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このクソガキがッ!

 道中は昨夜まで降り続いた雨の影響か、あちらこちらで小規模の土砂崩れが起きていた。

 元々雨量の多い地域という事もあり、崖と川が延々と続く土地は地盤が強いとは言えず、今にも崩落しかねない場所が無数に存在している。


「いつ斜面が崩れるか分からない。

 頭上と足元に気をつけて進もう」


「これくらいでおくしてどうする。

 ここはワシみずから手本を示してくれるわ!」


 いさみ足で駆け出した初音を慌てて呼び止めようとしたが間に合わず、あっと言う間もなく木の根に足を取られ、ゾッとする高さの崖から転落した!


「初音!? 初音ぇえ!!」


 肝が冷えたなんてモンじゃない。

 ほんの少し前まで笑顔を振りまいていた少女の姿が、永遠に消えてしまったという計り知れない喪失感によって、本来なら急いで駆けつけるべきなのに、全く足を動かせなかった。

 唖然あぜんとした視線と力なく伸ばした右手がちゅう彷徨さまよい、あるべき姿を探して名をつぶやく。

 当然、返ってくるはずもない……。

 あまりにも突然の出来事で…別れの言葉すら…。

 立ち上がる気力も尽き果て、地に平伏ひれふして泣きながら、何度も失った者の名を呼び続けた。


「うぅ……嘘だ……初音…初音ぇ……」


「うぷっ……くくっ……」


 幻聴――ではない!

 不意に聞こえた耳覚えのある声に反応して顔を上げると…。


「うっくく! 初音ぇって呼んだかの?

 よしよし、ここにゆえ安全致せ…くくっ!」


 イヤらしい笑みを満面に貼りつけた初音が、膝を抱えて俺を眺めていた。

 この非常識で世間知らずな性格は、幻覚でも幽霊でもない。

 間違いなく本物の初音本人だ!

 しかし、未だに信じられなかった俺は事態を飲み込みきれない。


「お、お前…崖から落ちたんじゃ…」


「落ちたのう。じゃが運よく背中の荷物が枝に引っ掛かっての、こうして難を逃れたという訳じゃよ」


 …………だったら、なーんでぐに返事しなかったんだ?

 コイツ、俺が絶望して泣いてる様子を面白がって見てやがったな。

 沸々《ふつふつ》と沸き上がってくる怒り。

 それを察したのか、ギンレイを楯にして必死の弁明を試みる初音。


「ま、まてまて! 勘違いしておったのはお主じゃろ?

 ワシはほら…ギ、ギンレは既に気づいておったしぃ…」


 しどろもどろになって後ずさりするが、これはライン超えなんて生易なまやさしいモノではない。

 取っ捕まえて尻叩きの刑だ!

 猛然と立ち上がって始まった鬼ごっこ。

 躾のなってない子供への正当な罰を身をもって教えてやる!


「待ちやがれ! このクソガキがッ!」


「イヤじゃイヤじゃ~♪ 手籠てごめにされる~」


 結局、初音はそのまま逃げ切ってしまい、代わりに昼飯抜きという罰を受けて激しく後悔するのだった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 長いキャンプの一幕といった感じのエピソード。

 互いの関係と心情を表現してみました。

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