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第2話 最初の介入目標を選ぼう!

本作の投稿頻度は少し遅めです。

 ガーデンシップが緑垣ヴォルデウォール星系第三惑星「白樺」の周回軌道に到達した時、アリシアは栽培用グローブを噛みながらモニターにへばりついていた。


「そろそろ本格的な園芸作業が始まりますわね」


 《訂正:惑星規模の文明誘導活動開始を提案》


 フェアリーの声と共に、艦内に青い光の粒子が舞った。無数のデータウィンドウが開き、淡い緑色の惑星を覆い尽くす。


「まずは基本情報から。この子の名前は?」


 《登録名称:CXV-22671。現地呼称『リーヴェル』》


 アリシアが手を叩いた。


「リーヴェル! 森と硝煙の匂いがしそうな名前ね」


 《分析開始:文明レベルⅣ。政治構造:非統一多極化国家群》


 モニターに映し出された大陸地図が赤と青に塗り分けられる。無数の国境線が血管のように張り巡らされていた。


「まるで割れたガラスみたい…統一政権は?」


 《存在せず。主要勢力:北部軍事同盟『アイアンクロー』、南部経済連合『シルクガーデン』、その他中立国家23》


 アリシアが椅子の背もたれに仰け反った。


「戦争の種まきにはもってこいの環境だわ」


 《注意:内戦継続地域を特定。グリッドD-22からF-45》


「この内戦中の国…名前は?」


 《現地名:ヴェルナント王国。人口872万人。内戦継続期間5年2ヶ月》


 アリシアが指で空中の文字をなぞった。


「ヴェルナント…『緑の炎』って意味かしら。灰の中から芽吹くにはふさわしい名前ね」


 《補足:言語学的には『永続する根』の意》


「どっちにしろ、早く水をあげないと枯れちゃうわ」


 指先で拡大表示した地域に、黒い煙が立ち昇る街の映像が映し出された。崩れたビルを背景に、迷彩服の兵士たちがバリケードを構築している。


「ここが最前線? 勢力図を見せて」


 《内戦勢力:

 立憲君主派『ローレン王家』

 軍事評議会『アイアンシールド』

 自由連合『ブラックサン』》


 アリシアが三つの紋章を指差した。


「赤い盾が軍人派(アイアンシールド)、黒い太陽が無政府主義者(ブラックサン)、そして…白百合が王党派(ローレン王家)ね。現在の勢力比率は?」


 《推定支配地域:

