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剛vs柔 プライドを賭けた戦い

「あー、腹がへったのう……あしなのせいでのう~」


「自分のせいだろーが」


 昼飯を抜かれた初音は不満げな顔を向け、反省した様子もなく、近くにあった大きな岩に腰掛けた。

 ギンレイが岩に向かって吠えていたので、また落ちるのではないかと心配しているようだ。

 あれから崖の途中にあったドラム缶をどうにか引き上げ、キャンプを再開したものの、道中は険しさを増すばかり。

 油断すれば先程のような転落が再び起ても不思議ではなく、より一層の注意が必要な道が続く。


「どこぞに『けーき』でも落ちとらんかのう」


「流石に異世界でもケーキは生えて……ん?」


 気のせいか、座っていた初音の位置が急に変わったように見えた。

 だが、ここでもギンレイは素早く異変に気づき、俺達に知らせてくれていたのだ。


「…お? おぉ…動い……なんじゃぁあ!?」


 慌てて飛び降りた初音を空中で受け止め、突然動き出した岩へ身構えると…。


「亀!? しかも…デカいぞ!」


 岩だと思い込んでいたのは、現実世界でもお馴染みの亀。

 野太い四本の足と伸び縮みする首。

 感情が読み取れない顔は泥にまみれ、俺達を気にした素振りも見せない。

 苔むした甲羅には無数の植物やキノコが生え、何十年も生きているという風格を漂わせている。

『異世界の歩き方』によると名前はゾウガメオキナ。

 非常に堅牢な甲羅に守られ、寿命は数百年にも及ぶ亀の稀少種らしい。

 年齢に比例して甲羅も大きくなるそうで、この個体は体長が2mを超えているにも関わらず、100歳前後の若い部類との事。


「…って事はだぞ、これよりもっとデカい奴が居るってのか!」


 鈍重な動きで一歩進むごとに地響きを鳴らす様子は泰然たいぜんとしており、太古の時代を生きた恐竜を彷彿ほうふつとさせる姿は圧巻の一言に尽きる。

 その一方でゾウガメオキナの穏やかな顔を観察すると、名前の由来となったひげが口元から伸びており、どこかコミカルな印象を受けた。

 どうやら大人しい草食性の生き物のようだ。


「よいよい、小さくともワシの昼餉ひるげには丁度よいわ!」


「まさか…コイツを狩るつもりか!?」


 腹を空かせた初音が走り寄るとゾウガメオキナは敵対行動と見なし、顔と足を引っ込めて防御の構えをみせた。

 鬼の力と亀の甲羅。

 互いの自慢が衝突すると聞いた事のない破裂音が響き渡り、生み出された衝撃波によって一帯の木々が激しく揺れ、砂煙が舞い上がって視界を覆ってしまう。

 ようやく先が見通せた頃には、微動だにしない両者が立ち尽くしていた。


「おい! 大丈夫か!?」


「~~っっっ痛ぁぁぁあああ!!」


 真っ赤になった右手を抱え、涙目でゴロゴロと地面を転がる初音。

 一方の対戦相手は、勝利を確信すると再び手足を伸ばして悠然と去っていった。

 今まで常識外れなパワーを見せつけてきた鬼娘が、上には上がいるという事を思い知らされたのだろう。

 唯一の心配だった右手は骨や靭帯に異常はなく、その点は一安心といったところか。

 つーか、あの衝突で無事だったとか…お前の拳も相当に堅いぞ。


「おのれぇぇえ! 次こそはみておれよぉ!」


 鬼としてのプライドを粉砕された初音は、ギンレイの献身的なペロペロ介護を受けて再戦を誓う。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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