魔法使い専用ロボットが蔓延る世界で、剣士の俺は何回も頑張る(仮)
ここは軍人を育成する為の学園。
色々あって僕は決闘を申し込まれた。
僕の目の前にあるのは汎用魔法軍機VW。
体長10mにもなる鋼鉄の塊だが魔力を通すことで自由に動かすことの出来る人型の機械。
勇者に倒された魔王様の遺産…または置き土産。
勇者によって公開されたあと、動く原理もわからないまま各国の軍に兵十搭載された、この世界で最も人を殺した忌むべき兵器だ。
今回の決闘では当然のようにこの兵器を使う。
場合によっては死人が出ることになるが・・・その辺りは殺される方が悪いのだろう。
「決闘は同種の機体。武装は各々の自由に決めること。
転校生は何か欲しいものはあるか?」
「それじゃあ剣を装備させて欲しいな。出来るだけ切れ味のいいやつ。
あと他の装備は出来るだけ外して、どうせ使わないから」
「使えないの間違えだろ。剣士様」
決闘相手である身体の引き締まった男性が茶々を入れる。
アラン=ローウェン。この学園の首席であり、何かにつけて突っかかってくる人。
「これはこれは魔術師様。本日はよろしくお願いしますね」
「お前以外はみんな魔術師だがな、魔力弱者」
周囲の学友たちはクスクスと笑い始める。
ここでも剣士差別…というより魔術師優遇が起きているらしい。
魔術師以外がVWを操縦することなんてまずないのだから仕方ない。
VWは魔術師の補助装備の意味が強い。
魔力効率の追求と魔力出力の強化を目的として作られた兵器だ。
だがあまりにも強すぎた。
纏う鋼鉄は剣士の剣を通さず、機動力は盗賊を優に凌駕し、射程は弓兵の倍以上で威力も精度も良いときた。それでいて目立った欠点など存在しない。
昨今の軍としてはVWを操れる魔術師が当たり前であり、操れない人間に人権はなし。
そして魔力は生まれ持った才覚であり努力でどうにかなるものではない。そりゃ差別を助長するものだ。
「準備が整った。それでは合図と共に戦闘を開始してくれ」
コックピットへ乗り込み、操縦桿を握る。10mはある鋼鉄の塊はまるで自分の手足のように動かすことが出来る。
魔力による機体の制御。本来は動かすことの出来ないこの鉄の塊をかつての魔王の未知の技術により動かすことが出来る。
そしてVWの性能は魔力量によって著しく変わる。
特に1㎞先にいる機体は僕の使うものとは到底同じものには見えないだろう。
色鮮やかに光る魔力が手足の関節から火花のようにあふれ出す。僕のなけなしの魔力とは違い出力差が全然違う。さぞ関節が動かしやすいことだろう。
開始の合図が鳴り響く。
「それじゃあいっちょ死ねや」
通信魔法越しに聞こえる声。同時に放たれる魔力弾。
ただ魔力を直線に放出するだけのエネルギー弾であり、もしただの魔術師が放った場合、打撲にすらならず避けることも容易なそんな威力の弾だ。
だがVWで増幅されたソレは紛れもない兵器だ。同じ魔力消費でも建物は倒壊し、人間に当たれば消し炭になる。
つまり彼らにとって何でもない通常攻撃ですら、こちらにとっては必殺の一撃へと変わるのだ。
「いってぇ!!」
「おいおい、流石のそれぐらいは避けてくれよ。話になんねぇじゃねぇか」
彼らにとっては通常攻撃でも魔力出力の心許ないこちらにしては致命の一撃になり得た。
指向性を持って放たれた汎用攻撃魔法は僕のVWへ直撃した。
幸い小手調べの一発だけだから部位の欠損は起きていない。
だが何より攻撃を受けた箇所には僕の肉体が打撲のような痛みを感じていた。
「おいおいダメージフィードバック解除し忘れてんじゃねーか?
