1話 気概―奇怪
さすがに、連日投稿は無理だと思っていましたが・・・一週間、経ってませんよね?
一応、一週間に一度は更新していきたいなと思っています。
感想くださった雲雀さん、ありがとうございます!
まだプロローグなのにと、感激いたしました。
5/24 3話に合わせて、タイトル変更しました
Side:フォード
学園の王。
クロス・ウィラートを表現するには、その通称が一番だろう。
聖リバス学園。庶民から貴族の子供、王子や王女まで、能力さえあれば、位に関わらず入学できる、珍しい学校だ。だけど、その能力が難関。貴族が嗜み程度に勉強してきましたわ、では入れないのだ、これが。だから、貴族にとってその学園に入るというのは、名誉に他ならない。言うまでもなく、雲の上の人々と学べる庶民にとっては、憧れ、の一言だが。
名誉と憧れ。その二つの名で呼ばれるのが、フォードが通う聖リバス学園というところだ。
その学園の生徒会長が、クロス・ウィラート。ウィラート公爵家の次期当主であり、学年主席、この学園で、剣の腕で右に出るものはいないといわれる、天才。学園全体で四学年ありながら、第二学年の彼が生徒会長になっているのも驚きだ。
だけど何よりも彼の名を響かせたのは、その美貌に違いない。貴族には珍しい、つややかな黒髪は、元々は貴族ではなかった曽祖父が、その実力を認められ、今の地位を得た証。その男性的な、するどい表情も、整った顔立ちも、全ての女性が惚れるに充分なものだ。
フォードも充分、いいほうに入ると自負している。「可愛い」と言われるのが癪じゃないわけではなかったが、大人のお姉さまならば、上目遣いで落とせるし。けど、やっぱり会長にはかなわない。
ただ、彼には恋人すらいないし、今まで浮き世名を流した女性もいないのだ。その事実が、何度人を驚かせたことだろう。あまりにも、女性に興味がないということで、クロスはいわゆる「そっちの」趣味だという噂もたっている。
はっきり述べておくが、それは完全な誤解である。彼の側近であるフォードが、あらぬ疑いをかけられ、一番迷惑をかっているのであるのだ。
その彼のための部屋――生徒会室において、王は浮かない顔をしていた。
赤い髪の青年が問いかけるも、
「会長、入学式のスピーチ、考えてあるよな?」
「……」
返答がない。
フォードはため息をついて、先の青年と同じ問いを繰り返した。
「会長、入学式のスピーチ、当然だけどバッチリだよね?」
「……」
返答がない。
「おいフォード、これ、どういうことだよ? まさか、準備ができてねえってことじゃねえだろ?」
「うん、それは絶対ないと思う。クロスなら、準備なんかしなくても、スピーチくらい楽勝だろうし」
青年の問いに、フォードは首をふる。会長がこんな様子になるなんて、久しぶりだ。
フォードは悩みつつも、頼りになる(…?)青年を、自分と対になるもう1人の側近をみた。
赤い髪を短く切った男。ニヤリ、という笑みがふさわしい、重厚な生徒会室では浮いた存在だ。だが、れっきとした生徒会役員であり、「赤牙」の異名を持つ剣の使い手でもある。ロッドという本名よりも、そちらの二つ名のほうが有名だということで、本人は悩んでいるらしいが。
かくいうフォードも、ロッドと同じく生徒会役員。155cmという身長と、人懐こい笑みから、中等部の生徒とみられることが多いのだが、クロスやロッドたちと同級生なのは、真実である。
2人とも、書記として、クロスの側近を務めており、浅い仲ではない。
そんな2人が、そろって頭を悩ましているのが、朝から心ここにあらずといったクロスの態度である。いつもは聡明な彼が、こんな状態になるなんて、隕石でも降ってくるのではと思ってしまったのも、仕方ないだろう。
「珍しいぜ、クロスがこんなに呆けてるなんてさ。なんだよ、ついに恋か?」
「やめてよ、否定できないからさぁ……。まあ、僕としては、あの噂のほうが本命だけど」
「え、まさか、あの噂って本当なのか?」
あの噂。
フォードが口にだしたそれは、入学式をひかえた学園で、ひそやかに流れていた噂である。その内容の奇抜さから気になっていて、いろいろ調べてみたが、真偽のほどはわからなかった。
「うーん、それは僕にもわからないけどね。クロスが悩みこんでるってことは、何か知ってるかもよ。ん、そうだ。せっかくだし、聞いてみようか」
「は!? いやいやいやいや待てよお前、そんなことで、さらに機嫌悪くされたら――」
残念ながら、フォードの辞書に躊躇という言葉はない。
