあ、君も出場者かい?」

まさかこの試合前の緊張した時間帯に、声をかけてくることがあるとは夢にも思わなかったため、一瞬返事が遅れた漣はあわててフードをとった。

フードをかぶっていたため、その頭にはヘルメットは被っていない。

「はい、最後の試合に出ます。」

そう答えると、相手はびっくりした様に目を見張る。

「そうか、君がレンか。私が対戦相手のレオンだ。よろしく。」


レンは突き出された右手を慌ただしく握った。固いタコの出来たそれは、とても王子の手とは思えず、ごつい傭兵のそれに近かった。

この人は強い。漣には握りしめた手からその事を感じ取った。

「よろしくお願いします。」

「珍しい、髪の色だな?」

漣はフードを外していたことを思い出した。しかし今更被っても仕方がないだろうし、相手はこの国の王子だ。何か問題にすることもあるまい。

そう思ったとき、突然レオンが漣に尋ねて来た。

「君は聖王国のミスファリア王女は知っているかい?」

「ミスファ?」

どこかで聞いた事が、、、そう言えば以前アーロンがその名前を口に出していたと思い出した。

「彼女が夕べ、ずいぶんと君の髪の色の事を気にしていてね。いや知り合いかと思ったのだが、違うならいいんだ。それでは、いい試合をしよう。」

そう言ってレオンは待合室の方へ戻って行った。


聖王国の王女が自分の髪の色を?どこで聞いたのだろうか?自分自身には全く覚えがないし、もしかしてアーロンつながりか?後でアーロンに聞いてみよう。それより、王子様の御前にいて臣下の礼とかしなくてよかったのかな?日本人の自分は王族と言われてもピンと来ないし、ずっとアーロンと一緒にいてたせいで慣れてしまったのもある。何よりやり方が分からない。まあいいか。

そう思い、漣はストレッチを再開した。




今漣は闘技場の中央に立っている。本日最後の試合、レオン王子との対戦が始まろうとしていた。

イーリスのことは案内係から勝利の結果を聞いて、ほっとしていた。分かりきっていた事であるがそれが確定するのとしないのでは、雲泥の差がある。きっと今はあの辺りの観客席で、自分の試合を見守ってくれている事だろう。


「さあ、今日最後の試合になりました。我が国の誇る第2王子レオン シャイア様。王族でありながらその武術の才は素晴らしく、数々の武勲を既に打ち立てられております。今回も予選組からの勝ち上がり、ガチの本戦出場者です。」

「対するは、昨日サンドライン傭兵団の尖鋭オマールを一撃の下に下した若き碧の旅団の星、レン・ミドウ。あのベルンハルトの弟子であるのは、もう言う間でもありません。」

相変わらず、危ない発言の多い司会者だなと思う。そのくらいの余裕は2回目の試合と言うこともあり、レンの中に生まれていた。

「それでは、試合開始。」

審判の声と共に、両者はにらみ合ったまま動かなかった。どちらも相手の出方をうかがっている。この人は、出来る。その隙のなさは昨日の傭兵とは明らかに違う、漣はそう思うとなかなか前に出れなかった。


しかしその時レオンが動いた。シールドで漣の大剣を警戒しながら、右の片手剣で打ち掛かってくる。早い!!両手剣でそれをさばきながら後ろへ下がる。

両者は再び、相見えた。

そして今度は漣が前に出た。上段より一気に切り落としにきた刃をレオンはシールドで防ぎ、右手の剣で横から薙いでくる。それを漣は上から押さえ込み、返す刃で下から切り上げる。それを今度はレオンがシールドで受け止める。漣はそのままシールドに体を当てて行き、一気に体当たりで押し込む。

まるでこの小さな体がそんな力で押し込んでくるとは、夢にも思わなかったのであろう。レオンは思わずたたらを踏み体勢を崩す。そこヘレンはがら空きの足下へ切り込み、その刃はレオンの下半身に食い込んだ。レオンは思わず後ろに下がり、いったん体制を持ち直した。両者とも肩で息をしている。