 アイアンシールド:58%

 ブラックサン:31%

 ローレン王家:11%》


「圧倒的じゃない! でも王党派の数字が妙にキリがいいわね」


 《補足:アイアンシールドは隣接国家『カラドックス企業連合』より兵器供給を受けており、戦争経済による利益還元率が92.7%》


 ドローンが捉えた戦場映像が流れる。


 《検出:カラドックス製自律兵器『スコルピオンMk-III』20機。民間人死亡率83%の新型地雷散布中。新兵器のテストと推測》


 アリシアが戦車の3Dモデルを拡大表示した。


「このサソリみたいな足のデザイン、戦場で転んだら起き上がれないんじゃない?」


 《反論:6本の多関節式クローラーは不整地走破性を──》


「だってほら、逆さになると手足バタバタしちゃって。戦車が仰向けになったら『助けてー』って叫んでるみたいじゃない?」


 フェアリーが0.2秒間静止した後、実際に戦車が転倒するシミュレーションを再生した。


 《生存率0.3%》


「あら…お星様になっちゃうわ。でもこういう弱点があるなら…」


 彼女が突然カメラに向かって指を振った。


「フェアリーちゃん、今後戦車設計する時は必ず『起き上がり小法師』機能をつけましょうね」


 《記録:貴女の戦車デザイン案『おきあがり戦車くん』が新規ファイルに保存されました》


「やめて! まさか本当に保存してたの!?」


 アリシアが慌ててファイル削除ボタンを連打する指先が、ふと戦車の残骸映像で止まった。転倒した「スコルピオン」の砲身に、鈍い銀色の輝きを放つ植物が絡みついている。


「…この花、金属で出来ている?」


 《拡大分析:現地名『灰鉄草』。重金属を蓄積する特性あり》


 彼女が画面に近づき、瞳がルーペのように細くなる。


「茎の模様…まるで王家の紋章の縮小版みたい」


 《追検証:汚染土壌1kg当たり2.3gの鉄を吸収。開花時に金属結晶を形成》


「そうか…人々が気付いてないだけで、希望は既に芽吹いてたのね」


 その時、モニターが突然赤く染まる。企業連合のマークが刻まれた輸送機が、新型地雷を次々と投下していく。


 アリシアの指が戦車の花を優しく撫でるように拡大操作した。


「企業国家が戦争を飼い慣らしてるのね。ならば…」


 彼女は突然笑みを浮かべた。


庭師(アタシ)の出番よ。雑草を抜いて肥料を撒かなくちゃ」


 《警告:直接介入ダイレクト・オペレーションは条約違反》


「心配いらないわ。だって『偶然』を仕組むのがお家芸でしょ?」


 アリシアが量子接続端末を手に取り、空中キーボードを叩き始めた。無数の匿名アカウントがリーヴェルのインターネットに流入する。


「まずはSNS分析から。最新のトレンドは…『#生き延びるレシピ』『#戦場フォトコンテスト』…ひどいのばっかり」


 《検出:トレンド記事『王家の紋章を刻んだ古銭が高値買取』》


「これは使えるわ! ローレン王家のシンボルが民心に残ってる証拠だよ。それに…」


 アリシアが千年以上前の壁画データを拡大した。


「この『光の巡礼』の図柄、現代でも祭事に使われてるのね」


 《補足:リーヴェル歴における光崇拝の痕跡。戦災で失われた《聖火台》再建運動が最近活発化》


 次にモニターに流れる映像がアリシアの眉を曇らせた。廃墟となった市場で、老婆が王家の紋章入りメダルを地面に埋める姿が映っている。


「支援率が低いのはアイアンシールドへの反感の表れね。でもどうして王党派が劣勢なの?」


 《要因:

 カラドックスの兵器供給

 ブラックサンのゲリラ戦術

 王家内部の分裂》


 突然、アリシアがホログラフィックマップを回転させた。


「待って、このデータおかしいわ。主要都市の戦災被害率78%なのに、王党派支持率が11%維持されてるのはなぜ?」


 《検出:エリザ・ヴァンデルローレン第七王女の個人的人気。20代以下支持率49%》


 画面が切り替わり、瓦礫の前で子供たちにパンを配る少女が映し出された。銀の髪飾りが硝煙の中でも輝きを失っていない。


「あら…可憐な薔薇が灰の中で咲いてるわ」


 アリシアの指が王女の画像に触れる。


「これが運命の芽吹きってやつね」


 《警告:カラドックスの監視網が王女をマーク済み。暗殺リスク評価B+》


「なら尚更、アタシたちが守らなくちゃ」


 アリシアが量子暗号生成器を取り出す。


「介入方針変更。『古代遺産』作戦は中止よ」


 《理由?》


「ヴェルナントの人々が求めてるのは遺物じゃないわ」


 彼女は戦場に関するSNSデータを展開した。#王女様の笑顔 というタグが無数に流れている。


「ほら、これが真の『種』よ」


 《分析:感情的な支持は持続性に欠ける》


「だからこそ『偶然』を演出するの」


 アリシアが若年層の移動パターンを指差す。


「見て、避難民の8割が王女のいる北東地域に移動してる。ここに『希望の芽』を育てるわ」


 《提案:

