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「お嬢様、クッキーを焼こうと思うけどどうします?」
「えっアリーさんいいんですか?」
「この前焼いてみたいって言ってたでしょう」
「はいありがとうございます、お願いします」
ここへ来てサティはオットーの妻であるアリーに家事を習った、一番手こずったのはやはり料理だったが、なんとか食べられる物が作れるようになってきていたので、今度お菓子作りも挑戦したいと言っていたのだ。
二人でキッチンへ向かう。
「ルーナさんは良かったのですか?」
「あの娘はいつものように友達とお喋りよ、毎日何を喋る事があるんだか、ねぇ」
「フフでもお友達がいるのが羨ましいです」
サティは令嬢時代、殆ど家と城の往復だった。
王宮では王子妃教育、家では家庭教師とお攫い、寝る間もないほど忙しかった。
だから学園が唯一の息抜きの場になると期待して入学したのだが、それも直ぐに夢と消えた。
生徒会から伯爵家の庶子の世話係に任命されてしまったからだ。
ただ最初に任命された時は(お友達ができるわ)と軽く考えてた。
13年平民だった者が突然貴族になるという事にあまり考えが及んでなかったのだ。
おそらくそれはサティの周りにいた全員が甘く考えていたのだろうと今なら思う。
メリーナ伯爵令嬢は、全くという程何も学ばずに入学したようで、歩き方、座り方、そして食事のマナー、全てがサティには有り得ない所作だった。
話を聞くと伯爵家では家庭教師は頼んでないとの事、父親が学園で学べと送り出したという。
そもそも学園でマナーの授業などはない。
マナーは貴族社会では必須なので各々家で学ぶ物だ。
それを彼女の父親は学園に、いやサティに丸投げしたのだ。
メリーナは最初に言った。
「公爵家のマナーをおしえてちょうだい」
前途多難だとサティは頭を抱えた。
とても人に教えを乞う態度ではなかった、それでも根気よく教えたつもりだった。
何度も何度も丁寧に、ただメリーナはあまりにも酷かった。
少し廊下を歩くだけでもドタドタ歩く。
教室で椅子に座ったら足をブラブラさせたり、組んだり、時には開いていたときもあった。
一事が万事そんな風なのでサティの注意は彼女にとってお小言に聞こえたのだろう。
いつしかサティが側に行くと、同じクラスの男子生徒の後ろに隠れるようになった。
それだけならまだ良かったが、その男子生徒に馴れ馴れしく腕を組んだり抱きついたりヤリたい放題でサティは学園生活においても、いや学園生活こそが疲弊する場所になっていたのだ。
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