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第三一章 月光の疾走(光と影)


 数ヶ月後。

 ヒロジのバンド〈ボー・ギャルソン〉は、ついに大きな舞台に立っていた。

 SNSでじわじわと火がつき、ストリートライブから始まった彼らの音楽は、いつしか雑誌やネット記事にも取り上げられるようになっていた。

 中でも「月光の疾走」は、一度耳にすれば忘れられないと評判を呼び、街中で口ずさむ人まで現れるほどだった。


 眩いライトが照らすステージの上、歓声に包まれて立つヒロジは、まるで月の光に照らされた疾走者のように見えた。

 けれどその光の裏には、ヒロジだけが抱える孤独と不安が潜んでいる。

 サチは客席からその姿を見つめ、誇らしさと同時に胸が締めつけられる思いを抱えていた。


 ヒロジがここまで来るまでの道のりを、誰よりも近くで見てきた。

 夢を諦めそうになった夜、震える背中を抱きしめたことも。

 悔しさに唇を噛み、眠れぬまま朝を迎えた日も。

 ――そのすべてを越えて、ヒロジは今、光の中に立っている。


 大歓声が響きわたり、ステージは熱気に包まれる。

 だが、ヒロジの瞳の奥に一瞬浮かぶ翳りを、サチだけは見逃さなかった。



 テレビ局のスタジオでも「月光の疾走」は披露された。

 その日の放送は、後に「♪月明かりを駆け抜け 誰にも縛られずに…」と歌われた一節が強く印象を残し、視聴者の間で話題となった。


 無数のライトが降り注ぎ、カメラがヒロジを追う。観客の拍手と声援に迎えられ、イントロが始まった瞬間、ヒロジは静かに目を閉じて心を整えた。


 ――負けない。これが、俺の歌だ。


 伸びやかな声が響き渡り、テレビの向こう側へと届けられていく。

 ギターの音、ドラムのリズム、すべてがひとつに重なり、夜を駆け抜けるような疾走感を描き出す。


 サチは画面の前に座り、祈るように両手を胸の前で組んでいた。

 光に包まれるその姿の裏で、孤独を押し殺して戦っている彼を知っているから。

 だからこそ、彼女は誰よりも強くその歌に心を寄せた。


 歌い終わった瞬間、スタジオが大きな拍手に包まれる。

 ヒロジは笑みを浮かべて一礼したが、その背中にほんの一瞬、翳りが走る。

 画面越しにそれを感じ取ったサチの胸は、切なさで熱く満たされた。



拍手が鳴り止まぬ中、光に包まれたヒロジは笑顔を浮かべていた。

 だが、その胸の奥には言葉にできぬ不安が静かに芽生え始めていた。


 ――果たして、この先も走り続けられるのだろうか。


光と影。

 それは、彼の生き方そのものだった。

 サチはその背中を見守りながら、これからも寄り添い続けることを心に誓った。


眩い光と影の狭間で、ヒロジの物語は次の扉へと向かおうとしていた


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