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優先すべきは納得

 条件反射というべきなのか、慌てた拍子に自分の意思とはまるで正反対の行動を取った挙げ句、更に慌ててパニくってしまった!


「うわぁぁあああ! ご、ごめんなさいぃ!」


「あーあ、呪われるぅ~呪われた~♪

 ワシゃ関係ないもんね。知らんからの~。

 もう巫女舞も祝詞のりともせぬぞよ~」


 コイツ…それが神職に従事する巫女の言う事か?

 子供相手に本気でブチ切れそうになったが崖っぷちでこらえる。

 そうだ、今はチンチクリンのクソガキに構っている場合ではない。

 慎重に骨を拾い上げて見ると、やはり間違いなく人間の頭蓋骨だ。


「呪いとかあるワケねーし!」


 悔しまぎれに言い返してやるが、絶賛呪われ中の身で言っても説得力がないのは重々承知。

 しかし、このホトケ……何があった?

 わざわざ小屋の最も奥まった隙間に体をうずめ、隠れるような体勢のまま亡くなっていた。


「これは……何かに襲われた…とか?」


「ほう、斯様かような山奥でか?

 下手人は何者かのう…」


 刑事じゃないんだし、犯人とか分かんねーよ。

 ランタンに照らされた遺体は全身が白骨化しており、衣服は着用しているが他に遺留品らしき物は見当たらない。

 一見して何の手掛かりもないように思えたが…。


「けど、死因は――少なくとも餓死とか脱水なんじゃないかな。ほら、衣服に血がついてないだろ?」


「絞殺や服毒の可能性もあろう。

 それも検分とは言えぬ、想像の域であるが…」


 首のない骸骨は体育座りの姿勢でこちらを向き、無言のメッセージを送っているようだった。

 これ以上の事は知るよしもないけれど、誰にもとむらわれずに埋葬すらされないままというのは、あまりにも不憫ふびんだ。


「あしな? どうするつもりじゃ」


 地面に貼り付いた遺体を衣服ごと引き離し、少し離れた外の空地へと連れ出す。

 異世界キャンプが始まってからAwazonに頼る機会が増えてしまったが、今回に関してもやむ無しだろう。

 購入したのは折りたたみスコップ。

 手頃なサイズでくわにもなる可変式だ。


「お主、どこの誰とも分からぬ者を埋葬する気か。

 よいのか? 日没まで時間がないのじゃぞ」


「ああ、分かってるよ。

 けどさ、無料タダで泊めてもらうのも悪いだろ?」


 一宿一飯の恩義という訳じゃないが、理由があると人は進んで行動するものだ。

 ()()()()()()人助けをするなら尚更なおさらな。

 地面は腐葉土が積もった柔らかい土に覆われ、比較的簡単に掘り進める事ができた。

 しかし、しばらくすると木の根や石が邪魔をして、中々の重労働だという事実が判明する。 


「そういえば聞いた事があるぞ。

 ヤ○ザが山に遺体を埋めないのは、メッチャ苦労するからってさ。確かに、こりゃ穴掘ってる時に誰かに見られちまうって!」


「素敵な知識じゃのう。

 全ッ然、役に立たんがの」


 持っていた斧とナイフで根っこを切り、いくつもの石を掘り出して、ようやく人が入れるスペースの穴ができた。

 気づけば時刻は16時を過ぎて日没間近。

 俺達は丁重に埋葬を済ませると花を手向たむけ、静かに人知れぬ者の冥福を祈った。


「……ほんに、お人好しにも程があろう。

 おそらく、あの者の出自しゅつじは――」


「死人が誰かなんて関係ないさ。

 さてと、手を洗って消毒したら夕食にしようぜ」


 良い事をしたなんて思っちゃいない。

 人生なんて自己満足の連続なんだから…。

 キャンプだって住みやすい自宅を出て、わざわざ人里離れた不便な場所で過ごすだろ?

 そう考えると俺の行動は、俺自身が納得したいからそうしただけ。

 納得さえすれば、人生で起こり得る理不尽も多少は受け入れられる――かもしれないな。

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