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ネクロマンサーに、恋をする  作者: 暁カンナ
躍動 シャイア王国編
15/30

第15話 葛藤


 

 

漣達一行がルゼールの街にはいったのは、盗賊の襲撃があった翌日の夕方だった。商隊と分かれて宿を取る。帰路はまた同じ商隊の護衛任務で、出発は2日後であった。


漣も一晩経つと少し落ち着き、エミリア達と会話も出来るようになったが、2日後にまた護衛任務で盗賊の襲撃があるとすれば、同じように剣を振るえるか自信は全く無かった。かといって中途半端な事をすればまた誰かを傷つける事になるかもしれない。


どうしたらいいんだろう、僕は傭兵を続けることが出来るのか?

それは16歳になる直前の現代人の少年にとっては、あまりにも当然な逡巡であった。


肉を断つやいばの感触、時には顔にもかかる飛び散る返り血、相手のあげる悲鳴、、、獣を切る時と同じ物とはいえ、やはり今までの狩りとは全く違うその衝撃に漣はまだ傭兵を続けることいや、この世界で生き抜いて行く自信すら全く感じられなかった。


今までやって来た鍛錬の意味、この2年近くの間に行って来たすべての事が全く意味をなさない、そんな手ひどい喪失感に今漣は打ちのめされていた。

エミリアやファナが心配のあまり、かえって声をかけづらくしているのも分かる。その心遣いすら、今の漣には重たい物だった。


「レン、大丈夫?」

「ちょっと今回はまずいわね。人を殺したの、初めてだったみたい。」

「獣も人も同じ、生き残るには、仕方ないこと。なぜ悩む?」

「おいおい、あいつは傭兵なんだろ?今まで人を殺した事がないって本当か?優しすぎるんだよ、あいつは。いいとこのボンボンだったのか?」

ファナ、エミリアやリックも心配そうに額を突き合わせるが、もちろんいい解決策は思いつかない。


次の日、買い出しをするエミリア達と途中分かれて、漣は一人街を歩いていた。目的というほどの物は無く、ただ一昨日の事を思いぼんやりと足を進めていた。考えがまとまる訳もなく、そのうち考える事すらうっとしくなってどこへ行く宛もなくただ単に足を動かしていた。


しかし、そんな漣を物陰に隠れてこっそりと見守る男達がいた。

「おい、あいつ。あの大剣を背負った奴。」

「ああ、あの商隊にいた奴だな。」

男達は、漣達の商隊を襲った盗賊の一味だった。ルゼール近郊を根城にしている彼らは、この街で次の得物になる商隊を探し、その情報を得ていた。


一昨日の襲撃の際は襲撃部隊には加わらず、離れた所から襲撃の成果を待ち構えていたのだが思いもよらず襲撃が失敗に終わり、アジトへその報告をするため駆け戻っていた。そして今度は新たな得物、ルゼールの街から外へ出て行く隊商の情報を得るため、街に侵入していた。


「あいつ、俺の連れをやりやがった。許せねえ。」

「おい、お前も見ただろう。あいつは腕が立つぞ、放っておけ。」

「いやそうはいかねえ、おまけに今は奴一人だし、俺たちは3人だ。やれるさ。おまけにもし帰りのあいつらをやるなら、一人でも減らしておいた方がいい。」

「まあ、それはそうだな。やるか?」

男達はこっそりと漣の後をつけ始めた。


ルゼールの街自体は大して大きな街ではない。大通りがありその両脇には宿屋や商店が建ち並ぶが、それ以外はこれといった広い通りは無く、狭い路地が交差し、鍛冶屋や鉱山関係の店が点在する。


そんななか、ぼうっと歩いている漣の足下にとんとぶつかるものがいた。はっと我に返り目を下に向けると、走ってきたのであろうか3歳くらいの小さな男の子が漣の方を向いてにこっと笑っている。


