あしなのキャンプ観
昼食は残った猪肉を食べて済ませた。
――いや、済ませたというには少々…語弊があるかもしれない。
「お、おい…無理してないか?
どう考えても食べ過ぎだろ!?」
「何を申すか。
心行くまで食事をするなど久しくなかった事。
それよりも『ほりにし』はもうないのかや?」
初音はリエットで使わなかった猪肉の部位を全て食べ尽くす勢いで、網焼きや串焼きのみならず、果てはダッチオーブンのフタを鉄板代わりにしてまで延々と食べ続けていた。
お陰で大事に取っておいた調味料は早々に使いきってしまったようだ。
それどころか、作ったばかりだったハトマメムギの蜂蜜和えまで全部食っちまってるじゃねーか!
隣ではギンレイが至福の顔のまま、ヘソ天で食い倒れている。
それにしても、そろそろ傷みが懸念され始めた肉だったとはいえ、遠慮なく消費できると分かった途端、解放された食欲は歯止めがぶっ壊れていたとしか言い様がないだろう。
「これら全てはワシの血肉となっておるのじゃ。
悩ましいのう。類い稀な美貌に加え、更に『えれがんつ』な身の丈を手にしてしまったわ!」
身長が伸びて困ってるだって?
行き倒れてた時からミリも変わってねーよ!
しかし、そんな事を口にしようものなら、間違いなくブチ殺がされてしまうので黙っておく。
沈黙の金に勝るモノはないのだ。
遅い昼食を済ませた頃、緩やかに蔓延していた雰囲気は気配を強め、俺の懸念はいよいよ現実味を帯びようとしていた。
「退屈じゃ~~!
何故に雨ばかり降りよる!
外にでたいでたいでたいでたい!」
遂に始まったよ―――終わりの始まりが。
生粋の駄々っ子である初音は変化のない小屋での時間に飽きてしまい、外に出たいと騒ぎだしてしまう。
一体どんな教育を施せばこうなってしまうのか…。
Awazonで雨具を買っても良いのだけど、流石に雨の中を一人で歩かせる訳にもいかず、かといって保存食作りを放棄してしまうのは勿体ない。
「仕方ないなぁ~。それじゃ今日は定番のキャンプ遊びを教えてやるよ」
「きゃんぷ自体が遊戯ではないのか?」
キャンプは決して遊びじゃない!
現代人にとって悟りを開く為の儀式である!
…などと個人的見解を述べたところで、聞く耳を持たないのは先刻承知。
それよりも暇をもて余した子供の相手をしつつ、やるべき仕事を終わらせる事が最優先事項だ。
それに初音の言い分も十分に理解できる。
キャンプを通じて人生における余暇の大切さを教えられた身として、ほんの少しの気晴らしが明日の活力とも成り得るのだから。
――いやいや、それは格好つけ過ぎだろ。
要は俺も退屈した時間に飽き飽きしてたんだ。
鍋の火は沸騰させないように、薪の量を調整して小さくしておいた。
ここは素直な気持ちで余暇を楽しむとしよう。