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新たな調味料、ケチャップ作り

 小屋に戻ると日没間近。

 しかも、運の悪い事に昼間は晴天だった空模様も、今は暗雲が立ち込めて怪しい気配。

 俺達は急いで川原へ行って手を洗い、水を確保して戻った直後、バケツをひっくり返したような雨が降ってきた。


「あっぶねぇ~ギリセーフ!

 オイオイ…すんげぇ降ってんじゃん」


「むしろ幸運かもしれぬぞ。荒屋あばらやとはいえ、こうして一晩の宿を得たのじゃからの」


 初音の言う事は正しい。

 これだけの雨量に見舞われれば、たとえ撥水はっすい性能の高いテントを購入したとしても到底防げず、下手をすれば水没していた可能性もある。

 どうやら神奈備かんなびもりは他の地域と比べて年間雨量が極端に多く、こうしたゲリラ豪雨は珍しくないらしい。


「一説には雨を司る竜神の住まう土地とされ、日照りになると近隣の村々は降雨を求め、この地で人身御供を立てて祈りを捧げておるそうじゃ」


「人身御供……それって生贄いけにえかよ……」


 現代人には理解し難い風習。

 しかし、昔の日本では当たり前に行われていた祭事であり、科学の発達していない当時の事情を考えれば、死活問題に直結する水不足を解決するには神にすがるしかなかったのだろう。

 それにしても、だ――。


「なーんで夜の山ん中で怖い話をするかね?

 しかも…死体のあった小屋でさぁ」


「ワシは加護を受けた巫女じゃからの。

 悪霊や妖怪の類いなど恐れぬわ」


 少しは俺の心配しろって言ってんの!

 山盛りのクレームをつけたい気分をどうにか抑え、本日の夕食を準備する。

 昼間にステーキを食べてしまったので夜は別の物にしたかったのだが、生憎あいにくまともな食料は猪肉これしかない。


「ワシは一向に構わんッ!

 なんなら毎日三食でもよし!」


「俺が胃もたれするわ!」


 メタボ不可避の宣言は無視するとして、また焼き肉というのは芸に乏しい。

 かといって、外は御覧の大雨なので食材を探しに行けるような状況でもないとなれば、手持ちだけで作るしかないのだ。


「ここに来るまでの間、色々と採取しといたからな。それを使えば……うん、なんとかなるぞ!」


 幸い、ここには薪や炭が大量に残されている。

 燃料と時間はたっぷりあるし、ちょっと凝った料理に挑戦してみよう!

 まずソースの()となるのはベニワラベ。

 見た目は白くて小さなミニトマトに、頬の紅潮を思わせる赤い斑点はんてんが特徴だ。

 小さいながらも強い酸味を持ち、そのままでは酸っぱくて食べられないが、熱を加えると仄かな甘味が出ると『異世界の歩き方』には記載されている。

 みじん切りにしてみると中は真っ白な果肉が詰まっており、完成後の姿に期待が高まっていく。


「今まで食した物とは随分違うのう。

 それゆえ、先の想像ができんわ」


「俺がいた世界でもあまり見かけなかったよ」


 果肉の印象は強いて言うならライチが近いだろうか?

 スキレット鍋にベニワラベとカドデバナの酢を少々加え、数種類のハーブにサンシュウショウと塩砂糖で味を整える。


「おっと、コイツを忘れるところだった」


 取り出したのは新たに見つけた植物カエンボシ。

 一見すると筒上の枯れ枝にしか見えないのだが、中を割ると小さくて黒い種子が無数に入っている。

 外に出した瞬間から香辛料特有の強烈な香りが立ち、特に肉料理で役立ちそうな予感を秘めていた。

 食材としての主張がかなり激しいので、様子を見ながら少しずつ投入していく。


「後は鍋に水を適量入れて煮詰めれば完成!」


「え? このトロロみたいなのが?

 こんな物、腹の足しにもならぬぞ!」


 腹を空かせた初音が文句をつけるが無理もない。

 これは色身こそ真っ白だけど、味の方は立派なトマトケチャップなのだ。


「待て待て、そう慌てんなって!

 今夜は完成したばかりの特製ケチャップを使ったミネストローネなんだからさ!」

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