「大丈夫?」

にこっと笑うのも忘れて慌ててそう聞き返した漣に、後ろから声が掛けられた。

「ごめんなさい、うちの子がぶつかったみたい。トール、ごめんなさいは?」

「ごめんなさい、おにいちゃん。」

ここでようやく漣の顔に笑顔が生まれた。

「ぼうや、トール君か、大丈夫だった?」

「うん。」

「すみませんねぇ。気をつけなさい。」


そう言って母子は再び通りを歩いて行く。男の子は母親の言った事などもう忘れて、勢いよく走って行った。

今の小さな些細な出来事のおかげで、朝から答えの無い問いにずうっと思い悩んでいた漣の心に、少しの休息が生まれたような気がした。自分の中ではまだ答えは出ていないし、すぐに出るとも思えない。ひとまず考えるのをやめよう。そう思うと、ちょっとばかり楽になった気がする。たとえそれが単なる先送りでしかないとしても。

漣は顔を上げて歩き出した。


人通りも大通りはそれなりにあるものの、一つ路地を入るとほんとに数えるほどになる。しかも夕方以降ならともかく、昼間鉱山の稼働している時間帯は鉱山で働く労働者もおらず、店のある通り以外は閑散としていた。

漣はそんな細い路地をそろそろ宿の方へ戻ろうかと歩いていた。しかしそれほど大きな街でないとはいえ、すぐに方向が分かる訳ではない。う~ん、どっちだったかな?とりあえず大きな通りに出るか。そう思った漣の前に二人の男が立ちふさがったのは、あたりにちょうど人気もなくなった路地奥であった。


「よう、にいちゃん、道を教えてくれないか?」

決して高価な物ではないがよく使い込まれた皮鎧、いかにも手入れの悪そうな片手剣、そう言った風体をした2人組の男達がそう言い、ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。漣は自分が今道に迷っているのに弱ったなと、問い返した。

「何ですか?僕、昨日着いたばかりでこの街のことはよく知らないんです。」

「そうかい、そいつは悪かったな!!」


そう言うと男二人は突然腰の剣を抜き放ち、漣めがけて切り掛かってきた。漣は咄嗟にバックステップでそれをかわす。

「なぜ?誰だ?、お前達。」

なぜ自分が襲われる?物盗りか?漣は背中の大剣を抜き正面に構えた。

「お前、おとといの隊商の奴だろ?あの時はよくもやりやがったな。まさかあの人数にやられるとは思わなかったが、帰りも襲うためにはここでちょっとばかし数を減らしとかねえとな。」


そうか、こいつらはあの盗賊の生き残り。帰りも襲う?漣はなんとしてもカール達にこの事を伝えねばと思い逃げようと後ろを振り向く。しかしそこにももう一人別の男が立ち、剣を抜いて道を塞いでいた。


「逃がしゃしねえよ。」

前の男が再び切り掛かってきた。それを剣で弾いてかわすとすぐ後ろから別の男が向かってくる。体をひねって入れ替え、漣は3人の男と対峙していた。


このあいだの光景が目の前をよぎる。血反吐を吐き倒れる男達。肉を断つ、鈍い感触。体はよく動くが、大剣を持つ両手が動かない。まずい、このままでは、、、

後ろにいたの男が投げたダガーをかろうじて両手剣の腹で落とし、切り掛かってきた男と剣をあわせ、後ろへ飛びすがる。だめだ、剣が動かない、くそっ、どうやって逃げる?このままでは後ろを振り向いたとたん、ダガーを投げられる。かといって、横へそれる道はない。幸いなのは道幅からして囲まれる恐れはない事だが、防ぐだけではじり貧だ。


