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第一部 第3話 蔵姫追儺 01


 

 蔵の錠前が、開いていた。


 男は、慌てた。

 そして、戦慄いた。それは、決して開けてはいけない蔵だったのだ。


 ――どうして錠前が開いているのだ。 わからなかった。

 ――何故……、なんてことだ。


 震える手で、男は錆びついた錠前に手を伸ばした。


 もう何十年も、誰も触れたことがないはずの、土蔵錠――土佐錠だ。


 男はあたりを見渡した。誰もいない。


 ――誰が……こんなことを。


 誰も開けるはずがない蔵だった。誰にも、開けられないはずの、蔵だったのだ。なのにいったい誰が何故――。

 がたがた、がたがたと、その皺だらけの指先が震えた。


 ――いや……そんなことより、大変だ……、大変だ。


 男は咄嗟に辺りを見回した。


 錠前の鍵らしき物はない――否、錠前の鍵は、そもそも男が保管していたのだ、家の者に持ち出せるわけがない。この蔵が、開けてはならない蔵だと知っている以上、家の者が鍵を持ち出すわけがないではないか。


 ――とにかく……、錠を、元通りに……。


 ただ徒に齢を重ねただけの疲れきった手だと、男は自分の指が震えるのを見ながらそう思った。

 ただこの蔵を守るためだけに――彼はこんなにも歳をとってしまったのだ。

 それでいいと、思って生きて来た。

 こうするしかないと思って、ここまでやってきたのだ。


 ――それなのに。

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