18. 酒の肴と鷹波と
酒の肴は、恋話とから揚げ。
「他にもあるわよ。枝豆茹でたから」
仕事から帰ってきた幸枝が、スーパーの袋から枝豆を取り出した。
「茹でたって、これスーパーの売り物じゃないですか?」
子供たちを部屋において、直子が書類片手に幸枝の部屋にやってきた。
「だって、スーパーで茹でたんだから、茹でたことに変わりはないでしょ」
どうやら、本日の惣菜の残り物を安く買ってきたようだ。
「大体、私が茹でたんだからね」
「幸枝さんって、惣菜係りなんですか?」
「係りって、学校の係りじゃないんだから。一応、惣菜部よ」
スーパーにそんな部があるとは知らなかった。
「それより、直子は書類片手に何をするつもり?」
惣菜を皿に移しながら、久子が直子の手元を見た。
「添削です。生徒の添削。昼間は忙しいから、夜しか時間がなくて」
「それって、宴会しながらやること?」
幸枝があきれたと言いたげに、直子に言うが、直子としては時間を有効活用しているだけらしい。
「幸枝さんは、今日は彼と会ったんですか?」
同じ職場なのだから、会うだろう。
「残念でした。彼は、今日は非番なのよ」
なるほど、年中無休のスーパーだけに、毎日会えるとは限らないようだ。
「メールはくるけどね」
と言ってるそばから、携帯が鳴り、幸枝が嬉しそうにメールの返信をしている。なんとも、しらける光景である。
「こうなると、さすがに妬けますね」
現在独り身の直子としては、面白くない。
「で、鷹波さんのことは調査が済んだんですか?」
直子が久子の彼氏の素性を気にして、幸枝に話しを向けると、幸枝が静かに携帯を閉じ、大きく顔を上下に動かした。その顔は、やたら満足げに見えた。
「彼はね――」
幸枝の調査結果は、見事なものだった。
「へぇ、本当に幸枝さんってストーカーなみに凄いですよね」
褒めているのか、けなしているのか、直子があきれ顔で言うと、幸枝が笑いながら、当たり前だと豪語する。
「それにしても、同じ歳だったのね・・・」
鷹波公平四六歳は、結婚歴なしの独身者だった。
「同じ歳といっても、かたや離婚歴なしの真っ白白、かたや×二つの海千山千ですからねぇ。この差は歴然でしょう」
幸枝が発泡酒片手に、チンジャオロースーに箸をつけている。今日のつまみは、スーパーの半額処分品だ。
「そのチンジャオロースー、味濃くないですか?」
美味しそうに食べていたと思ったら、コメントが辛らつだ。
「そういうけど直子、半分くらい食べてるじゃない」
幸枝が心外だと言いたそうに、直子を見た。何せ、自分が働いているスーパーの食材なのだから、自分がけなされたような気がするのだろう。
「それに、四六歳で結婚歴なしって、何か問題ありなんじゃないですか?」
直子が痛いところをついてくる。社会一般的に見れば、結婚していないと言うのは、何かあるのだろうと憶測してしまうものだ。逆に離婚経験者も同じ様に憶測されるものなのだが、ここは離婚経験者ばかりの砦なので、そこは置いとくことになる。
「結婚してないのは、結婚式直前で彼女が事故死したのが原因なのよ。それからずっと、彼女を思って生きているんだって」
「それじゃぁ、彼の心の中に久子さんが入り込むなんて、無理じゃないですか!私なら、有り得るかも知れないけど」
直子が胸を張る。
「直子が有り得ても、また騙されるのがオチだよ」
幸枝が痛いことを言う。それを言われると、黙るしかない直子だ。
「でも、確かに直子の言う通りかもね。それだけ、想い続ける人がいるってことは、入る余地は無いかもね」
幸枝が珍しく、消極的なことを言い出した。
そんな二人の会話を、ぼんやりと聞きながら、喉を潤している久子だ。
「・・・そうじゃないわよ!」
急に思い出したように、幸枝が叫んだ。
「彼はね、彼女が欲しいって笑ってたそうよ。別に、過去にとらわれているわけじゃなくて、出会いが無いだけだって言っていたそうよ」
「そう言っても、出会いを求めてこなかったのかも知れませんよ」
またしても、直子が引っ張る。
「直子・・・あんたねぇ。でもさ、住んでるところもこの辺だって言うし、チャンスはあるかもしれないわよ。一軒屋
に親と同居。これがちょっと、問題だけど。でも、いずれは家をもらえると思えば!」
いつの間にか、結婚話しにまで発展してしまった。
「そうですよ!久子さん、家を買うのは高いですから、ここは親がいようがどうしようが、家つきの方がいいですよ!」
かなり酔いが回りだした二人は、適当なことを楽しそうに話している。自分のことではないので、飛躍することこの上ないが、楽しそうであることに間違いは無い。
当の久子と言えば、何を考えているのか、ぼんやりと二人の会話を聞いているだけだった。




