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ピーターの法則…… じゃなかったのか

 企業内において、業績を伸ばすことに成功した者は出世をする。逆に言えば、業績を伸ばせなかった者は出世しない。

 ……という事は、“業績を伸ばせない”地位や仕事に就いた者は、その場に留まり、動かなくなってしまうのだ。そして、“業績を伸ばせない”のはその人に合っていない地位や仕事だからだろう。

 とどのつまり、企業における“出世”というシステムは、労働者をパフォーマンスを発揮できない立場に追いやって固定するように作用してしまうのである。

 これは“ピーターの法則”という名で知られる問題である。

 労働者に、最大のパフォーマンスを発揮できる仕事をしてもらう方が良いのは言うまでもない。その人にとっても、企業にとっても。だから、これは解決するべき課題なのだ。

 

 人事部長、中田は“ピーターの法則”の本質は“ミスマッチ”にあると考えていた。適材適所で実績を出した者を、出世させる事で適さない場所に追いやってしまう。それが問題の本質なのだ。

 ――ならば、業績を残せなくなった者の性質を見極め、適した場所に配置すればこの現象を克服できるのではないか?

 彼はそのように考えていた。

 そして、山中という中堅の社員は主任に出世するなり急速に仕事の評価が下がっていた。だから彼は山中がどんなスキルを持ち、どんな人柄なのかを調査する事にしたのだった。もっと適した仕事をさせれば、確りと業績を残せるはずである。ただし、彼自身の申告による評価分析や面談などは既に行っている。繰り返したところで、新たなデータは得られないだろう。

 そこで、彼は山中が高い業績を出していた頃の部下の話を聞いてみる事にしてみたのだった。

 何か新たな発見があるかもしれない。

 

 「――え? 山中さんの仕事っぷりですか?」

 

 中田が山中について尋ねると、かつて山中の部下だった村上という社員は驚いた顔を見せた。やや困っているようにも見える。確かに突然尋ねられても困る質問だったかもしれない。

 「彼がした仕事を有りのまま喋ってくれれば良い。彼が君の上司になった時、まずはどんな仕事をやったのかな?」

 そこでそう尋ねてみた。これなら思い出すだけでいけるだろうと考えて、ところがそれでも村上は言い難そうにしているのだった。

 「彼には言わないから、正直に言ってくれ」

 パワハラまがいの事を山中がしたのではないかと考え、そう言ってみた。するとおずおずと彼は口を開いた。

 「……何もしなかったですね」

 その返答に中田の目は点になった。

 「は?」

 「いや、あの、山中さん。着任して来るなり、“オレ、仕事したくないから覚えない”って言って、僕らが仕事を教えようとしても拒否して来たんですよ…… 僕らが必死に仕事をしている横で堂々と欠伸をしたりしていたなぁ」

 中田には村上の証言は俄かには信じ難かった。

 「いや、待ってくれ。彼は数多くのシステムで共有できる便利な検索システムの構築にも関わっていたよね? それも何もしなかったのか?」

 それを聞くと、村上は苦笑いを浮かべた。

 「ああ、それですか。これでしょう?」

 そして、そう言って自身のパソコンのローカルにあるフォルダを見せてくれた。そこには資料をまとめる過程でできただろう個人的なメモやファイルの数々があり、試作段階のSQLや、全社に展開する為のマニュアルの元になったものまであった。つまり、明らかに彼が中心になって作業をしていたのだ。

 彼は語る。

 「大変でしたよ。山中さん、見積もりもせずに納期だけを言って丸投げ、スケジューリングもしてくれないのですもん。こっちは同時並行で運行作業までやっていたのですよ?」

 疑いようはなかった。

 山中は仕事を部下に丸投げして業績を残していたのだ。それで、出世して丸投げできるくらいに優秀な部下がいなくなると、仕事の業績が下がってしまったのである。

 

 「ピーターの法則…… じゃなかったのか」

 

 と、中田は思わず呟いた。

因みに、あるあるネタです。


本編とはまったく関係のないオマケ

挿絵(By みてみん)

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