誰だよ整備したやつ」
観衆が笑い始める。当然ワザとなのだろう。
だからこその1発だけの攻撃。ようは嬲り殺しにしたいというわけだ。
機体が壊れないギリギリで、僕本人に痛みを与え続ける。
飽きれば機体の手をもぎ、足を切り落とす。その痛みはまるで本当に僕自身が感じる痛みとなるだろう。
これは勝負なんかではないく狩り。
悪意ある子供が犬や猫に石を投げるように、愚かな貴族が野生動物に魔力を当て殺す。
まさしく僕は安全圏から嬲られる標的だ。
「しっかし本当に魔力がねぇんだな。
あの程度の攻撃で普通そこまでダメージ受けるか?」
そういうとアランは自分自身に魔力弾を放って見せた。
結果は無傷。魔力で作られた装甲がVW本体へのダメージを全てシャットアウトするのだ。
ここでも魔力差を見せつけられる。
魔力の少ない僕では魔力装甲で減らせるダメージ量も少ない。
「そら、次いくぞ」
機体から魔力の粒子が固められ、再度放たれる。
「―――ッ」
手、足、胴体、急所を避けながら、ダーツで高得点を狙うように指定した場所を的確に当てる。
一方的な攻撃だった。反撃する余地もない。
だからこそアランは不満げだった。あまりに面白味がなかったからだ。
飽き初めていた。もう終わりでもいいと考え始めた。だからこそ―――
「そろそろ大きいの言っとくか?」
アランが言い放ち、コックピットを目掛けて魔力を放った瞬間―――
僕の機VWは大きく跳ねた。
「なっ…」
その油断を待っていた。この一瞬の勝機に賭ける為に。
ダメージフィードバックがオンになっていることは知っていた。
搭乗した時に確認し、その上で見過ごしていた。
戦闘を楽しんでもらうために。
一方的な攻撃に油断してもらう為に。
「なんだよ、その動きは―――」
高機動、それは魔術師が乗るVWに劣らない速度で動いていた。
少ない魔力をかき集め、機動力だけに注いだ。代わりに魔力装甲を『初めから』から切っていた。
通常の戦闘ならば1発当たれば致命傷、2発当たれば即ゲーム終了だっただろう。
だがアランは初弾が当たった時点で手加減をした。
痛め付けることを目的としていた彼にとって、致命傷を避け手を抜くことは必然だった。
そして彼は魔力装甲を切っていたことに気づけない。
剣士の使うVWという対戦経験皆無の相手。
ただでさえ少ない魔力の所為で、魔力装甲を切っているのかどうか判別がつかなかったのだ。
だからこそ今はありったけの魔力を機動力に注ぐことが出来た。
僕がVWの操作を知らないと思った相手の落ち度だ。
「っち、謀りやがったか」
一瞬こそ動揺を見せたもののすぐに体勢を立て直し、応戦する。
流石は首席であり、VWの実力に関しては確かな腕がある。
手加減の無い、当たれば致命傷の汎用攻撃魔法がこちらを的確に目掛け放たれる。
だが攻撃が当たることは決してない。
攻撃が当たる瞬間、地面を蹴り、完璧によける。
それは剣士としての実践が、身のこなしが出来るわざだ。
僕ら剣士は対面する魔術師の攻撃を避ける練習を死に物狂いでやってきた。
当たれば負け、距離を詰めれれば勝ち。
VWが出て来る以前の戦いはそんな単純なものだった。
今の魔術師たちは知らないだろうが。
「だから何だよその動きは!!曲芸師か!!」
アランは動揺を隠せないだろう。
なんせこんな動き、普通のVW使いはまずやらない。
VWの戦いは基本的に魔力装甲で攻撃を防ぐ。
面での戦いが多いVW戦闘に置いて回避力を求められる場面の方が少ないからだ。
だからこそ通常はダメージフィードバックが切られているのだ。
魔術師の多くは魔力装甲越しに伝わる痛みを嫌う。
意味もなく痛みを感じる必要はないと考え、最新機体に関してはそもそも機能を削られていることも多い。
だが剣士の戦いにおいてダメージフィードバックはなくてはいけないものだった。
手足の感覚が、VWの感覚が直に伝わる。それはダメージだけではない。
足の指先までの感覚、地面の感触、風の流れ、それら全てが感じられた。