「おい、こいつほんとにこのあいだの奴か?これなら、やれるぜ。」

「ビビってやがるぜ、こいつ。ちょろいもんだ。」

そういい、男達は剣を振り上げ再び襲いかかってきた。


「痛っ!!」

飛びかかってきた男が突然立ち止まり、剣を持っていない方の手で自分の額を押さえ込んだのは漣が再び大剣を構えるのとほとんど同時だった。

立ち止まった男の足下には、たった今男の額に命中したと思われる小さな石つぶてが転がっている。

パチパチパチ、後ろから拍手が聞こえて、漣はとっさに後ろを振り返った。


「体の動きは、まあまあだな。ただし、剣の扱い方が、なっちゃいねえ。おめぇなんだそりぁ?切る気あんのか?」


そう言って前の男達を無視したように、漣の隣に立った男は40代半ばくらいか?漣と同じような大きな両手剣を背中に背負い、細長いキセルのようなパイプを咥えている。

「誰だ、てめえは。痛い目見たくねえなら、消えな。」

「てめえも一緒にぶった切られてえのか?」

盗賊達が、剣を肩にかけ声を荒げる。

「正義の味方って訳じゃねえが、話を聞いてりゃおめえら盗賊かい?それなら用があるっちゃあるな。」

そういって男は前に出る。

「盗賊なら、切らねえとな。」


「やるのかてめえ、おいっ、こいつからやっちまうか。」

そう言う盗賊達をまるっきり無視したように男は漣の方を向いて言った。

「にいちゃん、切るってのはこうやるんだよ。」


漣には男が剣を抜くのすら見えなかった。3度何か物を断つ音がし、気がつくと男は盗賊達三人の向こうに立っており3人は声を上げる間もなく血だまりの中に倒れ伏し、誰一人動く者は無かった。


一瞬の出来事?いや瞬きする暇もない。

凄い、、、漣は全く声がでないどころか、息をする間すらなかった。男の振るう重い幅広の大剣はまるでエミリアの振るうレイピアの様にあるいはそれ以上に重さを感じさせない動きで、いつ切ったのか、大剣のくせにその剣筋は全く見ることができなかった。


凄い!!それを認識して初めて、漣は自分が大きく息を吐いているのに気がついた。


「ちゃんと見えたかい?」

男はにっこりと笑いながら大剣を背中にしまう。

「あっ、ありがとうございました。」

その時になって、漣はやっと自分の命がつながった事に気がついた。どっと汗が噴き出してくる。この人が現れなければ今頃自分は、、、


「おめぇ、どうして切らねえんだ?いや、切れねえんだい?」

今初めて会った筈の男の問いに対し、漣は今までのことを正直に話す事に、なぜか何のわだかまりも無かった。


初めて隊商の護衛で、人を切ったこと。人を殺したショックで、剣が振るえなくなってしまった事、もう傭兵を続ける自身が無くなってしまったこと。

「それじゃ聞くが、なぜ人を殺しちゃ、いけねぇんだい?」

男は漣にとって当たり前のことを聞いてくる。


殺人は決して犯してはいけない罪だ。自分が殺されたくないなら相手を殺してもいけない、社会の絶対的ルールだ。

漣は自分では当たり前と思っている事を男に答える。


「それじゃ聞くが、なんで人を殺すのがあたりまえの、傭兵なんて仕事があるんだい?」

漣は答える。そんな職業があること自体間違っている。この国は人を殺しても何とも思わない様な連中だらけの国だと。


「ぼうず、それじゃお前さんはその辺歩いている奴らが、みんながみんな人を殺してると思ってるのかい?そりゃあ違うぜ。この国でも、ほとんどの人間が人を殺す事なんかありゃしねぇよ。」

男は漣の目をまっすぐに見つめた。


「しかし、自分のため、自分の周りのため、自分の国のため、人を殺めなければいけないときはあらあな。その時、ためらう事で失う物と、ためらわない事で救える物との重みの違いはどうよ?ようは、そういうこった。」


「まあ、お前さんの国がどうかは知らねえが、この辺りの国じゃ、ちょっとばかしそいつがシビアってことだな。俺はあいつらを殺す事でお前さんを生かすことが出来た。お前さんにも、そういう事はなかったかい?」


漣はまさに一昨日の事を思い出した。自分の我がままで、ファナを危うく無くす所だった。そう、我がままだあれは。あのファナを襲った盗賊の命と、ファナ自身の命、そんなの比べるべくも無い。エミリアだってそうだ、リックだって、ボドウィックだって、アーロンだって、もちろん自分自身もだ。

僕はそれが出来るのであれば、みんなを守りたい。自分はこの世界で生きて行くと決めた。それならば、やらなければいけない事をやるしか無い。


「少しはいい顔つきになったか?」

男はそう言うと、じゃあなと手を上げて立ち去ろうとした。

「あの、お名前を聞かせてください。僕はレンと言います。」


「ベルンハルトだ。」






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