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鬼娘の意外な弱点

「……は? まさか…怪談とかダメなタイプ?」


 たおやかな曲線を描く華奢きゃしゃな肩を震わせ、何度もうなずく初音。

 オイオイオイ、聞いてた話と違うじゃん。

 心霊系相手なら最強とか言ってなかったか?

 豪放磊落ごうほうらいらくな態度も、自由奔放な発言も、今や彼女の代名詞とも言える要素は影を潜め、別人のように涙を流していた。

 ギンレイが心配そうに頬をなめようとするが、それすらも拒絶してしまう。


「あー……その、あれだよ。

 声が聞こえたってのは気のせいだった!

 うん、そんな気がしただけ!」


 これだけ怯えてる女の子を前にして、自分が耳にした声など主張できるはずもなく、意に反してバレバレのうそをつくしかなかった。

 だが、今夜の初音はどう表現するべきなのか――明らかに、いつもと違った。


「ほんと? うそじゃないよね?」


「う、ウソじゃないです!」


 意図せずしてウソが上乗せされていく。

 この調子だとピノキオもびっくりの鼻高々になっちまうぞ…。

 しかし、驚いた事に俺の言葉を真に受けた初音は安堵の溜め息をつき、うるんだ瞳で体を預けるという、これまでなら考えられない行動を取った!


「えぇ!? あの……初音…さん……ですよね?」


「うぅ…こわかったぁぁぁ……」


 思わず本人確認をしてしまうという天然ボケを完璧にスルーされ、胸の中で再び泣き出してしまう。

 悪い冗談だと勘違いする程の豹変ひょうへんぶりにペースを乱され、未だに怖がる理由を聞けてはいないのだが…いや、苦手なモノの理由など大した問題じゃない。

 要するに、初音は幼い見た目相応に、幽霊や心霊系が怖くて仕方がなかったのだ。


「だったらお前、女媧ジョカの時はかなり無理してたんじゃないか?」


「うん……だって、そうしないと…あしなが…しんじゃうとおもったから……」


 普段は妙な老人語を話しているのに、口調まで幼くなってしまうとは…。

 とはいえ、女媧ジョカに迫られた際には相当無理をさせてしまったのを今更ながらに気づく。


「そ、そうだったのか。

 ごめんな…けど、そろそろ離れて――」


「イヤ! ひとりはイヤ!」


 気まずさに耐えかねて離れようとした俺を放すまいと、小さな手を一杯に広げ、更に強く抱きつく初音。

 普段とまるで違う姿は庇護ひご欲を刺激し、思わず抱き締めてしまいたい欲求が俺を駆り立てたのだが――……待てよ…待て…待て待て待て!!


「はぁ…づぅね…! おち、おぢづげぇッ!」


 あまりにも幼い容姿と涙のせいで忘れていた。

 コイツの尋常ではない鬼パワーを!

 鬼の前ではジムで鍛えた肉体などハンペンと大差なく、万力の如くキマった両腕は一片の慈悲すら感じさせず内臓を押し潰す!

 メキメキと悲鳴を上げる肋骨の音を聞きながら、暗闇の淵へちようとしている意識を気合いで繋ぎ止める。


「いっしょにねてくれなきゃイヤ!」


 ……断れば死ぬ。

 俺に拒否権などという甘えは最初から存在しなかった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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