表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/300

おやすみなさい

 ――小屋の周囲に渦巻く異常を察知したのは、食事を終えて就寝の準備に入った頃だった。

 ……何か、途轍とてつもなく巨大な()()()が小屋の周りを移動する音。

 俺と初音はそれぞれ分かれて隙間から外をうかがうが、そこには月明かりに照らされた森や草むらしかない。

 だが、確実に--音の発生源はすぐそこに存在しているのだ。

 声を出さずに初音の方を振り向くが、向こうも首を振っている。

 まだ相手の姿を見てはいない。

 しかし、こんな山奥で心霊現象じみた事をする奴には心当たりがあった。

 そう、俺に取りいているという女媧ストーカーしかいない!

 いつもならノックもなしに入ってくるはずが、今夜に限っては小屋をグルグルと周回するだけに留まっているという事は、初音が張ってくれた注連縄しめなわの結界が効いているのだろう。

 雨によって湿った地面から聞こえるズルズルという不快な音はその後も続き、およそ1時間程で聞こえなくなった。


「……行ったか?」


「恐らくな。

 それにしてもお主、大層気に入られたのう。

 絶世の美女と伝わる女媧ジョカ様の御目おんめに掛かったのじゃ、男子おのこの本懐であろう?」


「アホか。

 こっちは命がかってんだよ!

 ……まぁ、すげぇ美人だったのは否定しないけどさ」


 分からない事だらけながらも、こうして何度も女媧ジョカと遭遇する内に、少しずつ傾向が掴めてきた。

 まず一つに俺達が移動すると相手も後を追うが、1~2日は時間が稼げる事。

 そして過去の経験則として、奴が姿を現すのは決まって夜だという事。

 最後に先程も見た通り、注連縄しめなわの結界によって小屋への侵入を防いだ事。

 にもかくにも、物理的強攻策が一切通じない相手に対して、防御とはいえ有効な対策が判明したのは大きい!

 現状では修験者を頼るのが最も確実だけど、万が一に備えて自前の対抗策を練っておくべきだろう。


「ここはもう限界かもしれん。

 朝早くに出発しよう」


「ふわぁぁ~、やっと寝れるのぅ~」


 大きな欠伸あくびから牙を覗かせた初音は眠そうな足取りでハンモックへと向かい、ゴロンと横になった。

 明日は早いと言ったばかりなので、俺の意見を受け入れてくれたのは素直に喜ばしい。

 ――喜ばしいのだが……。


「おい、そこは俺のハンモックだろーが」


「…そう遠慮するでないぞ美丈夫いけめんよ。

 普段なら絶対に有り得ん事じゃが今宵こよいだけは身分違いなれど、共に添い寝も許…」


 怖がりの鼻先に寝ているギンレイを押しつけ、仕方なく初音のハンモックで横になるが、自分の意思に反して体が大車輪めいた回転を起こし、ド派手な効果音と共に地面に転落した。

 何故なぜこうなったのか、考えるまでもない。

 フツフツと沸き起こる怒りを深呼吸で納め、見上げた先でハンモックの端を握り締める涙目の初音に声を掛ける。


「マジに無理な感じか?

 このまま一睡もさせないつもりかよ」


「…………まぢ……むりじゃ」


 怖いと思う感情に是非ぜひもなし。

 俺は無言のまま起き上がってハンモックに寝そべると、片手で布地を引っ張って僅かにスペースを広げた。

 そっぽを向いて寝たフリをしていると、初音は遠慮がちに入り込み、背中合わせの形を取る。

 正直、すげぇ寝辛ねづらい環境ながらも、背後から聞こえる静かな寝息は不思議な安堵感をもたらし、ほのかに伝わる体温がゆっくりと眠気を誘う。


 明日…も…早いから……おやすみ…なさい……。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