ウチの犬が忠犬すぎて困る
「兎に角、Awazonで必要な物を全部揃える!」
各種の風邪薬を筆頭に、大量の冷却シートや冷水で凍るネックリング、同じく水を使う冷感タオルの他に、日差しを避ける大型のタープも購入する。
ドラム缶の中に残っていた氷も全て使い、高熱を下げる為に打てる手段は全て行う。
「そうだ、汗を掻いたから着替えも必要だな。
ーー着替え? 誰が着せ替えるんだ?」
ギンレイに視線を移すと…気のせいか?
幼い狼から無言の圧を感じる…。
物音を立てないようにテントを覗くと、顔中に冷却シートを貼りつけ、ネックリングまで装着した初音が荒い息をついている。
もう少し回復すれば自分で着替えられるかもしれない。
しかし、テントから離れようとする俺を引き留めるつもりなのか、ギンレイが前足でガッチリと掴み、警告めいた唸り声まで発する始末。
「わ、分かってるよ!
ここで逃げたら男が廃るって言いたいんだろ?
お前はもう少し犬らしく振る舞えよ!」
ウチの犬が忠犬すぎて困る。
ギンレイに出入口を塞がれてしまった結果、再びテントに戻った俺は小声で遠慮がちに声を掛けた。
「初音さん…起きてますか…?」
「………………」
返ってきたのは熱を帯びた吐息のみ。
本当に寝ているのか、それとも返事ができない程に苦しいのか判別がつかない。
もう一度振り返るがギンレイは一歩も退かず、場合によっては噛みついてでも着替えを実行させる構えだ。
再び言わせて頂く。
ウチの犬が忠犬すぎて辛い。
「あー、別に妙な気はないからな?
つーか、子供相手にそんな…あり得ねぇし」
不退転の決意で汗だくのシャツをめくり上げると――アカン!
これは…子供の胸どころじゃない!
前に付き合ってた彼女よりも遥かに大きく、かなり立派な部類に入るサイズだ…。
「おいおいおい…。いや、知ってたけどね?
初めて会った時から気づいてたけどね?
けどさぁ、こう……違うじゃん。
想定されてない事態ってゆうか…なぁ?」
自分でもアホらしくなる程の雑な言い訳の数々。
この間に起きてくれれば万事解決――とはならず、依然として眠ったまま。
こうなっては仕方がない。
意を決して初音の衣服に手を伸ばすも、視線は明後日の方向を見ているので意図せずして色々と触ってしまい、焦りに焦る。
「無心だ…心を無にしろよ四万十 葦拿。
大丈夫、相手は子供!
俺は着替えを手伝ってるだけに過ぎん!」
気合いゲージをマックスまで引き上げ、一思いにシャツを剥ぎ取ると…おぉ、仏陀クライスト!
小さな体に見合わず実りに実った二つのたわわ。
ここまできたら、もう後戻りなど不可能。
一気にラップショーツまで引き抜くと買っておいたパジャマを着せ、転がるようにしてテントから這い出る。
「はぁ、はぁ……どうだ!
俺の勇姿を見てたよな!?
俺、最後まで逃げずにやり遂げただろ、ギンレイ!」
大役を果たした勇者の顔を愛犬の熱烈なペロペロが労う。
だが、やるべき事はまだまだ山積している。
次は、栄養たっぷりの食事を用意しなければならないのだ。