2話 男装―断層
もう少しで1週間こえるところでした……
書いてみて初めて、心の中で自分が作者様に、どんな無茶振りをしているのかわかりました
お気に入り登録してくださった方もいるので、更新停止しないように、地道に書いていきたいなと思います
5/24 3話に合わせて、タイトル変更いたしました
断層は「意見や考え方の大きなずれ」の意です
Side:ミレイ
ユウと共にトイレから戻ってきたミレイは、
(あるよ……ちゃんとあったよ……サラシに包まれてたけど、自己主張したふくらみが……)
驚きを隠せないクラスメイトたちに、ユウが「しかたねえなあ、証明してやるよ」と言って、選んだのがミレイだった。理由は「さっき目が合ったから」という単純なもの。
自己紹介がユウで最後だったこと、ちょうど授業が終わり、休み時間に入ったことから、ミレイはあっさりトイレに連行された。
そして、見てしまったのだ。
その上、さわってしまったのだ。サラシの上からであったし、ユウの方から言ってきたのだが。
ふに、と指が埋まる感触――禁断の扉を開けてしまいそうだった、その数秒を、ミレイは忘れることができないだろう。
ただ、ミレイの名誉のために、「下もみるか?」というユウの誘いを、全力で断ったことは、付け加えておこう。
(最悪だ……この美少年が女だなんて……)
クラスの女子たちは、ある程度はなれたところで、それぞれ数人ずつで固まっていて、期待に満ちた目でこちらをみつめてくる。彼女たちに、ミレイは力なく首をふった。途端、彼女たちから、あからさまなため息がもれる。
それもそのはず。
生徒会長にもひけをとらない美男子が、クラスメイト。そんな夢が、美男子=女で崩れ去ったのだから、落胆するのもしかたないだろう。ミレイだった、泣きたいぐらいなのだ。
なのに、女子たちは、「ユウ=女」説を確かにしたミレイに、うらみがこもった視線を向けてくる。
(まったく、あたしのせいじゃないっていうのに……まるで、あたしがユウを性転換させたみたいじゃん!)
怒りというのは、大抵理不尽なほうに向く。女子たちもミレイも、それは相違なかった。
(ていうか、なんでこの子、こんなまぎらわしい格好してるのよ…ッ!)
ミレイが隣のユウをにらみつけていると、なぜ怒っているのかわからないようで、きょとんとしていた。それが小動物のようで、ミレイは一瞬、可愛いと思ってしまった。
肝心なのは、ここでの「可愛い」は女子に向けられるものではなく、年下の男子に向けられるものである、ということである。
(だ……騙されないわよッ!!)
そう心の中で呟くものの、すでにミレイの怒りはとけかかっていた。
小動物男子おそるべし、である。
それにしても、これだけ格好よければ、今までさぞ女子にもてただろう――そこまでミレイは考えて、ハッとした。
というか、今まで気づかなかったほうがおかしかった。
(ま、まさか……一人称も『オレ』だし……ユウって、そ、そっちの気なの!?そうなの!?)
そう思うと、ユウの言動すべてが、それを揶揄しているように思え、ミレイは疑心を強める。
だが、「ユウってレズ?」と直接きくわけにもいかず、結局、
「ユウってどうして男装しているの?」
という妥当な質問に落ち着いた。
だが、この当然ともいえる質問に、ユウは、
「男装……?」
首をひねった。
「オレって、男装してるように見えるのか?」
ユウの問いに、レイナはためらいなく首を縦にふる。
「もちろん!」
その答えに、ユウは傷ついた様子も見せず、逆に納得したように頷いた。
「そうなのか……。そういえばルゥナさんも、もっとカワイイ格好しろってうるさかったな」
ユウの様子に、ようやくレイナは恐るべき可能性に思い当たった。
つまり、意識してしているわけではない、ということだ。
「もしかして、自覚ないわけ?」
「……?」
(うわ、本気で意識してないみたい……嘘でしょ?)
「黒パンツに白いシャツって、まるで、他の学園の制服みたいだと思うんだけど。髪だってそんなに長くないし……てか乱雑だし」
「乱雑って……なんだこれ、オレは怒るべきなのか?……まあ、髪は面倒だから、自分でテキトーに切ってんだけど。服装?は、スカートとかは動きにくいし。デザインとかも、あんまりこだわらないしな、オレ」
至極めんどくさそうに、ユウが髪の毛をいじる。レイナはその横で、絶望を感じていた。
(ホント、最悪……ッ!スカートさえはけば美少女なのに!いや、美少女よりは美少年のほうがいいけど。いいけど、よ!そういう問題じゃないでしょう!?)