それはダメージフィードバックが切られた状態では決して感じることの無い触覚だった。
だからこそ避けられる。
地面を踏む感触があるのならば、多少の動きの差異があってもいつもと同じように足のバネの活かし飛ぶことが出来る。
受け身を取りながら地を滑るように移動することが出来る。
そして壁を蹴り三角飛びの要領で相手の頭上へと飛ぶことも。
「これでお終りだ」
VW戦闘では想定されていない頭上からの攻撃。
いくら首席だからと言っても反撃は容易ではない。
既に剣の間合い。
いくら魔力装甲が有ろうと剣であれば魔力差を無視して攻撃が通る。
刃先のほんの数センチ。その一点に全魔力を注ぎ込む。
魔力弱者と言えど全てをかき集めれば魔術師をも超える魔力強度へとなれる。
これが剣士が魔術師に勝てる、唯一の方法。
だが僕の振りかざした剣先がアランのVWに届くことはなかった。
いや、それどころか異様な光景が行われた。
目前に見えていた視界が落ちる。視界がゆっくりと、そして…
「うぐっ」
肺を圧迫する痛み。背中から、手足から、押しつぶされるような感覚。
瞬時に自体を把握する。攻撃だ。
何らかの魔法によって操縦しているVWは地面を這いつくばる格好となっている。
僕はその攻撃を、魔法を知っていた。
「っち、剣士相手にマジになるなんてな…。
だが仕方ねぇ、俺は負けたくねぇ。負けたくねぇから全力でお前を殺す」
「っ―――」
重力魔法。一部の魔術師が得意とする魔法の系統。
指定した場所の重力を増加させ、拘束したり押しつぶしたりする魔法。
本来であれば精々身動きが鈍化する程度の魔法。
研鑽を積んだとして実践レベルには程遠いと言われ廃れてきた魔法だった。
だがVWで強化された魔力で使えば話は別だ。
10mを越す機械の塊だろうと押し倒し身動きが取れなくなる。
そして人間相手に使えば、何人相手だろうと肉塊すら残らないだろう。
だがこの魔法すらまだ生ぬるい。
なんせ相手はあの傑物なのだから。
「完全とは言えないが杖だけなら取り出せる。
全力を出せずに済まないな」
それは言い訳ではなく本当に申し訳なさそうな声だった。
こちらの実力を認めてくれたことを嬉しく思うと同時に全力で来る。
もう油断も隙も与えてはくれないのだろう。
次元を割くように空間が歪む。
禍々しい空間から黄金に輝くVWと同じほど巨大な杖が現れる。
愚者の杖。
特定の魔法系統、戦闘方法に特化されたVW専用装備。
大量殺戮魔道兵器。
「これで終いだ」
「!?」
「面を下げろ」
男が杖を振り上げた瞬間、地響きが起こる。
隕石でも落ちたかのような振動。そしてさっきまで自分の居た地面が陥没する瞬間が目に入る。
「なんだ、避けたか…いやそうでもないみてぇだな」
「…」
渾身の力で重力場から逃げおおせたが、それでもギリギリだった。
その所為で、左手が完全に持っていた。
「どうだ、片腕を失う痛みは?剣士でもまず経験しない痛みだろ?」
「…片腕を失うことぐらい、生身の戦闘なら覚悟していることだよ」
「そうかよ、戦士様は何とも理解し難い経験をしているようで」
ダメージフィードバックがあるとは言え、実際に腕を失ったわけではない。
痛みはあるものの他の動作に支障は出ない。
重力魔法のエキスパートが、愚者の杖を用いてまで全力で殺しにかかっている。
これはとても得難い経験だ。
「それじゃあ、第二ラウンドを始めようか」
杖を振り上げる。瞬間、俺の背中に再度重みを感じられた。
範囲重力増加。その射程は―――
「20㎞だ。この周辺の重力を2倍にした。たった2倍だが、お得意の高速戦闘はしにくいだろう?」
「…」
立っていられないわけではない。
だが2倍の重力では普段の身体を動かすのとでは勝手が違う。足腰の動かしかたがまるで違うのだ。
何より問題はその効果範囲。範囲外に逃げることは不可能だ。何よりも―――
「絶対に逃がさねぇからよ。俺の魔法の実験台になってくれよな」
