表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/300

熊をも殺す猛毒の蜜

「休んでる暇はない。

 どこかで栄養価の高い食材を見つけないと…」


 辺りを見渡しても動物どころか魚の影すら見当たらず、鳥のさえずりすら聞こえてこない不気味な静けさが漂う。

 ここまでの道中、数え切れない程の動植物を目にしてきたのに、どうしてこの一帯だけ?

 その時、視界に広がるヒメユリトウロウが目につき、求めていた答えに自然とたどり着く。


「そうか、猛毒の花が一面に群生してるから、他の動植物は入り込む余地がないんだ」


 自然は人間が思うような優しい世界ではない。

 時にはヒトよりも利己的であり、残酷であり、己の子孫を残す為には手段を選ばないのだ。

 こうして比類なき猛毒を備えた仲間達が一つにまとまる事で、最も繁殖に適した場所を独占している事からも明白な事実。

 その為、この近辺で食料を得るのは難しいと考えるべきだろう。


「どうする……一体どうすれば……」


 幸い、ドラム缶の中には保存食のリエットが入っており、食べる分には困らないのだが、如何いかんせん病人に与えるには消化が悪いと言わざるを得ない。

 風に揺れるヒメユリトウロウを遠目に眺めて考える内、ある考えが頭をよぎる。

 ――よぎって……しまった。


「花の蜜……確か、栄養価が高いと書いてあったぞ。だけど……けど……」


 ヒメユリトウロウの蜜は熊をも即死させる猛毒。

 しかも、『異世界の歩き方』には無毒化の方法は記されておらず、どうすればいいのか見当もつかない。

 身を焦がす思いで本を見つめていると、ギンレイが花の方を向いて吠え始めた。


「待て待て、アレが危ないのは分かってるよ。

 それより、初音が休んでるから静かに……」


 ――何かが動いた。

 あれは風とか、気のせいなんかじゃない!

 小さな花の周りを飛ぶ小さな物体。

 俺の目はまさに釘付けとなり、脇目も振らずに駆け出していた。


「コイツは――蜜蜂ミツバチ

 花粉を集める昆虫…どうして猛毒の花粉に触れても無事でいられるんだ!?」


 ギンレイがくれた貴重なヒント。

 ハチの名前はヒメゴトミツバチと言い、『異世界の歩き方』には……体内の特殊な酵素で花の毒を中和できると書いてある!

 だとすれば、ハチの向かう先には…。


「あった! 岩の亀裂に営巣してるぞ!」


 小指が入るかどうかの狭い隙間から、ヒメゴトミツバチが顔を出して威嚇いかくしている。

 そして、巣から漂う濃厚な甘い香りは、間違いなくハチミツに他ならない!

 だが、俺が確信すると同時に飛び出してきた無数の兵隊蜂へいたいバチによって、一時撤退を余儀よぎなくされてしまう。


「危ッねぇ! けど、ハチミツは手に入れる。

 絶対の絶対にだ!」


 病床に伏せる初音の為、極上のハチミツを巡る攻防戦が幕を開けた。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