「ねえねえ、会長。あの噂って、本当なの?」
不安ゆえのためらい、恐怖ゆえの怯み。そういったものが、フォードは嫌いだ。逡巡することも、長い人生を送る上で大事だとは思うが、目的の前で足踏みするのが、フォードには耐えられなかった。
状況によっては、短気とも言いかえられる性格である。
(よく、クロスにも怒られるんだけどねえ……)
そうは思うが、なおす気はさらさらない。
あいかわらずの側近の態度にたいし、帰ってきたのは嘆息だった。
「事実だ」
「は?」
「だから、噂だよ。あれは、事実だ。確かに新入生の中に、『髪と目に金色を持ちながら、庶民で、しかも孤児』の生徒がいる」
髪と目に色。それは、貴族の証である。黒髪・黒目を持つのは、平民だけなのだ。クロスは、完全な特例である。
庶民でありながら、色を持つ。そんなことが有り得るのかと尋ねられれば、有り得るのである。あまり大きな声で言えることではないけれど。
つまり、妾の子というわけだ。
「へえ、本当なんだ。
それにしても、かわいそうだね、その子。髪にまで色ついちゃってさ、一目でわかっちゃうじゃん。その上、金色でしょ? 上流貴族の子供だなんて、僕なら耐えられないな」
「まあな……。噂だけでも、これなんだ。入学後は、もっといろいろ言われるだろうな。なあ、会長」
2人がちらりとクロスに目をやると、彼はあいもかわらず、悩みこんでいた。
「あのさ、会長。一体どうしたっていうわけ? 言っておくけど、見ず知らずの他人に同情をうるっていうのは、会長の性格上、似合わないと思うよ」
フォードの非難めいた口調に、ようやく彼は顔をそちらへ向けた。
「いや……そうじゃない」
「じゃ、なんだっていうわけ?」
クロスの否定に、フォードは呆れたように問い返した。
「本当に『庶民で孤児』なのかと思ってな」
「……すまねえクロス、本気で意味がわかんねえ」
「いや、わからないほうがいい」
遠い目をしたクロスに、フォードは内心にやにやしていた。
(おやおや、会長、これな何か知っているようだね……おもしろくなりそうだ)
その容姿に似合わない、冷淡なことを考えながら、同時にひとつの思いも浮かぶ。
(まあ、僕はなにがあっても、会長についていくだけだけどね……)
Side:ミレイ
入学式のあと、生徒たちは初めてクラスメイトと顔をあわせ、自己紹介を行う。
クラス分けは、入学後、成績によって変わるものの、1年間は同じである。
この時間は、彼らの学校生活を良くも悪くも、決定づけるだろう。
壇上に、その少年は立っていた。
さらっさらな金髪。のちに「手入れってどうしてるの?」ときき、「え?シャンプーだけでいいんじゃねえの?」と問い返され、ミレイは驚愕することになるが、それは別の話だ。
髪よりも薄い金色の目は、その明るい性格を現すように、キラキラ輝いている。
この学園には制服がないが、彼の服装は黒いパンツに白いシャツと、いたってシンプル。そのシンプルささえも、デザインのひとつにしてしまうのだから、イケメンというのは、まったくもって卑怯だ。
唯一のアクセントは、太いベルトと、腰にある鞘におさめられた大振りのナイフ。いや、むしろ、短い剣といったほうが近いかもしれない。
そのナイフ――短剣?――が飾りでないというのは、このリバス学園ならではだ。
Sクラスのここでは、全員が剣を身におびている。ミレイも例外ではない。
Sクラス。リバス学園において、500人いる新入生のうち、20人しか入れない超エリートクラスだ。
Sクラスに入れる生徒は、2種類ある。
ひとつは、すべての分野において、人よりも秀でている者。そのわかりやすい例が、生徒会長のクロス・ウィラートだ。
もうひとつは、ある分野において、異常なほど突出した能力を持つ者。
Sクラス生のほとんどの、というより、ほぼ全員が、前者だ。後者でSクラスに入れるなんて、それこそ、ドラゴンクエストに参加したことがある者ぐらいだろう。
ドラゴンは最強の魔獣。ドラゴンクエストは、「倒す」という考えではなく、「追い払う」「怒りを静める」が目標である。それでも、ギルドによせられるクエストの中では、最高ランクといわれているのだ。
(あたしも、一度は参加してみたいけど……)
ミレイがそう思いをはせたとき、少年が第一声を発した。
それは、彼にとっては変哲もない、自己紹介の始まりだっがのだが、
「初めまして! ユウだ」
けれど彼は続けて、最初の爆弾を落とした。
「ついでに名字はない。あ、あと親もいない」
(は……!?)
