水辺の多属性ロリ巫女
それにしても、視界に映りきらない程の蟹に巡り会えるとは超絶ラッキー!
しかも、味は絶品とまで書いてある。
これは期待せずにはいられない!
早速ギンレイが捕まえてくれた個体を見ると雌のようで、ナイフを使って腹を開けてみれば、中にはギッシリと卵を抱えていた事からも、この時期は繁殖の為に大挙して生まれた川へと戻ってくる習性があるようだ。
「マ~ジっすか! 今夜のメニューは決まりだな」
水上で華麗なターンを決める初音を横目に、手頃なサイズのイワガニモドキ数匹をバケツに放り込んでからスマホを開く。
新たに購入したのは三人用のポップアップテント。
数多くあるテントの中からコレを選んだのは、雨の多い未踏の地での旅という事を考慮して、設置と撤収の早さを重視した。
夜間に大雨が降ったり、思った以上に川が増水した場合でも、手早く移動できる利点は大きいと考えたのだ。
「ちと目を離した隙に小屋が建っておるとはのう。
相も変わらず面妖な術じゃわい」
大自然を舞台にしたウォーターアクティビティは余程楽しかったのだろう。
背後から聞こえた声は上機嫌といった感じで、水辺から上がった初音の方へ振り返ると…。
「お、おい!
お前、流石にそれは…マズいっすよ!」
コイツはどこまで恥じらいがないのか…。
激しいトリックに挑戦した事で初音の衣服は大きくはだけ、たっぷりと水を吸った布地が素肌にピッタリと貼りつき、低身長に見合わない体型を浮き立たせていたのだが、当の本人は全く気にした様子もない。
こうなると見ている方が赤面してしまう。
「なんじゃ、そのような些事を言うておるのか。それよりも早う火を熾せ。漫ろ寒うて仕方ないわ」
「いやいやいや、小さくないって!
むしろ、今にも服から飛び出してきそうな大きさだって!」
イマイチ噛み合わない会話。
いくら言っても動じない初音に仕方なく視線をそらし、言われた通りファイヤースターターで火を熾すが、逆に俺の方が動揺して上手く火花が飛ばない。
相手は子供だってのに、何を童貞みたく焦りまくってんだ俺は…。
しかし、何度ストライカーを滑らせてもミスを連発してしまい、遂に痺れを切らした初音が自分でやると言い出した。
俺の手からファイヤースターターを強引に引ったくると、見よう見真似で火花を飛ばす。
「前からやってみたかったんじゃ!
これを……こうやって擦るだけなんじゃろ?
簡単かんた……んん…案外……全然火が出ぬぞ!」
「最初は表面を少し削るつもりで…いや、それよりも先に着替えてくれないか?
その…目のやり場というか……」
磨りたての墨を流したように黒い祭服は決して厚着とは言えず、むしろ意図不明な多数の隙間は、僅かに動くだけで事あるごとに素肌が見えてしまっていた。
この世界の祭事について詳しくないけど、殊更に動きやすさを重視しているのだけは理解できるが…一体、どんな変態がデザインしたんだ?
「もうすぐで火がつきそうなんじゃ!
衣更など後でよい!
この…このっ! 何故上手くゆかぬ!? うりぁ!
――おや? おぉ、ぶっだくらいすと」
「おいいい! 折れてもうてるやんけ!」
正確には驚異的馬鹿パワーでロッドが縦方向へ半分に裂けたのだが、吹っ飛んだ残りは粉々に砕け散ってしまったらしい。
おいおい、山盛りの馬鹿と冗談を総動員したとしても、ファイヤースターターがこんな折れ方をしたなんて話は聞いた事がないぞ…。
使用回数が一気に半分以下になってしまったが、これを使いきった人はいないんじゃないか?
「あー、すまぬ。もしや火が使えぬのか?
ワシら、ずぶ濡れで食膳もままならぬか?」
「いや、心配するな。
ちょうど以前から試してみたい事があったんだ」