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焚き火マスター シマメノウの使い方

 バックパックの奥に仕舞い込んでおいたモノを取り出すと、初音が興味深そうに手の中をのぞく。


「なんじゃこれは? ただの石……そうか!」


「流石に気づいたな。

 異世界日ノ本に住んでるならお馴染みだろ?」


 手にしているのはホームに居た頃、初音と一緒に採取したシマメノウ。

 あれから時間のある時に『異世界の歩き方』で調べた際、石の持つ性質を知って気になっていたのだ。

 シマメノウは鉄よりも遥かに硬く、互いを打ち付けた場合は鉄の方が負けて欠けてしまう程。

 その性質を利用して、異世界日ノ本では火打石ひうちいしとして広く使われている。


「自分で採った天然石でやるのは俺も初めてなんだけどさ、燃えやすい物を用意しといてから、こうやって鉄とシマメノウを強く擦り合わせると…」


 コツを掴むまで何度か試す内に、乾いた音と共に爪の先よりも小さな火花が飛び、手元の枯れ草の中で弱々しい赤色を灯す。

 吹き消さないように注意して息を送り、徐々に枯れ草から真っ白な煙が立ち上る頃、成長した火は新たな燃料を求めて燃え盛る。

 こうして自分で育てた火を見ていると、人間の原初を垣間かいま見た気分にさせてくれるから不思議だ。


「そういえば屋敷の女中じょちゅうも毎朝カチカチやっておったのう。…………家か」


 小枝を得て更に大きくなっていく炎を見て、ぽつりと初音がつぶやく。

 家出少女がホームに転がり込んでから数日が経ち、そろそろ家が恋しくなってきたのだろう。

 もし無事に女媧ジョカの呪いが解けたなら、初音を家に送り届けてやらないとな。


「…今日は最高の食材でフルコースにしよう。

 たっぷりとカニ料理を食わせてやるぞ!」


まことか!? それは楽しーーくしゅん!」


 くしゃみに反応してギンレイが駆け寄ってきた。

 狼なりの気遣いなのか、初音の足を伝う水滴をなめようとするが、ザラついた舌はくすぐったいだけで効果は薄い。

 俺はAwazonで適当な服とタオルを購入すると、焚き火で暖まる初音を残して料理の支度を整え始めた。


「よーし、高級食材を完璧に調理してやるぜ!」


 まずは下ごしらえから。

 締めたイワガニモドキをアワゾンで購入したタワシで綺麗に洗い、寸胴ずんどう鍋に入れて塩水で茹で上げる。

 決して生きたカニをいきなり熱湯に入れてはいけない。

 暴れて熱湯が飛び跳ねるだけでなく、危険を感じたカニは手足を自切じせつしてしまうから。

 そうなってしまうと、切断面から湯が入り込んでカニ味噌が流出し、旨味が損なわれる原因となる。


「ほーん、自分で手足を切り落とすとは天晴あっぱれな覚悟じゃな」


 着替えを済ませた初音が背後から眺め、彼女なりの感想を口にする。

 新しく買った登山用の服装は、額の角を除けば現実世界の山ガールと見分けがつかない。

 キャロットオレンジの鮮やかなラップショーツが印象的で、快活で目の離せない初音が身に着ければ、森の中でも非常に目立つので迷子予防になるだろう。


「知ってるか? 自切じせつした足は脱皮すると復活するんだぜ」


「え~? 嘘臭い話じゃのう~?

 それでは川や海がカニの足だらけになるではないか」


 そんな風に返されるとは思わなかった。

 カニ足で埋もれた水辺を想像して、ちょっとだけ苦笑いを浮かべてしまう。

 まぁ、今回に至っては同じく食べ放題と言っても過言ではない量がいるので、ある意味で現実の光景ではあるのだがね。


「下ごしらえ完了!

 さて、今夜は絶品イワガニモドキのフルコースだぞ!」


 いつの間にかテントに差していた陽の光は消えかけ、夜の時間が訪れようとしていた。

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