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サティは興味津々でオーブンの中のクッキーを見ている。
アニーはそんなサティを微笑ましく見ながら「明日はケーキにしよう」と声をかける。
アニーはこのお嬢様はそろそろここから居なくなろうとしている。
そう予感していた。
それなら少しでも自分が知ってる家事を教えてあげなくちゃと張り切っていた。
タイマーの音が鳴りクッキーが出来上がった。
サティはオーブンミットをつけて恐る恐る引っ張りだす。
途中少しよろめいたけれどなんとかテーブルまで無事にクッキーを置く事が出来た。
「ふぅ思ったよりも重いのね」
顔に熱気が少しかかり赤い顔をしたサティが言うとアニーがニコニコして濡れたタオルでサティの顔を拭いてくれた。
粗熱を取っていい匂いのクッキーをお皿に並べているとアニーが紅茶を入れてくれた。
オットーの所に二人で行くと彼は丁度手紙を読んでいた所だった。
「あなたサティ様が初めて焼いたクッキーですよ。お茶にしましょう」
そう言ってテーブルに並べるとオットーは少し影のある笑顔で椅子に座った。
「護衛が明日到着すると思いますよ」
お茶を一口飲んでそうオットーは話した。
今朝聞いたばかりの護衛がこんなに早く来るなんて吃驚して目を見開いていると。
「こちらに送る手紙と同時に向こうを出発したのでしょうね、こちらの手紙は護衛の方からです。隣の町に今宿泊しているそうですよ」
「そう、思ったよりも早かったわね、アニーさんごめんなさい、折角のご厚意だったのにケーキ焼けなかったわ」
「いいんですよ私の事など気になさらなくても」
「でも」
「大丈夫です、いつかケーキを焼ける日も来ますよ。私がお教え出来なかったのは少々悔しいですけどね」
「フフフ」
アニーが少しでもサティの心を軽くしてくれようとしているその言葉がとても嬉しかった。
だが明日出発するのであれば準備をしなければならない。サティはオットーにお願いすることにした。
「オットーさん教会に口利きしてもらえませんか?」
「教会ですか?」
「はい、私はこれから旅に出ないといけません。ですが祈りは続けなくては困る方がいるのです。教会が近くにある所ばかりではないと思いますので形代を頂かなくてはなりません、ただ形代は中々教会は出してくれないのです。町長である貴方ならお願いできるのではないでしょうか?」
「わかりました、そんな事はお安い御用ですよ。今から行きましょうか、早く行かないと帰りが遅くなって荷物を纏められないでしょう」
「急で申し訳ありません、よろしくお願いします」
サティとオットーはそれから二人で教会に行き形代を貰い受けた。
オットーの家に戻るとアニーも手伝って旅の支度を始める。
この日の為に町長夫妻は服や下着、靴に至るまで新しい物を用意してくれていた。
その気遣いにサティは感謝を述べた。
夕暮れになってこの家の娘がやっと帰ってきたので今までお世話になったとサティが挨拶すると「あらそう」と言ってそっけない態度で部屋に帰っていった。
(お友達は無理だったわね)
この家に来た時にサティより2つ下のルーナとは友人になりたかったのだが、ルーナに避けられて話せなかった。
それがとても残念だった。
(私ってあまりよく思われないのかしら?お友達を作るのは難しいのね)
学園の課題や王子妃教育は努力すればいつかはこなせるようになったが、友人は努力してもできなかった。
(私の人生で一番の難問だわ)
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