追跡者 (??別視点)
――やはり間違いない。
町での聞き込みで得た目撃情報から、神奈備の杜の入口に程近い岩の裂け目で生活の痕跡を見つけた。
足跡の数と大きさから判断するに、一組の男女と考えられるのだが……これは何だ?
草履とも下駄とも違う、複雑怪奇な…紋様?
渡来人の履物と思われる足跡は大きさが12文(約29cm)近く、裂け目を中心に広範囲に渡って移動している。
歩幅と足跡で算出した身の丈は5尺9寸から6尺。
足跡の深さから目方(体重)20貫前後。
かなり活発に行動している事から健康状態は良好で、一切の痕跡を消さずに行動している事を考えても、どこぞの罪人や食詰め者とは一線を画す。
しかし、それら全てはどうでもよい。
それよりも遥かに肝要なのは――この足跡は何処から来たのか?
疑問と呼べるのは唯一、その点のみだろう。
道中の森で見つけた足跡は方々を彷徨い歩き、裂け目へと続いていたが……それ以前の物が全く見当たらない!
まるで地面から生えてきたかのように、突然降って湧いたとしか表現しようがないのだ。
このような怪訝は見聞きした覚えがない。
一方、女物の草履と思われる足跡は考察するまでもない。
ようやく姫様を見つけたのだ!
すぐにでも報告に戻らねばならないが、二つの足跡は共に行動しており、あろう事か杜の奥へと向かっているではないか!
これは一刻を争う事態であろう。
迷っている場合ではない!
それに加え、追跡しているのは当方に限った話ではないらしい。
隠蔽が困難な匂いを含めた痕跡の全てを…いや、それどころか気配すら完全に絶つ程の手練れの存在。
しかも、複数が同時に機会をうかがっている…。
「そこに居るのは分かっておる!
武辺者らしく堂々と姿をみせよ!」
――予想通り、愚弄にも乗ってこない。
否、当方の狙いすら見破られたか。
岩壁に反射する声の微妙な変化を読み取り、相手の居場所を特定しようとするも、面妖な術で完全に防がれてしまったようだ。
斯様な業を持つ者など、泰平の世において久しく目にしてこなかった。
誰の差し金か知らぬが、波切りの異名を持つ矢旗 八兵衛の目を謀る事など笑止千万の極み!
必ずや先陣を切り、我らが姫様を救出してみせようぞ!
主君への忠義に燃える志士は決意を新たに、足跡を追って獰猛な獣が潜む深い森の奥へと突き進む――。
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どうやら、あしな達の知らないところで物語は別の展開をみせているようです。