表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

第一章 恋の始まり

 その日は小雨だった。

 ホームの屋根を叩く雨粒が、静かなリズムで耳に届く。薄く漂う雨の匂いが、どこか懐かしい。


 美容学校に通い始めたばかりのサチは、いつものように街外れの小さな駅で電車を待っていた。視線は習慣のようにホームのあちこちを行き来する。


 ふと、反対側のホームに立つ青年に目に留まった。

 背中には黒いギターケース。長い指が、何度も無造作に髪をかき乱している。細身の体にすらりとした脚。時おり遠くを見やるその横顔は、少年のように無邪気で、どこか儚い。


 ――あの人、誰だろう。


 気づけばサチは、彼から目を離せなくなっていた。胸の奥がざわめき、知らぬ間に心が釘付けになっていく。それは後に「一目惚れ」と気づくことになる感情だった。


 どうしようもない衝動に駆られ、サチは反対ホームへ向かって走り出した。階段を一段飛ばしで駆け上がる。

 しかし――。


 タイミングが悪かった。

 階段を上がりきった瞬間、ちょうど電車のドアが閉まり、青年を乗せた車両がゆっくりと動き出してしまった。


 サチはその場に立ち尽くし、遠ざかっていく車両をただ見送った。

 雨の向こうに小さくなっていく車両を見て、やけに胸に残った。


 ――また会えますように。


 小さな願いが、静かに胸の奥に落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