静かな歪み
適当作成、つまりテストみたいなものです
空は、やけに澄んでいた。
雲ひとつない青空。春の光が、静岡の街を柔らかく照らしている。
——それなのに、この世界は壊れている。
補強されたコンクリートの壁。ひび割れを埋めた道路。電柱に取り付けられた監視装置のような黒い箱。
どこを見ても、戦争の痕跡は消えきっていなかった。
ピッ、と短い電子音が鳴る。
警報。
ほんの一瞬だけ鳴って、すぐに止んだ。
誰も足を止めない。誰も空を見上げない。
それが、日常だからだ。
高峰紘一は、窓の外をぼんやりと眺めていた。
制服のボタンを留めながら、ぽつりと呟く。
「……静かすぎる」
自分でも理由はわからない。
ただ、この静けさがどこか不自然で、気味が悪かった。
家を出ると、すぐに見慣れた顔が集まってくる。
「おはよ、紘一」
柳美香が手を軽く振る。
「また警報鳴ってたね」
この辺はまだマシな方だろ」
遠藤直が肩をすくめる。
「誤作動も増えてるみたいだけど」
葉山理湖が小さく付け足す。
「戦争中って感じ、あんまりしないな」
小野田陸人が空を見上げた。
高峰もつられて空を見上げる。
青い。あまりにも青い。
「……感じないだけだろ」
そう答えると、誰もそれ以上は何も言わなかった。
教室はいつも通りだった。
机と椅子。ざわつく声。どこにでもあるような日常。
ただ一つ違うのは、黒板に書かれたその言葉。
【エクシード】
「エクシードとは“限界を突破した個体”を指す」
教師の声が静かに響く。
「人間は本来、自分の能力に制限をかけている」
「筋力、反応速度、思考——それ以上の出力は、自分自身を壊すからだ」
教室が静まる。
「これを“リミッター”と呼ぶ」
高峰は何気なく黒板を見ていた。
だが、その言葉が妙に引っかかる。
「だが、極限状態ではそれが外れることがある」
「火事場の力……聞いたことがあるな」
その瞬間だった。
——世界が、遅くなった。
教師の手元で舞うチョークの粉が、空中に浮かんで見える。
ゆっくりと、あまりにもゆっくりと落ちていく。
呼吸の音がやけに大きく聞こえる。
「……遅い?」
思わず呟いた瞬間、
すべてが元に戻った。
教室のざわめき。教師の声。日常の速度。
「……なんだ今の」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
教師は何事もなかったように続ける。
「第三次世界大戦以降、この限界突破は異常な頻度で観測されるようになった」
「極限環境、継続的なストレス、資源不足」
「人は“限界を超えなければ生き残れない状況”に置かれた」
教室の空気が、少しだけ重くなる。
「そして——安定して限界を突破できる個体が現れた」
教師は黒板を指さした。
「それが、エクシードだ」
続けて、教師は淡々と説明する。
「エクシードにはランクが存在する」
「2から10、J、Q、K、A……そして例外のJOKER」
ざわめきが広がる。
「高峰紘一。ランク4」
一瞬だけ視線が集まる。
「中堅くらいか」
「でも実戦なら重要だろ」
そんな声が聞こえたが、高峰は特に反応しなかった。
休み時間。
「紘一はどう思う?」
柳が机に寄りかかる。
「何が」
「この世界」
一瞬、言葉が出なかった。
頭の中に、何かが浮かぶ。
答えのようなものが、一瞬で。
でも、それが何なのか、掴めない。
「……わからない」
それが、やっと出た言葉だった。
「そっか」
柳はそれ以上は聞かなかった。
「高峰」
低く落ち着いた声。
振り向くと、岡田信也が立っていた。
その場の空気が、わずかに変わる。
「少し話せるか」
「構わない」
屋上は静かだった。
風が強く、遠くの街並みがよく見える。
「この地域は安定している」
岡田が言う。
「……ああ」
「だが、それは“管理されているから”だ」
高峰は眉をわずかに動かす。
「管理?」
「強い者が秩序を維持している」
岡田の声は、あくまで冷静だった。
「弱い者は、そのままでは争いを生む」
「従うことで、衝突はなくなる」
風が吹く。
「……それで平和になるのか」
「結果としてな」
高峰は黙る。
その瞬間だった。
頭の中に、いくつもの光景が流れ込む。
従う人間たち。
抵抗する人間たち。
崩れていく街。
すべてが同時に見える。
息が、わずかに乱れた。
「……どうした」
「いや……なんでもない」
岡田は少しだけ視線を細めたが、それ以上は何も言わなかった。
遠くから、音が流れる。
「第三次世界大戦の影響により……」
「東京圏は壊滅的被害を受け——」
静かな声。
だが、その内容は重い。
高峰は空を見上げた。
「人は、意思を持ってる」
ぽつりと呟く。
「意思だけでは生き残れない」
岡田が返す。
「それでも」
高峰は視線を外さない。
「意思があるなら、戦える」
岡田は一瞬だけ目を細めた。
「紘一」
「なんだ」
「お前はどうする」
風が強くなる。
「この世界で“どの立場を取るか”」
沈黙。
岡田は背を向けた。
「答えは、行動で示せ」
その背中を見つめる。
その瞬間——
岡田の動きが“先に見えた”。
「……今のは」
すぐに消える。
錯覚のように。
支配か。
意思か。
この世界は——
どこまで歪んでいる。
気が向いたら、作り直しか、続きを書きます




