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第三五章 再起への扉


ーーあれからどれ位経ったのだろぅーー  街の夕暮れがビルの谷間に長い影を落とす頃、ヒロジは通りすがりに見覚えのある顔ぶれを目にした。かつてのバンド〈ボー・ギャルソン〉のメンバーたちが、建設現場で黙々と作業をしている。セメントをこね、鉄骨を運ぶ姿に、どこか力強さと同時に疲労の色も見え隠れする。ヒロジの胸に、かつての夢がよみがえった。


「俺も…もう一度、頑張らなきゃな」


小さく呟くヒロジ。心の中で新しい曲の旋律が浮かび始める。街灯に照らされた歩道を、彼は無意識に早足で歩いた。帰宅途中、CDショップの看板が光を放つ。ここで働きながらも、サチと一緒に暮らす日常は、かけがえのない安らぎだった。


「ヒロくん、お疲れさま」

「ただいま、サチ」


小さなキッチンで、二人は手を触れ合わせながら笑いあう。ヒロジの手は、今日見た光景の余韻で少し震えていた。


数日後、サチはスタジオZで見習いからアシスタントに昇格した。机の上に置かれた小さな花束と、スタッフたちの「おめでとう」の声。サチの頬が赤く染まる。


「サチ、昇格おめでとう」


ヒロジは少なからずの貯金を握りしめ、サチを高級レストランに連れ出した。キャンドルの揺らめきが二人の顔を柔らかく照らす。


「今日はお祝いだよ、ヒロくん」

「…お祝い、できるだけのこと、したかったんだ」

「ありがとう…でもヒロくん、無理しなくていいのに」

「いや、サチの笑顔が見られるなら、それで十分だ」


食事の合間も、二人の目は自然と重なる。小さな笑みが、胸の奥に温かい光を灯す。


数日後、スタジオZに地元の大先輩、小森武が来店した。背筋の伸びた紳士的な姿に、スタッフたちも自然と背筋を伸ばす。須賀勇気が小森のもとに駆け寄り、軽く頭を下げた。

「小森さん、お久しぶりです。今日のヘアも任せていただけますか?」

小森は微笑みながら、頷く。

「もちろん、前回のスタイリング、とても良かったよ」

須賀は少し照れながらも、胸を張る。

「ありがとうございます。今日も精一杯やらせていただきます」

小森は椅子に腰掛け、落ち着いた声で話す。

「ヘアスタイルも音楽と同じで、見た目の印象が大事だからね」

須賀は真剣な表情で小森の髪を整えながら、軽く笑う。


世間話の中、小森は静かに微笑みながらアシスタントのサチに話した。


「今は音楽プロデューサーをしていてね、大物アーティストのデビューも手掛けてきたんだ」


サチは胸を高鳴らせながら、自分の大切な人の話を切り出す。


「実は…ヒロジっていうミュージシャンがいて…」


小森の瞳がわずかに光る。


「そぅなんだ…、彼に少し興味があるな」


その言葉にサチの心臓が跳ねた。帰宅すると、サチはヒロジに小森の話しを伝える。


「ヒロくん…小森武さんが、あなたと会いたいって」

「え…本当に?是非会わせて欲しい!」


ヒロジの目は期待と不安で揺れる。サチはあらかじめ聞いていた小森の連絡先にコンタクトをとる。


サチは深呼吸して微笑みながら、ヒロジに促す。


「じゃあ、ヒロくん、電話で話してみて」


電話越しに聞こえる小森の落ち着いた声。ヒロジは少し緊張しながらも、自分の想いを真摯に伝える。話は順調に進み、面会の日程が決まった。


電話を切った後、サチはヒロジを見つめる。緊張で少し硬い肩、でもどこか希望に満ちた瞳。


「ヒロくん、大丈夫…絶対うまくいくよ」

「ありがとう、サチ。頼りにしてるよ」


二人の距離が、また一歩、未来へと近づいた瞬間だった。

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