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第二四章 それぞれの道で


 冬が少しずつ色を変え、街に春の気配が混ざる頃。

 東京の空は澄み渡り、早朝の光がビルの谷間に柔らかく差し込む。街路樹にはわずかに芽吹きが見え、季節の移ろいを感じさせた。そんな中、ヒロジのバンド、ボー・ギャルソンは、CDデビューを記念した全国宣伝ツアーに突入していた。


 朝の新幹線や飛行機での移動、各地でのライブ、ラジオ出演や雑誌取材と、スケジュールは過密そのものだ。ホテルの部屋で軽く休む時間も、スマートフォンを手にサチからのLINEを確認するのが習慣になっている。

 「今日も朝から準備でバタバタしてるけど、頑張ってね」

 サチの短いメッセージに、ヒロジはほっとした気持ちを抱く。忙しい日々の中で、このやり取りが互いの心をつなぐ小さな灯りのように感じられた。


 一方のサチも、春の訪れとともに忙しさのピークを迎えていた。美容学校の卒業を控え、未来に向けた準備は待ったなしだ。特に、卒業記念として開催される服飾専門学校とのコラボ企画のヘアショー&ファッションショーは、サチにとって大きな挑戦だった。


 教室やスタジオでは、モデルたちの髪を整え、メイクを施し、衣装とのバランスを確認するサチの姿がある。衣装合わせや小物の調整、ヘアスタイルの細かな指示、さらにはステージでの立ち位置や動きの確認……一つ一つの作業に神経を集中させていた。

 疲れが体に蓄積される中でも、ショーの完成図を思い描くと胸が高鳴る。自分の手でモデルの魅力を引き出し、ステージを彩る――その想いが、忙しさを乗り越える力になっていた。


 そんな中、二人は時間がある時にLINEや電話でやり取りを続けていた。短い言葉でも、互いの励ましや気遣いがこもっている。画面越しの文字や声は、離れていても確かに心を通わせる手段となった。

 サチはふと、スマホを握りながら微笑む。

 「このヘアショー、絶対見に来るって言ってくれたよね」

 忙しいヒロジのことを思うと胸が熱くなるが、約束を信じ、自分も全力で取り組もうと決意する。


 ヒロジもまた、移動の合間にLINEを確認しては、サチの準備の進み具合を心配しつつ励ましの言葉を送る。ホテルの窓から差し込む朝日を浴びながら、ふと画面を見つめるヒロジの表情は穏やかで、わずかに笑みが浮かんだ。遠く離れていても、互いを思いやる時間が、二人の絆を確かに深めている。


 どちらも別々の場所で、自分の道に真剣に向き合う――。

 それでも、二人の心は互いの存在を確かに感じながら、見えない糸でつながっていた。

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