 偽装医療支援チームの投入

 暗号化情報網の構築

 カラドックス兵器の弱点リーク》


 アリシアが椅子を回転させながら首を振った。


「もっと根本的なものよ。まずは『彼女が選ばれた存在』だと人々に信じ込ませる」


 《具体策要求》


「例えばね…」


 アリシアが戦略マップを拡大し、前線の通信基地を指差した。


「まず情報戦よ。アイアンシールドの命令系統に『偶然の故障』を起こさせてみるわ」


 《提案:敵の無人偵察機に偽装電波を送信》


「そうじゃなくて、もっと現地の技術で説明できる方法で」


 彼女は兵器工場の設計図を抽出した。


「カラドックス製戦車の燃料ポンプ…ここに不具合を起こすナノマシンを混入させるのは?」


 《検証:現地の整備士が発見するリスクあり》


「ならば、『たまたま』粗悪な燃料が流通したように見せかけましょう。フェアリー、この地域の闇市ルートを解析して」


 フェアリーが瞬時にネットワーク図を展開した。


 《主要サプライヤー:コードネーム『灰鼠』。接触可能》


「そいつに偽物の品質証明書を流し込んで。カラドックスの信用を失墜させつつ、王党派が『偶然』兵器を鹵獲できる隙間を作る」


 《追加提案:鹵獲兵器の追跡チップを遠隔無効化》


「そうよ! 戦車のGPSが『たまたま』雷撃で故障したとかなんとか」


 モニターにシミュレーション結果が表示された。


 《戦力均衡変化率:18%上昇》


「次に医療支援ね」


 アリシアが難民キャンプの映像を拡大した。


「王女のシンボルマーク入りの医療キットを『偶然』国境警備隊のトラックから盗ませる」


 《追記:キットに生体発光種子を混入可能。創傷治療時の光反応を『治癒の奇跡』と演出》


「いいわね! 昔伝わる《光の治癒》の言い伝えと符合するね!」


 《肯定:民間おとぎ話『月虹の夜に傷は癒える』との類似性87%》


「でも発光タイミングは王女の訪問時間とシンクロさせて」


 アリシアがツールベルトから虹色の種子を取り出し、窓にかざした。艦外の星明かりが種子内部の微小回路を輝かせる。


 赤外線スキャンが王党派支配地域の地下水源を表示した。


「そしてここに『偶然』簡易浄水装置の設計図を埋めるわ。廃墟の図書館の瓦礫の下から発見されたようにね」


 《評価:技術的整合性あり。旧世代の濾過技術を応用》


「ほら、全部現地の技術水準で再現可能でしょ? でも…」


 彼女が突然不敵に笑った。


「一番重要なのは『タイミング』よ」


 《具体例要求》


「例えば王女の演説中に、『たまたま』敵の砲撃管制システムが太陽フレアでダウンするとか」


 アリシアが宇宙天気予報を表示した。


「ほら、明日の11時に放射線レベルがピークに達するわ」


 《補足:その時間帯に王女が病院視察を予定》


「そう、『偶然』が重なるのを演出するの。人々が『運命』を感じるようにね」


 フェアリーが戦術評価を更新した。


 《民心掌握成功率47%上昇。カラドックス介入リスク15%低下》


「これでどうかしら?」


 《肯定:現実的かつ持続可能な介入。シミュレーション結果を再計算中》


 フェアリーが0.3秒の沈黙後、再計算結果を表示した。


 《戦略シミュレーション完了:

 成功率72.3%

 想定死者数18942人

 文化汚染リスク:C+》


「…死者数をもう一度」


 《18942人。内訳:早期な内戦終結及び紛争激化による巻き添え犠牲》


 アリシアが窓に手を当てた。硝煙の上がる大陸を見下ろしながら、彼女の指が微かに震えた。


「これが…雑草を抜く代償?」


 《肯定:より大きな枯死を防ぐための剪定》


 彼女が戦車の転倒映像をちらりと見て、

「せめて最後はまっすぐ立たせてあげたいわね」


 少し深呼吸すると、彼女は鋭い眼光でモニターを見据えた。


介入(オペレーション)目標(ターゲット)をエリザ・ヴァンデルローレンに指定」


 廃墟のホログラムが再び映し出される。エリザ王女が少年兵の包帯を替えている。彼女の手首に、アリシアが先ほど持っていた発光種子と同じ色の輝きが宿っている。


「あら…偶然のシンクロニシティ」


 アリシアが種子を窓に向けて掲げた。


「行くわよフェアリー。ヴェルナントに『選ばれし王女』の伝説を刻みましょう」


 《最終確認:|介入(オペレーション)目標(ターゲット)をエリザ・ヴァンデルローレンに指定》


「もちろん。彼女こそが──」


 突然、アリシアの腹が「グー」と鳴った。艦内の冷蔵庫が自動的に開き、栄養ジェルが運ばれてくる。


 《忠告:戦略会議中の食事は集中力を27%低下させます》


「これは戦略的栄養補給よ。フェアリーだってオイル交換するでしょ?」


 《否定:私は光量子エネルギーのみで──》


「はいはい、ツンデレAI(フェアリー)の話は後にして」


 窓外に広がる惑星リーヴェルが、硝煙の隙間から微かな緑の輝きを放っていた。

拙文を読んでくださりありがとうございます<(_ _)>

誤字脱字&誤った表現があれば優しく教えていただければ幸いです。

感想&レビューお待ちしております。

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