17
「お嬢様、あの⋯お客様なのですが⋯⋯」
翌朝、出発の準備をしていたら朝の鍛錬に行ったはずのダミアンが、直ぐに帰ってきてサティに伝える。
「お客様?」
こんな所に知り合いがいるはずもないし昨日のギルドで何かしたかしらと思いながら誰かを訊ねる。
言いにくそうなダミアンを見て訝しんでいると、その人は勝手に入ってきた。
「サティ」
「⋯⋯レオナード殿下」
訪ねてきたのは凡そ1年ぶりに会う元婚約者だった。
あの婚約破棄を告げられたパーティ以来だ。
「⋯⋯サティ⋯会いたかった」
涙ながらに再会を喜ぶレオナードにサティは不信が募る。
(何を言ってるの?貴方が私から離れたのに)婚約破棄された時を思い出し、苦しくて言葉が出ない。
サティの言葉も聞かず言い掛かりを付けたレオナードの姿が脳裏に浮かぶ。
「何を⋯何を仰っているのか、理解に苦しみます」
「⋯⋯」
「如何して此処が解ったのですか?元より何をしに来られたのですか?」
「君がそういうのも無理ないな、私は何も解っていなかったんだから」
「⋯⋯」
「少し話しを聞いてくれないか?」
「嫌です、もう話す事などありません」
レオナードはサティに近づき手を取ろうとした所をダミアンに制される。
「お止めください、私はお嬢様の護衛です。これ以上近づくようなら殿下でも攻撃せねばなりません」
「⋯⋯もう殿下じゃないよ。遠慮は無用だ、だがサティどうか、どうか私の話しを聞いてくれ!いや聞いて欲しい。お願いだ⋯⋯お願いします」
レオナードのそんな姿を初めて見るサティは動揺してしまう。
いつも優しかったが次世代の為政者らしく堂々としていたレオナードが、話しを聞いてくれと懇願する姿は、彼らしくなくそして惨めに思えた。
それまで黙って見ていたファミがレオナードを口撃する。
「そんな今更話しを聞けなんて、お嬢様がどんなにお辛かったか。その時貴方は何をしていたのですか?貴方があの女を侍らせてる時、お嬢様は一人でリオン様の為に戦っておられたんです」
ファミの言葉はレオナードの胸を抉ったようだが、それでも諦めず懇願する。
「わかっている、私が駄目な事はもうわかっているんだ、だが、だがサティどうか如何か私の話しを⋯私に慈悲を。お願いだサティ」
サティはこのままではレオナードは死んでしまうんじゃないかと思った。
それほどに必死なレオナードにとうとう折れて話しを聞く事にした。




