第四二章 新たな光
事務所のスタジオに差し込む午前の光の中、ヒロジはギターを抱え、深呼吸をした。
前夜に完成させた新曲を、今度は小森のアレンジでさらに磨き上げる瞬間だ。
「ここはもう少しテンポを上げてみようか。曲の高揚感を出すためにね」
小森は譜面に目を落としながら提案する。
ヒロジはギターを構え、微かに頷く。「分かりました……やってみます」
弦を弾き、声を乗せると、曲は前よりも鮮やかに響いた。
「そうそう、いい感じだ。サビのここは、もっと力強く」
小森の指示に従い、ヒロジはさらに感情を込めて歌った。
――くだらないと思いながら、醒めた顔で街を歩く……
――いつかは光を放つだろう、あふれる情熱の涙……
音がスタジオに満ち、ヒロジの胸にも熱が広がる。
「……これで完成だな」
小森はゆっくり頷き、目の奥に微かな笑みを浮かべた。
事務所に戻ると、CD化と販売日の決定が告げられた。
「君達の曲、正式に形にしよう。発売日は4月2日だ」
その言葉に、ヒロジは一瞬言葉を失った。
「ついに……ここまで来たんだな」
心の中に、言葉にできない達成感が湧き上がった。
その日から、新曲発表に向けてのバンド練習が始まった。
スタジオに集まったメンバーは、久しぶりに全員揃った顔ぶれ。
「新曲、やっとだな!」
「うん、全力で仕上げよう」
ヒロジはギターを手にしながら、歌詞やメロディの表現を一つ一つ確認していく。
曲は徐々に完成形に近づいていった。
ハプニングもあった。リズムがずれたり、声がかすれたり。でも笑いながら修正していく。
その一瞬一瞬が、彼らの絆をより強くしていくようだった。
練習を終え、ヒロジは一人で夜の街を歩いた。
街灯に照らされる道、遠くに見える月の淡い光。
ギターケースを肩にかけ、歩きながら新曲のフレーズを口ずさむ。
――くだらないと思いながら、醒めた顔で街を歩く……
――いつかは光を放つだろう、あふれる情熱の涙……
胸の奥に、決意と希望が湧き上がる。
「この曲を、届けるんだ」
街の喧騒の中で、ヒロジの声は静かに夜空へ溶けていった。
月の光が、彼の背中を優しく押すように照らしていた。