レイナは内心に葛藤を秘め、悶絶した。
なんとか言葉を絞りだすものの。
「スカート……はきなさいよ!!」
結局でてきたのは、そんな言葉だった。
だが、ユウは心底、そういう、彼女のいうところの“面倒”なことを嫌っているらしく、レイナの命令を一蹴する。
「ヤダ。動きにくくなる」
「……ッ」
有無を言わせない口調に、レイナは反論もできず地団駄をふむ。
そんな投げやりなところも、レイナと話すほど、どんどん男子に近づいていっている――周りの女子たちは、それに気がついていたが、何も言わなかった。
なぜなら、非常に格好いいのだ。
今までとは違う、鋭い光をふくんだ、ユウの眼差しが。
小動物のような癒しをふくんだ微笑みではない、悪戯が成功した悪餓鬼のような「ニヤリ」といった笑みが。
格好いい。女子だが。いや、女子だから、男子を相手にするようにではなく、気負わず付き合えるのではないか。
女の子たちは、ユウという少女の魅力が、男女両性に(特に乙女に)はたらくことに、すでに気がついていた。
レイナだって気づいているものの――あの、どうしようもない女子の感触を忘れられないのである。
女子を男子を思って接することができるほど、彼女は割り切れないのであった。
「あ……あなただって!」
「?」
「あなただって、恋でもすれば、女の子らしい服装を選ぶわよ!」
おつげのようだったが、暗にミレイが恋をしていると言っていたりする。だが、ミレイは無自覚で言ったのであって、先ほど刹那に散った想いが恋に近いものだったとは、彼女も認めたくないだろう。
八つ当たりのように言葉を投げつけられたミレイであったが、ユウならば、軽く流すだとうとも思っていた。この男勝りな少女に、恋など不似合いだと、自分でも感じたからだ。
だけれど、ユウはミレイの台詞を聞くと、一瞬だけだったが、無表情をつくった。直後に、元の無邪気な笑顔へと戻ったけれど。
完全な無表情。仮面のような。
それを見たのは、自分だけだろうと、ミレイは確信した。と同時に、安心した。
彼女のあんな恐ろしい顔は、誰にもみせたくなかった。
「恋、ねえ……」
再び浮かんだ笑みだったが、そこには困ったような感情も含まれていた。
「オレさ、愛とかそういうの、無理なんだよ」
「無理って……?」
予想とは違うユウの答えに、ミレイは戸惑って尋ねる。
ユウは乗り気ではないようだったが、答えようとし……ミレイの背後の存在に気づいて、その言葉を止めた。
「いや、そのままの意味で――あれ、先生、どしたの?なんか用?」
Side:デュース
デュースは、今年で25歳になる。
若い。そう、若いのだ。いや、まだ彼女の結婚もしていないのは、遅いかもしれないが。だが、たとえ新入生であっても、学年で最もレベルの高いクラス――Sクラスの担任を受け持つには、若すぎると自分でも思う。
“たまたま”王宮主催の大会の、魔法使いの部門で、準決勝まで出てしまったために。
もともとデュースは、戦闘というやつが苦手なのだ。準決勝までいったのは、運がよかっただけなのに。
それなのに、その後、国王陛下のための祭典で、魔法を披露することになったりもした。緊張でガチガチになり、魔法が失敗しなかったのも奇跡だとしか思えない。
その上、今度はSクラスの担任。
(上の方々は、自分をどれだけ過大評価すれば気がすむんだ……?)