呆然とした。
反応すら、できなかった。
ミレイとて、噂を知らなかったわけではない。いや、むしろ、上流貴族の入学の噂は流れていなかったから、金髪と金目をもっている彼をみた瞬間、「あ、噂って本当だったんだ」と確信した。
だけど、だ。
まさか彼が、これほど明るく、「つけたし」みたいに、その事実を告げるなんて、想像できるはずがないだろう。
ミレイだけではない、Sクラス生全員が、少年の言動に愕然としていた。
「好きなものは戦うこと。そのほかにも、楽しいことならなんだって好きだ!」
教室内の動揺をよそに、ユウは自己紹介を続ける。
「なんか戦闘科に希望だしたはずなのに、気がついたら、こっちのクラスになってた。勉強とかよくわからんから、教えてくれ!」
本日2個目の爆弾。
ユウは言った「勉強などはよくわからない」――つまり、さきほど述べたSクラス生の区別で、彼が後者であるということだ。
教室内のざわめきが大きくなっていく。
「んまあ……とにかくよろしくっ!」
ハイテンションでそう締めくくったユウは、最後にもう一度、教室を見渡した。
20人しかいないクラスメイト。自然と、目と目が合ってしまう。
「あ……」
(やばいよ、これマジで……)
琥珀色の瞳が、ミレイを見つめている。それを意識すると、彼女は知らず知らずのうちに、自分の想いを口に出していた。
「格好いい……」
ズルイと思う。
これだけ容姿のいい男子に見つめられて、落ちない女子がいるはずないだろう。
さっき終わった入学式、その中で挨拶をした生徒会長も、格好よかった。あの理知的な黒いひとみを向けられたら、なんだって言うことをききそう、とミレイは思ってしまった。
だが、この少年の格好よさは、また別。
生徒会長のような「高嶺の花」も、またいい。
が、実際に愛でるとすれば、クラスメイトというこの距離が1番いいに決まっているではないか。
それに、だ。
浮かべるのは、幼い子供のような人懐こい笑み。
型破りな言動も、子供そのもののような印象を与える。
ユウという少年は、性別に構わず、「守ってやりたい」「もっと笑顔にしてやりたい」と万人に思わせる雰囲気を持っていたのである。
優れた容姿、天真爛漫で万人を惹きつけ、そのくせ自分の境遇など無頓着。
それが、ユウという生徒であった。
そして、ユウは自己紹介の最後に、今までの台詞とは比べ物にならない爆弾を落としていった。
「あ、言い忘れてたんだが、これ、よく勘違いされるんだよな。
言っとくけど、オレ、性別は雌だから」
その事実が伝わった瞬間、小声での会話でうるさかったはずの教室が、一瞬にして静まり返り――
『はあああぁぁっっ!?』
ぴったりと息をそろえた、驚愕の声が、響き渡った。もちろんミレイも、その中で声をはりあげていた。
彼――否、彼女は、それを聞くと、不思議そうに首をひねった。
「あれ……そんなに驚くことか?」
はい、驚くことです
なんかラブコメに近くなってきましたねぇ
性別は「雌」って……自分で書いておいてですが、ユウの性格、けっこう好きです