その後何度も決着のつかない切り結びがあり、試合は長期戦にもつれ込んでいた。

あの小さい体になんてパワーだ。レオンは漣の身体能力に驚愕していた。おまけにスピードも驚異的だ。先ほどからなんとかシールドで剣戟を止めて入るが、それもなんとか勘が働いて当てることができた、しかし、シールドを持つ左手が痺れてもう持たない。一撃一撃が相当重い。これ以上長引くと、こちらが不利だ。そう考えて、レオンは最後の攻勢に出ることにした。


右の片手剣で切り掛かる、しかしこれはフェイントだ。漣がそれを受け止めに行った所で左の盾を水平にして思い切り殴りつけた。これで相手の右手は使い物にならない、そのはずであった。


漣もそろそろレオンが勝負をつけにくると感じていた。その時レオンが動いた。右から片手剣で大きく振りかぶって切り込んでくる。妙に動作が大きい、両手で持つ大剣をそれにあわせに行った時、右から相手の盾が真横に殴り掛かってくるのに気がついた。しまった、体は左を向いている。今からでは体をひねり、両手剣を戻すのには間に合わない。その時逡巡した大剣はレオンの片手剣を受け止めきれず、その刃は軌道を替えて漣のヘルメットの留め具に当たり、漣の頭からヘルメットを弾き飛ばした。しかし漣はとっさに大剣から左手を離し、右腕一本で剣を返して下からその盾をはねのけ、がら空きになった相手の胴へ思い切り右から叩き込んだ。

レオンははねとばされ、もんどりうって倒れた。場内が歓声に包まれる。そしてレオンはそのまま再び起き上がることはなかった。

審判が漣の勝利を声高に宣言した。




試合が始まったとき、貴賓席ではミスファが闘技場中央を見つめていた。両者が出てくる。左手の銀色のラメラー・アーマーを着ているのがレオン王子であろう。となると、右手の皮鎧にハーフプレートの装備にヘルメットを被ったのがレンと言う傭兵か。確かに、ヘルメットのせいで髪の色は確認できない。


「いよいよ、お待ちかねのレオン兄さんの試合ね。ミスファ、応援してあげてね。」

隣でベアトリスが興奮気味に話してくる。

しかし、試合は始まると同時にこう着状態に落ちていた。軽くて合わせをした後、両者ともなかなか動かない。

「う~、レオン兄様早くやっちゃいなさいよ。兄さまなら簡単なのに。」

「ベティ、レオン様って、その、お強いの?」

ミスファには試合を見ていても、その強さはよく分からない。おまけにレオンは王族である。それほど剣を合わせる場にかり出されることはない筈なのだが?

「レオン兄さまは、そうね、うちの騎士団長といい勝負をするわよ。3回に1回くらいは勝つんじゃないかしら。だから正直、あの少年に目はないわね。」

確かにここから見た漣は体の線も細いし背も低く、明らかに体はレオンに見劣りする。ここで消え去ってしまっては髪の色を確かめることはできないが、それも仕方がない。


そう思って試合を見ていたが、意外と少年は善戦していた。というか押している風にも見える。

横を見るとベアトリスの表情も冴えない。

「ベティ、どっちが勝ってるの?」

ミスファは、しかしこういうのを見るのは初めてなので、自分が見た試合の感想に自信が持てなかった。

「旗色悪いわね。信じられない、あんな子に。でも凄くいい動きをしてるわよ、あの子。しかも力も相当あるみたい。」

やはり、押しているのは少年の方らしい。ミスファは、ベアトリスには悪いと思ったが、心の中で声援を送る。

やがて、レオンが攻撃を仕掛けた。右手の剣が少年を襲う。それを迎え撃った少年の剣がレオンの剣先をそらし、少年のヘルメットに当たってそれをはね飛ばした。短い黒髪が闘技場に揺れた。


「あっ、」

ミスファは口に手を当て思わず立ち上がっていた。そこに見たのは、遠くて顔つきまでは分からぬがあの肖像画の中にいた者を若くした姿だった。そのとき、突然周りから大きな悲嘆が上がり、隣でベアトリスが立ち上がっていた。見ると、レオン王子が少年の向こう側に倒れている。

「レオン兄さま!!」

心配そうに闘技場に横たわる兄を見つめる親しい友人のの姿を見て、ミスファの心は少し痛んだ。



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