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心の距離

「……きよ……お……と…言……ておる」


 遠くから声が聞こえる。

 誰の声だ?

 妙に……懐かしい。

 どこかで――聞き覚えのあるような……。


「起きよと言うておるのじゃ!」


 寝ている尻に突如として走った衝撃によって、俺は強制的に夢の世界から現実に引き戻され、気づいた時にはコットごと空中に放り投げられていた。

 状況も把握できないまま宙を彷徨さまよい、成すすべもなく地面へと落下する。


~~~~ッてぇな!

 誰が……初音? お前、もう動けるのか!?」


「ふん、ただの風邪で深刻に考え過ぎじゃ!

 此度こたびは不覚を取ってしもうたがの…」


 本人は知ってか知らずか、放置すれば命に届き得る邪風じゃふうをただの風邪と自称する。

 いや、恐らく気づいた上で強がったのだろう。

 不遜ふそんな態度で腕組みしたまま口ごもる初音。

 僅かに何か聞こえた気がしたので聞き返すと…。


「み、耳囂みみがましや! 二度とは言わぬぞ!

 か、感謝としておると言うたのじゃ!」


 直後に袖で顔を隠そうとするが、パジャマでは袖丈そでたけが足りずに真っ赤な顔がしっかりと見えてしまっている。

 それが更に恥ずかしいのか、とうとう後ろを向いてしまったが、背後からも分かる程に耳は真っ赤に染まっていた。

 開け放たれたテントには昨日の竹筒が転がっており、ちゃんと残さず食べてくれたらしい。

 そうだ、口調は高圧的で傲慢ごうまんながらも、この子は人の気持ちを無駄にするような事は決してしない。

 ギンレイは初音が復調した喜びを全身で表現し、無垢な瞳で赤い顔を見上げている。


「な、なんじゃ! 今は向こうへ行っておれ!」


 赤面した様子を見られないように命令したり、顔を向き直したりしても無邪気なギンレイは一切構わず、素早く回り込んで見上げてくるので、八方塞がりになった初音はしゃがんで顔を覆ってしまう。

 ただでさえ小さいのに、身を屈めてしまえば待っているのはギンレイお得意のペロペロ攻撃だ。

 顔をなめつくす勢いで繰り出される攻撃によって意固地いこじな砦はもろくも陥落し、こらえきれずに吹き出すも狼は追撃の手を緩めない。


「ぷはぁ! や、やめぇ! わか…分かった!

 分かったから……くふっふふ!」


 遂に降伏した初音の手を取って起こすと、いつもの笑顔の裏に、少しだけ恥ずかしそうな表情が見え隠れしていた。

 えて触れようとはしなかったものの、俺は内心で初音との距離が以前よりも近づいているのを実感していた。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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