第二二章 夢の扉が開く
バンド仲間とともに、ヒロジは小さな会議室に集められていた。
テーブルの中央に座るのは、威厳を漂わせる音楽関係者の男性。その隣には、七瀬 結衣がにこやかに微笑んでいる。
男性は書類を机に置くと、低く力強い声で言った。
「正式に決まった。君たちのバンドは、来春メジャーデビューだ」
一瞬、時が止まったように静まり返った。
次の瞬間、仲間たちが歓声を上げ、互いの肩を叩き合う。
「やったな!」
「信じられない、夢みたいだ!」
ヒロジはただ呆然と座り込み、やがて胸の奥から熱いものがこみ上げ、瞳を潤ませた。
「おめでとうございます」
結衣が優しく声をかけ、花のように笑みを浮かべる。その手がヒロジの腕に触れる瞬間、彼はわずかに戸惑いながらも「ありがとうございます」と頭を下げた。
――これが、夢への扉。
その知らせはすぐに広まり、アルバイト先の店長からヒロジに電話が入る。
「お前、本当にやったな! 俺はずっと信じてたぞ」
受話器の向こうの声は弾んでいて、豪快に喜んでくれヒロジを讃えた。
「これから忙しくなるだろうが、遠慮せず頼れよ。お前の夢は、俺にとっても誇りだ」
ヒロジは「ありがとうございます!」と力強く返事をし、その声は少し震えていた。
学校の授業が終わり帰る準備をしていたサチは友人のミカから知らせを受けていた。
「すごいじゃない! あんたの彼、ついに夢を叶えたんだよ」
弾む声に、サチも思わず笑みをこぼした。
「……うん。本当にすごい」
心から誇らしく思う。
でも――昨日目にしたあの光景が、胸の奥にまだ残っていた。
華やかな人々の輪に囲まれる彼。
その隣に立つ自分の姿を、サチはうまく想像できなかった。
ヒロジはそんなサチを気づかう様にすぐ連絡をし、こう言った。
「サチ。メジャーデビュー決定したょ、ここからが本当のスタートだ。夢を叶えて、君に胸を張れる男になる。絶対に」
電話口の声は揺るぎなく、真っ直ぐだった。
サチは何も言えず、ただ静かに「分かった」と告げた。
携帯を耳に当てたまま、サチはしばし言葉を失っていた。
歓声と拍手の渦の中、夢の扉は確かに開かれた。
だがその喜びの光の影で、サチの胸には小さな震えが残っていた。
それでも――ヒロジの声を信じたいと願う心だけは、揺るぎなく胸にあった。




