第一九章:創作の迷いと支え
午後のリビングは柔らかな陽射しに包まれ、窓際の観葉植物がゆっくり揺れていた。ヒロジはギターを膝に抱え、ノートに書き留めた歌詞を何度も読み返してはため息をつく。
「うまくいかないな…やっぱりこのフレーズ、変だよな…」
指で弦を弾きながら口ずさむメロディは、どこか中途半端で心に響かない。ノートには赤ペンで書き直した跡が何度も重なっていた。
「ここは、もっと感情を絞り出さないと…」
独り言のように呟き、思わず立ち上がって部屋を歩きながらメロディを口ずさむ。
バンドメンバーに相談しても、優しい言葉は返ってくるけれど、どうしても自分の思い描く世界観とは少し違う。
その時、サチがそっとヒロジの隣に座った。髪の先が肩にかかり、微かな香りが漂う。
「無理しなくてもいいんじゃない?でも…あなたの思いは、ちゃんと伝わると思うよ」
小さな声に込められた揺るぎない信頼と優しさがヒロジの胸に響く。サチの手がふと膝に触れ、温もりが伝わる。
ヒロジはノートに目を落とし、ペンを握り直す。
「俺の曲…自分らしくなきゃ意味がないんだよな」
小さな決意が生まれ、ギターの音が少しずつ生き生きとしてきた。
その瞬間、突然ひらめきが走る。先ほどまで行き詰まっていたサビのフレーズが頭の中で響き、指が自然に弦を鳴らす。
「そうか…こういう言い回しか!」
声に出して確認すると、リズムもメロディも心地よく響いた。サチはその指先を見つめ、微笑む。
「すごい…その音、前より力強いね」
「サチに聴いてほしかったんだ」
二人の間に、言葉にならない安心感が広がる。
夕暮れ、ヒロジは自作曲を録音してみる。サチの拍手が静かに部屋に響く。
「すごい…あなたの曲だね。聴いてて、胸が熱くなる」
「まだ完璧じゃないけど、少し前に進めた気がする」
ヒロジの目に、初めて自信の光が宿る。
その夜、二人は窓の外に沈む夕陽を見つめながら、これからの道のことを静かに話した。街路樹の影が長く伸び、遠くで子どもたちの声が響く。夢はまだ遠いけれど、創作の喜びと、支えてくれるサチの存在があれば、どんな困難も乗り越えられる気がした。




