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雨キャンプの過ごし方

 翌朝、緩やかな小雨が降り続く中、突如として腕に走る激痛によって目を覚ます。


「あぁああおぁあぃ!!」


 アホみたいな悲鳴を上げて飛び起きると、未だに寝惚ねぼけたままの初音が俺の腕に噛みついていた。

 二本の鋭い牙はガッツリと食い込み、綺麗な歯形と大量のヨダレまでサービスして頂いたようで―――朝からキレそうですよ…。


「起・き・ろ!

 ほれほれ、駄肉がどうなってもいいのかな?」


 残った方の腕で初音の頬を引っ張ってやると、つきたての餅みたいに白くて柔らかい。

 昨日のお礼とばかりに伸ばして遊んでいる最中さなか、今度は指を噛まれてしまった。


「ああおえがぁぁあああああ!!」


 食い千切られる一歩手前で指を引き抜き、自らの愚かな行いに心底後悔し、冗談抜きの本気で泣いた。

 隣のハンモックで寝ていたギンレイは飼い主の心配など微塵も感じさせず、興味なさげに大きな欠伸あくびを一つすると、再び夢の中へと戻っていった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「その指はどうしたんじゃ?

 いつ怪我などした?」


「うるせーよアホ!」


 ようやく目を覚ました初音は俺の指を見るなり気遣いの言葉を掛けたが、そもそもの原因はお前なんだよチクショー!

 幸い、噛み跡は深かったのに出血はしておらず、Awazonで購入した包帯を巻いて朝食の準備を進める。

 小屋の隙間から空模様をうかがい、止みそうにない雨を一瞥いちべつして溜め息をつく。


「今日は小屋に留まろう。

 この先がどうなってるのか分からない以上、無理をして滑落でもしたら大変だからさ」


 休みと聞いた初音はギンレイを抱えて喜び、ハンモックの上で遊び始めた。

 ここで足止めされるのは本意ではないけれど、考えようによっては多くのメリットが得られるのだ。

 まず始めに挙げられるのは、安全が確保された小屋での休息。

 地形や天候の情報が一切手に入らない現在の状況において、安全に寝泊まりできる場所というのは得難い存在であり、今後更にけわしい道が続くのであれば、ここで鋭気を養っておけば後々が楽になる。

 その他、ホームとの中継地点という側面まで持ち合わせている点も見逃せない。


 次いで挙げられるのが、メインの食料であるドラム缶入りの猪肉。

 まだ氷漬けの状態を維持してはいるものの、初夏の陽気を考えると長続きするとは思えず、安心はできない。

 なので、この機会を利用して長期保存が可能な保存食にしておこうと考えた。

 他にも、乾燥の済んでいないハトマメムギの処理やAwazonでの買い物など、挙げだしたらキリがない程にやるべき事は山積みだ。


「はーらーがーへっーたー」


 危機感など皆無といった感じのユルい声が届き、初音がジタバタともがくギンレイのピンと張った耳を甘噛みして遊んでいる。

 早急に朝食を用意しなければ、愛犬の耳が喰われてしまうのは時間の問題だろう。


「やれやれ、それでは空腹の初音さんの為にも、今朝はスペシャルメニューにしますかね」


「やったー! すぺしゃーる!」


 意味分かって言ってんのかな…。

 俺は呆れつつも昨夜の一件を思い出し、元気を取り戻してくれた事に少しだけ安堵していた。

 アウトドア生活は楽しい反面、毎日続くとなれば常に体調や精神状態に気を配らなければならず、時には旅程を遅らせて完全なオフと割り切ってしまう事も必要だろう。

 そう考えれば多少の足止めも苦にはならないし、異世界の食材をのんびり調理する絶好の機会とも言えるのだから。

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