第四四章 遠くても、支え合う心
夏の空気は蒸し暑く、それでいてどこか切なさを含んでいた。東京の街は夜になり、マンションの窓からは花火大会の光が瞬いている。高層階の部屋から見るその光景は、まるで二人の未来を祝福しているかのように鮮やかだった。
サチは師匠の須賀勇気の紹介で、パリのサロン Veran に修行に行くことが決まっていた。日本人経営、日本人スタッフのみという環境に、少し安心した表情を見せる。けれど、遠くへ行くことへの不安と、ヒロジとの時間が減る寂しさは、胸の奥にずしんと重くのしかかっていた。
「ヒロくん……私、行くの、ちょっと不安だよ」
サチは小さくつぶやき、荷物を手に取りながらも視線はヒロジに釘付けだった。
ヒロジは忙しい合間を縫って、彼女の手を取り微笑んだ。
「大丈夫だよ、サチ。向こうでも絶対に頑張れる。俺がついてるから」
その言葉にサチは少し頷き、涙をこぼさないよう目をそらす。
後日、スタジオZの仲間たちとのお別れ会では、大粒の涙が彼女の頬を伝った。
「サチ……泣くなよ。俺たちは応援してるから」
須賀はそっと彼女の背中を押し、仲間たちの拍手と笑顔が包む中で、サチは深く息をついた。
そして迎えた夜、二人はマンションの一室から花火を眺めていた。光と音が街を彩り、空に大輪の花を咲かせるたび、二人の心は自然と重なり合った。
ヒロジはサチの手を握り、カルティエのペアリングをそっと彼女の指にはめる。
「これ……ずっと一緒だって、約束の印だ」
サチは涙をぬ
ぐい、驚きと喜びで笑みを浮かべる。
「ヒロくん……ありがとう。これからもずっと、一緒にいられるんだね」そぅ言いヒロジの指にもペアのリングをはめた。
彼の手の温もりと指輪の重みが、遠く離れても互いを支え合う強さを象徴していた。
一方、ヒロジはデビュー曲の発表後、怒涛の多忙な日々に追われていた。テレビ出演、ラジオ収録、ライブリハーサル……時間が過ぎるのがあっという間で、サチと過ごす時間はなかなか持てない。
「今度は絶対にしくじれない……」
胸に誓いながらも、彼の心には小さなジレンマが生まれる。サチに会えない寂しさと、夢を追う自分の責任感。
けれど、遠くにいるサチの存在が、どんな忙しい日々の中でも、心の支えになっていた。花火の夜に交わした約束、ペアリングの温もり。それを思い返すたび、ヒロジは前を向く力を得るのだった。




