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第二九章 月夜の散歩


夜風がアパートの廊下をかすかに揺らす。

サチは2階の自室で窓の外をぼんやり眺めていた。

疲れと少しの寂しさが胸に広がる中、かすかな音が耳を打つ――小石が窓の外に当たる軽い音。


「……?」


目を凝らすと、窓の下に影が揺れていた。

サチが驚きながら窓を開けると、そこにはマスクを外したヒロジが立っていた。

月明かりに照らされたヒロジの横顔は、昼間の顔よりもずっと柔らかく見えた。


「ヒロくん……?」

声が震える。


ヒロジは小さくうなずき、アカペラで歌い始めた。

――サチに向けて作った「月夜の散歩」だった。


静かな夜空に、彼の声が溶け込んでいく。

優しく、切なく、そして温かく響くメロディ。

サチの胸に、これまでのすれ違いと不安、そして想いが一気に溢れた。


涙が止まらず、サチは窓を閉める間もなく階段を駆け下り、足元もままならぬままヒロジに飛びついた。


「ヒロくん……!」

「サチ……!」


互いの体温を確かめるように抱き合う。

月明かりの下、空には細い三日月が浮かんでいた。


「ごめん……俺、待てなくて……」

ヒロジの声が震える。


「私も……ずっと、ヒロくんのそばにいる」

サチも涙を拭く余裕もなく、ただヒロジを抱きしめ返す。


しばらく二人は、言葉よりも抱擁で想いを確かめ合った。

暫くして、サチの部屋に戻り、静かな夜の中で身体と言葉で互いの愛を確認する。


ヒロジはそっとサチの耳元で囁く。

「ずっと、そばにいてほしい」

サチは震える声で答える。

「私も……ずっと、ヒロくんのそばにいる」


ヒロジの手がサチの首筋に触れ、唇が重なり、呼吸と鼓動が混ざり合う。

その瞬間、サチの手は自然に胸元に触れ、小さな月と星のネックレスが首元で揺れている。

淡い光を放つネックレスが月明かりにきらめき、二人の距離をさらに近づける。


「これ……ずっと、大事にしてる」

サチの言葉にヒロジは微笑む。

「俺もだ。サチがそばにいてくれるだけで、全部が意味を持つ」


二人は抱き合いながら、言葉と身体で愛を確かめ合う夜を過ごした。

部屋の中に満ちる温もりと、月光に照らされた二人の影。

星も月も二人の再会を祝うかのように輝き、長い時間、互いの鼓動と呼吸だけが静かに響いていた。

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