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第三七章 再起への一歩


一週間後ヒロジが向かったのは、小森武の事務所内にある練習スタジオだった。木目調の壁と厚みのある防音扉、天井にはスタジオライトが柔らかく照らす空間は、演奏に集中するには最適な環境だった。窓越しに見える都会のビル群は夕暮れの光に染まり、外の世界とは別の静けさと緊張感が漂っている。


「ここがオーディションの会場か…」

ヒロジは息を整えながら、深呼吸をひとつ。ギターケースを肩から下ろすと、手元の弦をそっと撫でて感触を確かめる。


控え室には、すでに小森武と数名のスタッフの姿があった。彼らの視線は厳しくも、どこか温かさを感じさせるもので、ヒロジは緊張と同時に少し安心感を覚えた。


小森がゆっくりと近づいてくる。背筋の伸びた姿勢、穏やかに微笑む瞳、その威厳の中に柔らかさを持ち合わせた人物像が、ヒロジの胸に重みを与える。


「宮村くん、遠くから来てくれてありがとう。今日は楽しみにしていたよ」

「ありがとうございます…!全力で演奏します」


ヒロジは小森の前に立ち、軽く頭を下げる。緊張で手が少し震えるが、目には決意の光が宿っていた。


「他の候補者もいるけど、君たちの音楽をじっくり聴かせてもらいたい」

小森の声は穏やかでありながら、確かな期待感を含んでいた。


スタジオの奥には、ドラムセットやアンプ、マイクが整然と並んでいる。メンバーも到着し、互いに頷き合う。ヒロジは小さく息を吸い込み、ギターを手にすると低い声で呟いた。


「よし…みんな、行こう」

「うん、任せたよ」

ドラムの仲間も力強く頷く。


スタジオの扉が閉まり、外の世界の音は遮断された。ここから始まる新たな挑戦に、ヒロジとメンバーの心はひとつになった。


ヒロジはギターのチューニングを確かめ、メンバーと視線を交わす。

「月光の疾走、行こう」


イントロのギターが静かにスタジオに響き渡る。ドラムがリズムを刻み、ベースが低く支える。ヒロジは息を整え、歌詞を胸の中で反芻しながたら声を乗せる。


「♪月明かりを駆け抜け 誰にも縛られずに…」

その声は柔らかくも力強く、スタジオの空気を震わせた。


メンバーも自然と呼吸を合わせ、音の波がひとつにまとまる。ヒロジのギターのフレーズが夜の街を駆け抜けるように広がり、ドラムとベースがその疾走感を支える。


小森は静かに目を閉じ、耳を傾ける。演奏が進むにつれて、彼の顔に微かな笑みが浮かんだ。


演奏の最後、ヒロジは全力の声でサビを歌い切る。静かに余韻がスタジオに残り、しばしの沈黙が訪れる。


「素晴らしい…君たちの音楽、確かに聴かせてもらったよ」

小森の声は静かだが、全員の胸に温かく響く。


ここで、小森が軽く頷き、ヒロジに促す。

「では、次にオリジナル曲を一曲聴かせてもらおうか」


ヒロジは深呼吸し、胸の奥にある思いを整理する。

ギターを構え、メンバーと一瞬視線を交わした。

「行くぞ…俺たちの今を」


イントロが流れ始める。オリジナル曲はまだ誰も聴いたことのない、ヒロジの心から生まれた曲。


「♪まだ見ぬ未来を 描きながら歩く

 胸の奥で燃える光 信じて進む…」


声に力強さが宿り、メンバーも音に全身を預ける。スタジオの空気が一気に熱を帯びる。ギターのリフが高く跳ね、ドラムのビートが疾走感を支え、ベースが全体の骨格を作る。


小森は目を開き、演奏に聴き入ったまま、顔に確かな感動の色が浮かぶ。

オリジナル曲の最後の一音が消えると、再び静寂が訪れ、スタジオには心地よい余韻だけが残った。


ヒロジは息を整え、深く一礼する。メンバーもお互いを見つめ、無言のまま達成感に包まれた。


「これで、次に進める…」

ヒロジの胸には、再起への確かな手応えと希望がより強く芽生えていた。

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