ふぅ、と息をはいたデュースは、自分が影で「無自覚の天才」と呼ばれていることを知らない。
人には知らないほうがいいことがあるのである。
(それに、今回のSクラスには、非常にやっかいな生徒が入っているらしいしね……)
ユウ。名字がない、と彼女はそう言ったが、本当の名を、デュースは知っている。ユウレシーナ・バルティス。彼女の出生は、噂とそう変わりはない。真に大事が部分が隠されていることを除けば。
(まあ、あんなこと、おおっぴろに言えるわけがないしねぇ)
その「大事な部分」は、この学園では、ユウ自身と、担任であるデュース、あとは学園長ぐらいしかいないだろう。
まったく、なんという厄介ごとを押し付けてくれたのだ、とデュースは学園長に文句を言いたくなった。
ユウの出生。それは別に構わないのだ。この学園が、庶民から貴族まで、幅広く門を開けているのは、デュースだって知っている。生徒の経歴など、いちいち気にしたりはしない。
だが、ユウ自身のことならば別だ。
『オレさ、愛とかそういうの、無理なんだよ』
彼女は、デュースが近づいていることに気づかず、そうクラスメートにぽつりともらした。孤児であることすら、明るく言ってのけた彼女が、少しばかり陰鬱とした感情を笑顔にふくませ、寂しそうに告げる。
「恋愛」が不可能なのではない。
「愛」が無理なのだ。
友人との何気ない会話だったら、聞き逃してしまいそうな、その違いは、彼女の闇をのぞかせたような気がした。
「無理って……?」
ユウの話し相手――確かミレイといった――も不審に思ったようで、聞き返す。
ユウは答えを拒否することも知らず、答えようとしていたが、
「いや、そのままの意味で――あれ、先生、どしたの?なんか用?」
その前に、デュースの存在に気がついた。
その後の台詞を聞きたくなかったデュースは、ほっとする。
だが、彼女に告げなければならない連絡に、再び頭が痛くなる。
「ユウ、君に伝えなければならないことがあってね……嫌ならば断ればいいんだが……いやでも、断るなんてできないか……」
「先生、はやく言ってよ」
不満そうにユウが催促した。デュースは覚悟を決める。
「君に、生徒会主催の新入生歓迎会で行う、模擬戦闘の、相手をしてほしいんだよ」
ユウの立場、広まっている噂から、あまり目立つことはしたくないだろう。それに、戦闘が好きと言っていたとはいえ、過去にあんなことがあったならば、もう剣はあまり握りたくないに違いない。
歓迎会での模擬戦闘――それは、この学園の王が誰なのか、彼がどれだけ強いのかを、アピールするためだけのものだ。だから、本来ならば、ユウでなくともいいだろうに。
しかし、先生方と生徒会は、戦闘能力だけでSクラスに入った彼女の実力をみたいらしいのである。
彼女は嫌がるかもしれない。自分はなんといえばいいのだろう。
そんなデュースの葛藤は、ユウのうきうきとした声によって遮られた。
「何だよそれ、楽しそうじゃん!」
「……え?」
嘘だろう、と思って、ユウを見ると、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。その隣では、当然だ、というように、女子生徒が頷いている。彼女は、ユウの態度に違和感は感じていないらしい。
(変だ)
自己紹介のときにも思ったことだが。
(あんな道をたどっておきながら、どうしてこうまで笑えるんだ?)
もしや――
「つまりは、戦えばいいってことだろ?模擬戦闘ってことは、相手も強いんだろうなぁ」
ユウは興奮したように、笑顔をみせている。
否。彼女が笑顔でいなかったことなど、一度もない。
「なあ、相手は誰なんだ?オレは誰と戦えばいいんだ?」
もしや、ユウは、デュースが思うよりずっと、はるかに、壊れているのではないか。
ちらりとよぎった、恐ろしい考えを、デュースは慌てて打ち消した。そんなはずがない。これから数年つきあっていく生徒なのだ、大事にしなければ、と。
目の前では、ユウが期待に目を輝かせてこちらを見ている。どうやら、自己紹介でいった「戦うことが好き」というのは、偽りではないらしい。その事実に、デュースはほっと息をはいた。
そして、楽しい戦いを待ちきれないといった様子の彼女に、質問の答えを教えてやった。
「生徒会長だよ。入学式で、挨拶があっただろう?クロス・ウィラートさ」
「クロス・ウィラート……?」
何かが思い出せない。何か引っかかる。
生徒会長の名を復唱したユウは、そんな表情を浮かべた。
入れなかったネタです。
「そ……その、ユウって女の子が好きなの?」
「は?いや、まあ……好きだけど(ミレイも優しいしなぁ。あ、でも、それ言ったら、みんな優しいか)てかまあ、男女構わず、みんな好きだぜ、オレは」
「バイ!?」
「は?」