杖を振るう。その度に空間が歪む。
俺が接近戦を仕掛けようと踏み込んだ瞬間、まるで沼にでも足を突っ込んだような感覚がした。
「重力地雷。そこは地雷原だぜぇ」
細かい重力場の弾が隆起を活かして隠してある。
踏みつけた相手の足を奪うように。
「ぐっ」
剣で左足首を切断する。
咄嗟の判断だったが正解だったと言わんばかりに、先程までいた場所が消し飛ばされる。
「っち、はずしたか」
相手の攻撃方法は単純だった。
重力魔法で足止めし、高威力な魔法を確実に当てる。
だが同時に単純だからこそ防ぎようのない攻撃だ。
捕まれば終わり。それでいて距離を取られている限りこちらに攻撃権は一生移らない。
「だが準備は整った」
今度は汎用攻撃魔法をこちらに目掛けて打った。
速度重視の致死には至らない攻撃。何よりいくら2Gの空間でも俺には…
完全によけた。そのはずだったが―――
「ぐっーーー」
だがその攻撃は不規則な動きをして僕のVW機体へと当たる。
「っち、これもイマイチだな。まだまだ調整のし甲斐がありそうだ」
「…腕に重力を付けたのか」
原理は地雷重力魔法と同じだ。
だがこちらは魔法を重力により引力させる為のもの。
「当たり。そうだよ、だがまだ試作品なんだよなぁ。
あまり速力のある攻撃は引き寄せられねぇ」
ご丁寧に説明してくれるものの、だからと言って何も解決しはしない。
その後も多種多様な重力魔法を駆使して僕は追い詰められた。
これだけの種類の攻撃を考えるのは彼の研鑽の賜物なのだろう。
「なるほど、知りたいことは大体知れた。ありがとう。
お前は何より優秀な実験体だったよ」
そして最終的には完全に重力に捕まえられた。
杖をこちらの鼻先に付け、言うならば首に剣を押し当てている状態だ。
「お前は確かに優秀だ。侮っていたら殺されていた。
今まで戦ってきた剣士とも、VW使いの中でも一番と言っていい」
「それはどうも」
初めこそ憎しみあっていた関係なのにそこまでの賞賛をいただけるとは…。
殴り合って初めて生まれる友情のようだ。
「だがやっぱり剣士は魔術師には勝てない。
それこそがVW戦闘が始まって以来の確かな事実だ」
「…」
かつて魔王を倒す為に数々の職業が生まれた。
だが魔王が倒れた今。そしてVWという機体が生み出された今、魔術師した生き残らなかった。
全てが排他され、そして殺された。
「さようならだ」
「せっかくだからこの機会に一つだけ訂正させてもらおうかな」
この期に及んでと言いたげだろう。
だけどずっと気になって仕方のないことだったのだ。
「僕はあまり物覚えが良くないんだ。
剣術の稽古では理論よりも実践。素振りより練習試合で型を覚えていくタイプなんだ」
「…それがどうした?」
脈絡のない自分語りに思えただろう。
だけど本当のことだった。
「ありがとう。今回の君の戦術は覚えたよ」
「だからどうした。お前に次はない」
「俺は―――剣士なんかじゃない―――勇者だ」
『リセット』
その言葉と共に僕はセーブ地点へと戻される。
「おはよう。また戻ってきたみたいだね」
ここは自室。本を読んでいた少女は面白そうに聞いてきた。
「これで何回目かしら?」
「1442回。本当に強いよ、彼は」
VWを操縦する学生の中でも首席を務める男だ。
口の悪さなど欠点はあるものの実力に偽りはなく、そして努力も怠らない。
「本当ならこんな決闘なんてしないで仲良く友情をはぐくみたいんだけど…。
やっぱり駄目なの?」
「そうよ。それじゃあシナリオが完成しないの。
貴方は彼に勝って成り上がらないといけないの」
「そうですかぁ…」
それがルールだというのなら選択肢はない。
僕は言われるがまま、いつ勝てるかわからない強敵に立ち向かうしかない。
「次こそ勝てるといいですね、勇者さま」
「それじゃあ行ってきますよ、魔王さま」
初めて書くジャンルでお見苦しいところが多々あると思いますが、ご感想と改善点を教えて頂けたら幸いです。